5 / 5
5
しおりを挟む
一カ月後、隣国の公爵邸にて。
「でも良かったわ。奥様の実家が領民ごと受け入れてくれるなんて。太っ腹ですね」
「私が大切にしている人達は、家族も同然だって。昔から優しい弟なのよ」
現在オーロラの祖国、レイン帝国ではオーロラの弟が皇帝の座についている。
オーロラの輿入れの実情は、ロルン王国に買われたも同然だったらしい。
聖女と引き換えに金や鉱山の権利を得たレイン帝国は、どうにか財政を立て直した。そして貧しさの原因を作り娘を売った父を廃し、弟が後を継いだのだ。
これまでも帝国に戻ってくるように度々手紙が届いてたようだが、縁あって輿入れした国だからとオーロラは帰国を迷っていたのだ。
(奥様は優しすぎるのよ)
オーロラは正真正銘の聖女だ。
与えられた領地だってキャロットの両親とオーロラが来た当時は、本当に酷いものだった。
それがいつしか人が集まり館を建て、村として機能するまでたった数年。オーロラはグラッセ夫妻の改良した枯れた土地でも育つ苗のお陰だと喜んでいたが、聖女の力が無ければこんな順当に事は進まない。
だからオーロラがいなくなったロルン王国は、これから衰退するだろう。
レイン帝国を治めるオーロラの弟君には、全てを話してある。彼は姉の性格を知っているので、キャロットの復讐が知られることはない。むしろ感謝されたほどた。
強欲なバニラは王妃へ献上する前に自邸の庭に植えるはずだ。
皇太后にも媚びを売るために、密かに株分けするのは分かりきっている。
更にバニラは、自慢でマウントを取りたがるタイプだ。お茶会でべらべらと珍しい苗の話しをするに違いない。
そして見栄を張りたがる貴族は、バニラから言い値で苗を買う。
あっという間に「スーパー・ミント」は増殖する。そして増えた「スーパー・ミント」は交配の過程で香りを失い、単なる雑草と化す。
その繁縟力だけをそのままに。
根だけで繁殖範囲を広げるスーパー・ミントの情報は、既に周辺国に事情を通達してある。周辺国は国境沿いの地下に植物の根を防ぐ壁を作り、念のため駆除剤の製法も伝えておいた。
ロルン王国とレイン帝国の間には砂漠が広がっているので、乾燥に弱いスーパー・ミントは枯れてしまうので問題無い。
ついでに渡したもう一つの苗は、キャロットが試作した新種だ。元は栄養の少ない土地でも薪を取るために改良した品種だが、正直使いどころには困っていた。
他の草木を枯らさないために、その木は樹皮内に住まわせた微生物で岩を解かし栄養にして成長する。半年もすれば巨木になるが、その幹は堅く斧でも歯が立たない。それだけ力が強いので、栄養分として取り憑かれた岩は絡みつく根と幹に覆われ、まるで絞め殺されるようにして砕けてしまうのだ。
(もしあの絞め殺しの木を城の側に植えたら、どのくらいで倒壊するかしら?)
自分は聖女ではない、ただの庭師の娘だ。だから慈悲なんてないし、理不尽な虐めには倍返し上等である。
何より大好きな奥様を虐げた王族に、良い感情なんであるはずがない。
(自業自得だわ)
冷やしたミントティーを飲みながら、キャロットは思う。
***
その頃王都では、奇妙な草が騒動を起こしていた。
「何よこの雑草は!」
どこからともなく生えてくるそれは、香りが良かったのは最初だけ。貴族達の自慢の庭園は全て「スーパー・ミント」に浸食され見るも無惨な状況だ。
特に自慢の薔薇園をスーパー・ミントに浸食された王妃の怒りは凄まじい。
「これを持ち込んだのは、バニラ・ダイヤ公爵令嬢だったわね! ぶっ殺してやる!」
高値が付くと知って庭の隅へ密かに植えた事を棚上げし、王妃は地団駄を踏んで王族とは思えない下品な暴言を口にする。尤も、彼女は「某伯爵家の娘」とされているが、爵位は王が買い与えたもので本当はただの旅の踊り子だ。
怒りにまかせて花瓶を床に叩き付けた王妃に、ドミニクが恐る恐る進言する。
「お待ちください母上、良い知らせもございます」
「まあ、ドミニク……どうしたの?」
それまでのヒステリーが嘘のように、王妃は柔らかな笑みを浮かべて愛しい息子を手招いた。
「バニラ嬢が城の外壁に挿し木植した苗が根付きました。今は細い枝ですが、頑丈で剣でも斧でも歯が立ちません。これを国境沿いの拠点や城壁に植えれば、我が国は鉄壁の守りを手に入れられます。木が育った頃合いを見て、隣国に戦争を仕掛けてはいかがでしょう?」
バニラを婚約者の立場から排除するチャンスだったが、金をかけず城の防壁を作り出せるとなれば話は変わってくる。ロルン王国は戦力には自信があるが、防御の面で脆さを指摘されてきた。しかし息子の言うとおりなら、他国と戦になっても攻め入られることはない。
「……それなら、庭の件は不問にしましょう。でもスーパー・ミントの駆除と庭園の再生費用は公爵家が出すよう命じなさいね」
「寛大なお言葉、ありがとうございます母上」
これで一安心だと、ドミ
ニクはほっと息を吐く。
しかしスーパー・ミントは至る所にはびこり駆除は一向に進まない。
そして美しいと評判だった城も、一年を持たずに堅い木に覆われ倒壊した。
バニラとドミニク、王族達がどうなったか。それは推して知るべしである。
「でも良かったわ。奥様の実家が領民ごと受け入れてくれるなんて。太っ腹ですね」
「私が大切にしている人達は、家族も同然だって。昔から優しい弟なのよ」
現在オーロラの祖国、レイン帝国ではオーロラの弟が皇帝の座についている。
オーロラの輿入れの実情は、ロルン王国に買われたも同然だったらしい。
聖女と引き換えに金や鉱山の権利を得たレイン帝国は、どうにか財政を立て直した。そして貧しさの原因を作り娘を売った父を廃し、弟が後を継いだのだ。
これまでも帝国に戻ってくるように度々手紙が届いてたようだが、縁あって輿入れした国だからとオーロラは帰国を迷っていたのだ。
(奥様は優しすぎるのよ)
オーロラは正真正銘の聖女だ。
与えられた領地だってキャロットの両親とオーロラが来た当時は、本当に酷いものだった。
それがいつしか人が集まり館を建て、村として機能するまでたった数年。オーロラはグラッセ夫妻の改良した枯れた土地でも育つ苗のお陰だと喜んでいたが、聖女の力が無ければこんな順当に事は進まない。
だからオーロラがいなくなったロルン王国は、これから衰退するだろう。
レイン帝国を治めるオーロラの弟君には、全てを話してある。彼は姉の性格を知っているので、キャロットの復讐が知られることはない。むしろ感謝されたほどた。
強欲なバニラは王妃へ献上する前に自邸の庭に植えるはずだ。
皇太后にも媚びを売るために、密かに株分けするのは分かりきっている。
更にバニラは、自慢でマウントを取りたがるタイプだ。お茶会でべらべらと珍しい苗の話しをするに違いない。
そして見栄を張りたがる貴族は、バニラから言い値で苗を買う。
あっという間に「スーパー・ミント」は増殖する。そして増えた「スーパー・ミント」は交配の過程で香りを失い、単なる雑草と化す。
その繁縟力だけをそのままに。
根だけで繁殖範囲を広げるスーパー・ミントの情報は、既に周辺国に事情を通達してある。周辺国は国境沿いの地下に植物の根を防ぐ壁を作り、念のため駆除剤の製法も伝えておいた。
ロルン王国とレイン帝国の間には砂漠が広がっているので、乾燥に弱いスーパー・ミントは枯れてしまうので問題無い。
ついでに渡したもう一つの苗は、キャロットが試作した新種だ。元は栄養の少ない土地でも薪を取るために改良した品種だが、正直使いどころには困っていた。
他の草木を枯らさないために、その木は樹皮内に住まわせた微生物で岩を解かし栄養にして成長する。半年もすれば巨木になるが、その幹は堅く斧でも歯が立たない。それだけ力が強いので、栄養分として取り憑かれた岩は絡みつく根と幹に覆われ、まるで絞め殺されるようにして砕けてしまうのだ。
(もしあの絞め殺しの木を城の側に植えたら、どのくらいで倒壊するかしら?)
自分は聖女ではない、ただの庭師の娘だ。だから慈悲なんてないし、理不尽な虐めには倍返し上等である。
何より大好きな奥様を虐げた王族に、良い感情なんであるはずがない。
(自業自得だわ)
冷やしたミントティーを飲みながら、キャロットは思う。
***
その頃王都では、奇妙な草が騒動を起こしていた。
「何よこの雑草は!」
どこからともなく生えてくるそれは、香りが良かったのは最初だけ。貴族達の自慢の庭園は全て「スーパー・ミント」に浸食され見るも無惨な状況だ。
特に自慢の薔薇園をスーパー・ミントに浸食された王妃の怒りは凄まじい。
「これを持ち込んだのは、バニラ・ダイヤ公爵令嬢だったわね! ぶっ殺してやる!」
高値が付くと知って庭の隅へ密かに植えた事を棚上げし、王妃は地団駄を踏んで王族とは思えない下品な暴言を口にする。尤も、彼女は「某伯爵家の娘」とされているが、爵位は王が買い与えたもので本当はただの旅の踊り子だ。
怒りにまかせて花瓶を床に叩き付けた王妃に、ドミニクが恐る恐る進言する。
「お待ちください母上、良い知らせもございます」
「まあ、ドミニク……どうしたの?」
それまでのヒステリーが嘘のように、王妃は柔らかな笑みを浮かべて愛しい息子を手招いた。
「バニラ嬢が城の外壁に挿し木植した苗が根付きました。今は細い枝ですが、頑丈で剣でも斧でも歯が立ちません。これを国境沿いの拠点や城壁に植えれば、我が国は鉄壁の守りを手に入れられます。木が育った頃合いを見て、隣国に戦争を仕掛けてはいかがでしょう?」
バニラを婚約者の立場から排除するチャンスだったが、金をかけず城の防壁を作り出せるとなれば話は変わってくる。ロルン王国は戦力には自信があるが、防御の面で脆さを指摘されてきた。しかし息子の言うとおりなら、他国と戦になっても攻め入られることはない。
「……それなら、庭の件は不問にしましょう。でもスーパー・ミントの駆除と庭園の再生費用は公爵家が出すよう命じなさいね」
「寛大なお言葉、ありがとうございます母上」
これで一安心だと、ドミ
ニクはほっと息を吐く。
しかしスーパー・ミントは至る所にはびこり駆除は一向に進まない。
そして美しいと評判だった城も、一年を持たずに堅い木に覆われ倒壊した。
バニラとドミニク、王族達がどうなったか。それは推して知るべしである。
67
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
診断書を提出してください。
柊
ファンタジー
元々平民で人格者であった祖父が男爵位を賜ったことにより、「成金の偽善者」と陰口を叩かれるセドリック・トリエ。
それは婚約者である伯爵令嬢カテリーナ・ラドゥメグも例外ではなく、神経をすり減らす日々を送っていた。
そいてラドゥメグ伯爵家を訪れたセドリックと、父クレマンが切り出したことは……。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる