オオカミ様の契約婚約者になりました――兄がやらかしたので、逃げます!――

ととせ

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46 話すべきこと 2

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 何故か機嫌のよい弘城に、三葉は問いかける。

「あの、私頼み事ばかりしちゃって不快にならないんですか?」
「どうして? 私は君に我が儘を言ってもらえて嬉しいんだ」

 本当に嬉しいみたいで、少し考えてから三葉はおずおずと切り出す。

「弘城さん、もう一つお願いがあるんです」
「うん。何でも言って」

 江奈には羽立野家が何故両親を追い詰めたのか、理由が聞ければいいと言ったけれど……やはりそれだけでは、気が済まないこともある。

「父と母を弔わせてください」

 母は逃げた先の寺で供養してもらえたが、父に到っては遺骨も位牌もない。
 できるなら二人とも、神を奉る家の正式な作法で弔ってやりたいが、三葉にはお金もないし作法も知りようがないのだ。

「当然じゃないか。きちんと手配をするから、安心して」
「我が儘ばかりですみません。今回の事件が解決したら、婚約者じゃなくなるのに……」
「どうしてそんな悲しいことを言うのかな」

 急に弘城が眉尻を下げる。

「三葉さんは私が嫌いなのかな?」
「いえ、そういう訳では」

 この婚約は、大神家に匿ってもらうお礼としての意味合いが強い。無償で手を差し伸べることのできない弘城の申し出を、三葉が飲んだ形だ。
 だが今回の事件が解決すれば、彩愛と羽立野家はそれなりの罰を受けることになる。
 三葉も彼らを恐れて身を隠す必要もなくなるのだ。

「どちらにしろ私は羽立野家を離れますが、彼らが追ってくることは無いと思います。もちろん、匿ってくださった恩をなかったことにはしません。このまま住み込みで働かせてもらえれば、私としてはありがたいです」
「私は婚約を解消する気はないよ」
「そのことですが……」

 制約結婚に際しては、三葉が神憑である利点が強かったとも聞いている。しかし弘城もまた、神憑として選ばれた者だ。

「でも弘城さんも神憑でしょう? 私は必要ないですよね」

 自分に特別な価値がないなら、身分差も考慮して婚約は解消されるだろう。

「確かに婚約者として神憑であるのは魅力だけど、それだけで契約は持ちかけたりしない」

 弘城はこれまで三葉の人となりを見てきた。その上で、契約を継続したいと続ける。

「本家の跡取りは、殆どの場合自然と神憑になるんだ。だから最初から、三葉さんの能力だけを欲していた訳じゃない」
「じゃあ、どうして」
「ここまで話しても分からないかな」

 始めて弘城が苛立ちを露わにした。しかし怒っているというより、呆れを含んだ苦笑を浮かべている。

「三葉さんに気づいてほしいから、今は言わない。それより私は、婚約者として君が強くなれる手助けをしたい」
「手助け、ですか」

 十分助けてもらっていると三葉は思っているが、弘城からすれば足りないらしい。

「私は我が儘なんだ。気に入った相手が酷い侮辱を受けると我慢ならない」
「それは普通の人なら、同じ考えになると思います」

 友人が侮辱されれば怒って当然だ。

「だから私は、君の心に傷を付けた羽立野家の者達を許さない」
「?」
「これまで君に抑圧を強いた環境と人々を許せない」
「……どうしてそこまで私を気にかけ手くれるのか分かりません」
「婚約者を心配するのは当然だろう?」

 なんだか上手く誤魔化されてしまった気がするけれど、反論する上手い言葉が見つけられない。

「やっぱり分かりません」

 俯いたまま、三葉は小さく吐き出す。指先で膝の布をぎゅっとつまみ、視線を落とした。

「今は分からなくてもいいよ。――三葉さん、ハルさんを助けに行くつもりだろう?」

 穏やかな声に三葉は息を呑む。

「止めないんですか?」

 思わず問いかけると、弘城は目を細めて微笑む。

「止めてほしいのかな?」

 問いかけるように笑むその目は、すでに答えを知っているようだった。

「私も付いていきたいけど、するべき事がある」
「その気持ちだけで十分です。それに私には、逃げる力があるんですよね。だったら問題ありません」

 しっかりと彼を見つめて伝えると、苦笑が返される。

「分かった。ただし、無理はしないこと。ハルさんに会えなかったら、すぐ戻ると約束して」

 三葉がこくりと頷くと不意に弘城に手を引かれ抱き寄せられた。

「おまじないだよ」

 額に彼の唇が触れる。熱が灯ったように温かく感じるのは、気のせいではない。

「私の加護を付けたから、穢れは君に触れられない。ハルさん一人だけなら、彼女に付けられているだろうシエキも消せる。それでも困ったら、私の名前を呼びなさい。どんなに離れていても必ず駆けつける」

 真っ赤になって三葉は頷いた。
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