オオカミ様の契約婚約者になりました――兄がやらかしたので、逃げます!――

ととせ

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19 歌子と吹雪

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「あの家は狼の縄張りだからな。気が休まらない。だから三葉についてきた」
「分かりますわ。そこいら中に狼がうろうろしてますものね。――ご存じでしょうけど、私河菜歌子と申します」
「俺は屋敷の皆から力を預かって、三葉の護衛を申し出た吹雪と言う。昨夜三葉から名をもらった」
「あら素敵! 三葉様に名付けていただけたなんて羨ましいわ」
「歌子さん、お狐様が喋っても驚かないのね」

 平然と相づちを打つ歌子に驚いてしまう。

「だって三葉さんには、ずっと狐の気配がついていたもの。三葉さんが羽立野家から出たから、こちらの狐はやっと顕現けんげんできたのでしよう?」
「そのとおりだ」

 確か神排の力で狐たちの力が弱まったと吹雪も話していた。
 もっと早く叔父の嘘が分かっていれば、狐たちも苦しめずにすんだかもしれないと思うと胸が痛む。

「三葉が思い悩むことではない。三葉は何も知らなかったのだから仕方ないだろう」
「羽立野家は神排を招き入れてたでしょう? だから私も、込み入ったお話しはできなかったの。でもこれからは、気にせずお話しできますわ!」
「あの、今更なんだけれど。神排ってそんなに恐いものなの?」

 ここ数年、兄の明興の傾倒けいとうぶりは女中達でさえ気味悪がるほどだった。けれど神排はあくまで信仰を否定する思想で、所謂「特権階級の優越感を満たす」為の集まりだとばかり思っていた。

「変なことをしてるなって思っていたけど、乱暴な真似をしているふうではなかったし。明興お兄様は度々同士を集めて討論会を開いていただけで、……それもほとんど酒宴と変わらなかったわ」
「ええ、神やあやかしと関わりの無い人からすれば、少し羽目を外して遊んでいる方々。くらいの認識なのだけどね。私たち神を奉る側からすると、彼らの集まりで杯を交わすのは一種の儀式で、討論は呪文に近いかしら」
「歌子の指摘は半分当たりで半分外れだ。神排はゆっくりと人の心を蝕む。杯を交わし、語らう言葉に呪いを混ぜて魂を抜く」

 吹雪の言葉に、流石の歌子も驚いて目を見開く。

「それ邪法ですわよね。あの神排思想は、やはりよろしくありませんわ」
「ああ、だが消えかけていたとはいえ、我らの前で堂々と行う度胸はなかったようだ。しかし三葉とともに出て行った後はどうなるか」

 すると何か合点がいったのか、歌子が頷いた。

「それで、神棚を捨て始めたのですわね。羽立野家に出入りしている神排の者が、神棚から狐の気配が消えたことに気付いたんですわ」

 そこでふと、三葉は疑問を口にする。

「神排を理由に神様をぞんざいに扱うのは論外ですけど、他にも色々な理由で神様を手放す家はあったでしょう? その全てが没落したとは聞かないけれど、なにか違いがあるのかしら?」

 すると歌子は吹雪をちらと見る。

「……三葉は放置されていた私たちを救ってくれたが、奉る際のしきたりなどは知らないのだよ」
「そこまでとは思ってませんでした。これから分からない事があれば、何でも聞いてくださいね。でも何も知らないのに、吹雪と意思疎通できるなんてすごい事ですわ。やっばり三葉さんは特別ですわね!」
「三葉。俺達分霊は、正しい手順を踏めば問題無く本霊へと戻ることができるのだ。お前の言ったとおり、跡継ぎがいなかったり様々な事情で奉ることができなくなり手放す家は多くある。その場合はしきたりに従って、本霊へ返すのが礼儀だ」
「そうなのね」
「じゃあ、もしも神様が自発的に帰ったらどうなるの?」
「よっぽどの無礼を働かなければそんな事はおきませんわ。でも……神が自らの意思で出て行くという事は、その家を見放したと見做すべきでしょう。座敷童ざしきわらしの例がわかりやすいですわ」

 確か座敷童の場合は、住んでいる間はその家を繁栄させる。
 しかし出て行った途端、あっという間に落ちぶれるのだ。

「神とあやかしを同じことわりで括る事はできませんが。どちらにしろ、失礼を働いて神の怒りを買ったのなら相応の罰が返って来ますわ」
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