ドラゴンフィア〜ニートの休日〜

硝子

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脱社会の歯車

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暑い。唸る様な暑さだ。
なんと都心で過去最高気温が出たと、2ちゃんで見た。
尤ももっと部屋から一歩も出ず、絶賛ニート中のオレには関係無い事だが。

とある分野で働いていたが、出世の話が出て迷った挙句それを辞退した。
その時なんでこの仕事をしているのか分からなくなり辞めてしまった。
繋ぎでバイトでもしようと思っていたが早半年。
一歩も外に出ず、就活もせず、日々を過ごしていた。
正直未払いの保険代がやばい。
しかし、全てを忘れてオレは今日も寝る。

趣味の博打や酒も出来ず、タバコだけはなんとか文豪達が愛した第三級品を細々と吸っている。
三百三十円でバットを買って。嗚呼嬉しいな。ワンカップ片手にワルツを踊る。

そんな日々をただ重ねていた。
周りはせっせと働いている。
無常だというのに。

そんなある日、深夜の公園で死ぬほど安酒を飲んだ。
忘れたかったんだ。色々を。
嗚呼気持ち良い。
世界が悪いんだ。壊れてしまえ。
そのままベンチで眠ってしまった。
何時も座る木のベンチ。とても古く所々剥げている。
そんなベンチで初めて眠ってしまった。
世界が廻る。
嗚呼気持ち悪い。
そこでオレの世界は終わった。

…オレの(この)世界は終わった。











目を覚ますと、いつものベンチだ。
爽やかな風が通り抜ける。
ガンガンと鳴る頭を撫でながら歩き出す。
家へ帰ろう。
しかし、入り口が無い。
可笑しいと思い周りを見渡すと、そこは都心の公園では無く、森の中だった。
木々の中に小道が続いている。
死んだのか? なんだここは? 酔って迷ったか?
すると頭上を大きな塊が現れた。
あまりに大きすぎる赤い鱗の巨体を、風に乗せ飛んでいる。
「ド、ドラゴン?」
ふと声が出てしまった。
ドラゴンなんて映画でしか見たこと無いが、そのイメージそっくりそのままだった。
恐怖よりもその美しさに心を奪われた。
物凄い速さでその巨体は遠くへ消えてしまった。

とうとう頭がいかれて、毎夜妄想していた異世界へ来てしまったのだろうか?
精神的な何かだろうか?
最も古典的で信頼できるという、ホッペをつねるを試してみた。
酒で痺れているが確かに痛い。

こんな事を言うと可笑しいと思われるかもしれないが、オレの心は踊っていた。
毎夜妄想していたのだ。
とある日からオレは、現実に耐えられなくなり毎日妄想をする時間が長くなった。
それはこんなドラゴンが空を飛ぶファンタジーの世界。
それを思う時だけが、生きている感じがした。
そしてとうとうこんな事になるくらいいかれてしまったらしい。

とりあえず、ドラゴンが飛んで行った方へと歩き出した。
何故かあのドラゴンを追えと、心で声が聞こえた。

だが、空想の様に上手くはいかなかった。
すぐに喉の渇きと空腹に襲われた。
それでも歩き続けたが、とうとう倒れてしまった。
もう動けない。
少し寝よう…


「…ん…せん…ません…すいません!」
その声にハッとして目を覚ました。
目の前にはピンク色の髪をボブにした、少女が居る。
白い顔にピンクの唇。まるで映画の中の登場人物だ。
オレはそんな事を考えてボーッとしていた。

「大丈夫ですか?」
彼女が聞いてくる。
良かった。日本語だ。

「あ、すいません。大丈夫です!喉がカラカラですが」
そう言うとすぐに水筒を差し出してくれた。
それからパンもくれて、オレは感謝をしながら食べた。
それはあちらの世界で惰性で食べていた何よりも美味しく感じた。
いつの間に涙が溢れていた。

「聖域で倒れていて、黒髪黒目に変な服といえば十中八九異世界の旅人ですね!確か日本人とかいう…」
良かった。どうやら自分の様な人間が他にも居たらしい。
ならば話しが早い。
「はい。そうです。気付いたらこの世界に居まして」
彼女の目がパッと光る。
「やっぱり!やっと出会えたー。もっと簡単だと思っていたのに」
疑問に思い、探していたんですか?と聞いてみる。
彼女はとあるドラゴンを倒したくて、異世界の旅人を探して居たらしい。
異世界の旅人は皆特殊な力を持っていて、ドラゴンスレイヤーに一番近いと言われているらしい。
そんな事関係ない。帰りたいと言うと、どうやらドラゴンフィアというものが必要で、結局目的は一緒だと言われた。

「いやいや!でもオレ運動神経無いし、喧嘩も弱いし!した事ないけど」
「大丈夫です。サポートしますし、結局導かれるので」

よく分からず、ずっと話し合ったが結局一緒にドラゴンフィアを求めて旅をする事になった。まぁ、さっきまで死にそうになっていたので、この世界の知識がある人と旅ができるのは願ったりなのだが。

「分かったよ。でも足がすくんで進めなかったら置いて行ってくれ」
情けないのは百も承知だ。オレはビビリなのだ。
「分かりました。でもきっと大丈夫ですよ!」
どこからその自信はくるのだろうか?

「改めてまして!兎族のリリオと申します。」
そう言うと、隠れていた兎の耳を覗かせた。
「夢野 弥勒ミロクです。弥勒って呼んでください」
オレはそう答えた。
「弥勒さんですか!よろしくです!」
リリオはそう答えた。

オレ達は長い森を歩いていたが、そろそろ日が落ちると野営の準備を始めた。
あっという間に焚き火が準備され火を灯す。
食事を終え、酒を頂いていた。この世界に酒があり本当に良かった。
シルトという、林檎のお酒を頂いた。かなりきついが林檎の風味が爽やかだ。
オレが飲むと知ると、リリオは大いに喜んだ。

「いやー。そっちの世界にもお酒があるんですね!」
色々な種類の酒の話をするとまた喜んだ。
彼女はフランジェリコというヘーゼルナッツの酒に特に興味を持った。
なんとか飲ませてやりたいがオレには無理だ。

「リリオ。この世界には兎族やドラゴンが居るのは分かった。それ以外には何も知らないんだ。悪いが教えてくれないか?」
「そーですよね!簡単に言うと剣と魔法が支配する世界です。色々な種族が居ますが、人間が7割を占めます。残りが、兎族。猫族ビョウゾク。犬族の獣人族。エルフ、ドワーフ、ホビット、オークが居ます」
獣人族だけ何故族が付くのか尋ねると、どうやら昔来た異界の旅人が名付けたらしい。
日本人は遥か昔からこの世界に干渉しているらしい。

「魔法はリリオは使えるのか?」
「えーと、私は生活魔法位ですね。戦闘魔法などは無理です! 火を点けたり、洗濯の水を出したりですね。出来るのは」
確かに先程火を点ける時に、何かしていた様な気がする。

「ありがとう。凄い魅力的な世界だな。とりあえず今日はありがとう。リリオと出会えて無かったら死んでたかもしれない」
「いえ!私こそ弥勒さんと出会えて良かったです。どうしてもドラゴンを倒したかったので」
「そうだ。なんでリリオはドラゴンを倒したいんだ? 最強の生物なんだろ?危険だし、可能性も低いし」
「それは…ドラゴンが死ぬ時に流すという、を手に入れる為です。姉の治療に必要でして」
「そうなんだ。こんな頼りない異界の旅人でごめんな」
そう言うとリリオは大きく首を振り、そんな事ないですと呟いた。

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