上 下
19 / 27
一章

幕間 二

しおりを挟む
 私の名前はシオ。神祖様の村の村長をしております。
 つい先程、村長としての責任の重さを決意と共に自覚した私でしたが...。
 現在、私は地獄にいますーー阿鼻叫喚という地獄にいます。

「ぶっわははははははっ!」
「あっはははははははっ!」
「クスクスクスクスクス」

 上から『冥皇竜様』『地狼皇様』『天凰皇てんこうおう様』ですが爆笑中です。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 幼児退行して、謝罪をしているのは信じたくないのですが...妻のオルガです。

「......」

 文字だけで見れば問題なさそうな天人のカリンちゃんですが......実は現在一番激しいのが彼女です。
 言葉が苦手な彼女ですから、どう言葉にしていいのかわからないのでしょうね...部屋中を飛び回っています。壁に衝突しないように気をつけて欲しいです。

「......」

 こちらの彼は文字通りです。羨ましい事に立ったまま気絶しているテゼル君です。代わってくれないでしょうか?
 そして.....一番問題なのがーー

「離せ! 離すのじゃ‼ 死んでお詫びをするのじゃ! えぇーい! 止めるでない!」

 折角生き返ったのに腹を斬ろうとしているザイード殿です。
 メイド長である猫の獸人のセシリーさんが必死で止めていますが...時折「一緒に「償って生きて「二人で「死ぬまで」とかの言葉が聞こえるので、彼女にまかしときましょう。ザイード殿も、よいお歳ですし、彼女なら問題ないでしょう。
 そんなこんなな現状ですが、神祖様、私は村長としてこの惨状をどうすれば良いのでしょう...?

◆◆◆
 
 時間は戻り一時間前。
 私は追跡為の準備を始めました。と、言っても、私にはそのような事柄に対処する能力は無いのですから、お願いをしただけです。
 そんな私ですので時間が余ることになります。
 そこで時間も遅く申し訳ないないと思いましたが、どうせ私と同じで眠れずにいるだろうと、直接、彼と接触したカリンちゃんとテゼル君を呼び出しました。ジガード殿を抜いたのは...彼はむいていませんからね。

 
「やはり素人ですか?」

 彼の力量について訪ねて見ましたが、ザイード殿が言っていた通りのようです。
 残念ながら私は荒事はサッパリ駄目なので同じ質問をされたらーー凄い力持ちとしか答えられません。

「あ、あんな奴に殺されるなんて......ザイード様は...一体...どんな卑怯な手で...」

 テゼル君が涙ぐみながら訪ねてきましたが...どう答えるべきでしょうか...。
 ザイード殿は『刀皇』の称号を持つお方、当然、武にかかわる者に取っては目標であり憧れでもあります。それがあのような負け方をしたのを知れば...。
 この私でも、あの戦いがどういう物だったかはわかりますーー暴力に武が屈したのです。
 それも、皆が素人と断じる相手に正面から負けたのです。
 

  結局、私は自分が見た事をありのまま伝えました。
 テゼル君の落胆ぶりは、それは酷いものです。嗚咽上げて泣きじゃくっています。その姿を見ると薬で眠らせている娘の事が心配です。ザイード殿の一番弟子であり、同じ『刀皇』の称号を持つ娘は、私が嫉妬する程にザイード殿を父のように慕っていたのですから。
 そんなテゼル君とは逆にカリンちゃんは一瞬しか驚きませんでした、寧ろ何か納得している感じでしたが...この娘は余り表情が変わらないので...訊いてみます。

「ん、驚いた。でも...ジンは、何かおかしい...説明は無理」

 ふむ、そういえばザイード殿も似たような事を言っていましたね。そもそもザイード殿は普段あのよう短慮をする方では無かった筈です...。
 そんな会話が交わされていた時に『冥皇竜』『地狼皇』『天凰皇』のお三方の到着がメイドから告げられた。


「それで、どういう事だい。あのザイードが殺されたって?」
「うむ、奴を倒せるものなど人の身のものなら数える程じゃろ?」
「そうね、あの子そろそろ『剣神』に届きそうだったしね、信じられないわね」

 すでにメイドから話を訊いていたようで、お三方は開口一番に訊いてきました。
 因みに最初に口にしたのは白狼の獸人で、大柄な女性の姿ですが地狼皇様です。
 次が冥皇竜様で地狼皇さまより大柄の人族のお爺さんのお姿です。余談ですが私の妻の一人は冥皇竜様の孫になります。
 最後に天凰皇様で平均的な人族の......妙齢の女性です。
 そう言えば、お三方を迎えをよこすようにザイード殿が指示を出したのでした。やはり彼を警戒していたという事ですね。残念ながら間に合わなかったですが......。
 私は説明をする前に迎えにいってくれた妻と息子に席を外して貰いました。
 これ以上困惑する人物を増やしたくなかったのです。あの場に居たメイド達も私と同じような気持ちを持ったのでしょう、どこか覇気を感じないのです。やる事は決まっているのですから、下手に迷いをうむような情報は必要ないでしょう。渋々ながらも二人は部屋を出ていったのですが...テゼル君とカリンちゃんは頑として席を外してくれなかったので口外無用を誓って貰いました。

 
「「「......」」」

 私の説明を訊いた、お三方はなんとも渋い顔をしておりました。

「...なあ...儂、すっごく奴を思い出したんじゃが」
「奇遇だね、あたしもだよ」
「...転生? な訳ないわよね」
「ありえんじゃろ、世界神様が許すわけがなかろうて」
「だよなぁー」
「...お三方?」
「むっ、すまんな、知ってる奴に似ておってな」
「知ってる方ですか? その方の可能性は無いのですか?」
「ああ、それは無いね。そいつは死んでるからね」
「それに、言って悪いとは思うけど被害はザイードと部屋一つでしょ? 彼なら最低でも、お外のお城を破壊していくわ」

 それは何処の破壊者でしょうか? 私としては願ったり叶ったりなんですが。私としては村の景観に合わない、あのお城は撤去したいのですが...さすがに皆が私のためにと造ってくれたものを私の口から言うのは憚れまして...。

「それで、村長。その男をどうするのじゃ?」
「処刑します」

 私は冥皇竜様に即断しました。

「へぇー、ようやくかい」
「あらあら、私としては余り嬉しくないわね」
「なんだい? あんた不服かい?」
「だって、シオ君、彼とそっくりじゃない」
「......」
「よかろう了承した」

 地狼皇様と天凰皇様が私に痛ましい物を見る眼を向けるのは何故なんでしょう?
 そして冥皇竜様の次の言葉は私には意外でした。

「すまぬが儂は帰らせて貰う」
「えっ! 手伝っては貰えないのでしょうか?」

 私は当然手伝って貰えると思っていました。ザイード殿と三皇のお三方は、一緒にお酒を飲む間柄です。まさか仇の姿すら見ずに帰るとは予想外です。

「あー、すまん。あたいも帰るわ」
「そうね、私も帰ろうかしらね」

 まさか、お三方全員帰ると言い出すとは余りにも予想外です。当然私は理由を訊きました。

「...どうも奴を思い出してのぉ、別人じゃとわかっておるのじゃが殺される処は見たくないんじゃよ」
「...あー、女々しいけど、あたいもそれだ。ザイードには悪いと思っちゃいるんだけどな...」
「...私は、もしかしてって期待しちゃったからね、逢って落胆したくないの」

 私はお三方の返事に納得しました、とても大切な方だってでしょう、そのお方は。しかし、それ程に彼は似ているのでしょうか? 私は興味半分で訊いて見ましたーー訊いてしまいました。
 たぶん、この辺りで前世で訊いたフラグというものが立ったのでしょう。

「ザガンの馬鹿だ」
「「「.........」」」

 ん? 聞き間違えでしょうか? 地狼皇様は今なんと? それはこの世界のお名前ですよね?

「あなた達には新祖って言った方がわかりやすかしら?」
「「「......」」」
 
 天凰皇様、様を付けませんと怒られますよ? この部屋にはこの村一番と二番目の神祖様マニアがいますからね。いえ、私はそこまで酷くは無いですよ、やはり前世の記憶があるせいですかね。敬う気持ちはありますが、それけです。しかし、純粋なこの世界の住人に取って神祖様は『神聖不可侵にして並ぶべき者無し』なんですよね。そんな神祖様と彼が似ているなんて言ったら......こうなりますね。

「な、な、ナ、なななななーーありえません! 神聖にして不可侵たる神祖様が、あのような、あのような、チンチクリンではありません!」
 
 ーーブンブンブン

 確かに、彼はそれほど背は高くなかったけど、私と同じくらいだったよ奥さん。それとカリンちゃん残像を作る程頷かない。酔うからね。

「あんな、あんな、あんな、あんな、あんな、あんな、あんな、あんな、あんな、あんな」

 あー、テゼル君は良い子だから、悪口言いたいけど言葉が出てこないんだなぁー..... 。

「それに、神祖様は気高く、美しく、そして優雅なんです! あんな猿顔で、やる気が全く無さそうで、にやけ顔で優雅さの欠片も無い顔はしていません!」

 ーーブン......ブン..................ブン...............ブン。.

 それは凄い顔だね奥さん。でも、にやけては無かったと思うよ。それとカリンちゃん。きついなら休んで良いと思うよ。顔色が結構危険な感じだから休もうね。

「い、いや、にやけては無かったが大体そんな感じだったぜ」
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 余りのショックで彫像みたいになっていますね

「はぁー、だから言ったじゃろ、ザガンの話はするでないと」
「...あ、ああ、良くわかった」
「さすが、冥のおじいちゃんは慧眼ね」
「お主はわかっておったじゃろうに」

 成る程、今まで神祖様の話しを訊いても教えてくれなかったのは、こういう理由だったのですね。しかし、おかしいですね。私のあった神祖様は神々しいまでのお姿でしたが?
 そして...さらに事態は酷くなるのです。


 ーードガンッ!

 ノックも無しに部屋に飛び込んできたのはメイド長セシリでした。
 彼女が理由もなくこのような振る舞いをするとは異常事態が起きたとしか思えません。
 騒いでいた皆もさすがに黙り彼女の報告待ちます。

「ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザー-」

 ザ、ザ、ザ? よっぽど慌てているのか意味がまったくわかりません。私は彼女にコップに入った水を差し出し落ち着くように促しました。
 水を飲み、落ち着いた彼女が伝えたのは驚愕の一言でした。

「ザイード様が生き返りました」

 反応は二つにわかれました。
 お三方を除く全員は言われた事の意味がわからず怪訝な表情を浮かべました。
 そして、お三方はというと。

 ーーポッカーン。

 としか言えないお顔をしていました。

「な、なあ、これ、まんま奴の手口だよな?」
「...じゃな、そのまんまじゃの」
「...嘘でしょ」
「いっ、いや、おかしいだろっ⁉」
「うむ、転生ではないじゃろ、先程も言ったように世界神様が許すはずがないからの」
「......生きていた?」
「むぅ、可能性とすればそれだけかの?」
「しかし、あたしら三人で確認したじゃねえか、完璧に死んでたぞ」
「魔王なら儂らの眼を誤魔化せんか?」
「...でも、なんでそんな真似を?」
「おそらくじゃが...ガイとエリンが絡んでおるとすれば...理由は付かんか?」
「「!!!」」
「付くわね「付くな
「しかし、今まで、何してたんだあの馬鹿? 千年だぞ?」
「普通に寝てた?」
「千年もか?」
「奴じゃぞ」
「無駄に説得力あるわね」
「あーもうっ話してても埒があかねっ、会えばわかるんだーー行こうぜ」
「うむ」
「そうね」

 私達はこの会話を呆然と訊いていました。
 申し訳ないですが、ザイード殿の事は皆さん完全に頭から抜けていたと思います。
 皆、顔が真っ青です。
 当然でしょうね、あれだけ見事に貶していたのですから。テゼル君と私はセーフですよね?
 いえいえ、まだ彼がそうだと決まっていません。別人の可能性は充分あります。
 しかし...ここに止めの証拠品が提出されました。

 それは村の倉庫に残された王冠と長衣でした。

 
           新祖の王冠
レア度  神話級                  
効果   装着者に一定以上の害意を持つ存在を半径十キ
     ロ範囲の侵入を禁止する。装着者が許可をした
     者、元から範囲内の者には効果が無い。

説明   神祖であるザガンが長い年月装着した事で大量
     ■■■■を浴び神話級まで昇華された王冠。
     破壊できるのはザガンか■■■■のみ。
     尚、ザガンの意思により装着できるのは神祖様
     の村の村長職のみである。

           神祖の長衣
レア度  神話級
効果   装着者を常に万全の状態にする。食事は必要
     無いが空腹感と渇きはある。

説明   神祖であるザガンが長い年月装着した事で大量
     ■■■■を浴び神話級まで昇華された長衣。
     破壊できるのはザガンか■■■■のみ。
     尚、ザガンの意思により装着できるのは神祖様
     の村の村長職のみである。

 そして生き返ったザイード殿が混じり...冒頭の惨劇に突入しました。
 
しおりを挟む

処理中です...