娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
7 / 266

7 正義感の強い先輩

 自宅に帰ると、ほっとした様子の義母が迎えてくれた。
 佐々木は信頼できそうな相手だと伝えてはいたが、やはり心配が勝っていたらしい。

「おかえりー!早くごはんにしようよー。」

 呑気に妻がいう。
 俺の帰りを待ってくれていたようだ。

「すぐに温めるわ。話は食事のときに、ゆっくり聞かせて頂戴。」



 食卓に並んだ食事を口にしながら、俺は今日の会合での話を伝えた。
 義母は興味深そうに耳を傾けていたが、妻は食事を堪能していて聞こえていないようだ。

「……まさかそんなに被害者がいるなんて。」

 すべてが異世界転移によるものではないかもしれないが、今日聞いた話はどれも真実味があった。
 また佐々木の弟の話や今回の件を踏まえ、一つの可能性が思い浮かぶ。

「転移先の世界は、それぞれ違うのかもしれないわね。」

 義母もどうやら、同じ仮説に行き着いたようだ。
 
 異世界が存在するとすれば、それはもちろんひとつとは限らない。
 そのうち複数の世界に「異世界から人を召喚する魔法」が存在するのであれば、その魔法のあり方もそれぞれ異なるだろう。
 神が介入するパターンもあれば、魔法使いが魔法陣を用いて実践するパターンもあるはずだ。
 数多く描かれている、異世界ものの小説や漫画のように。


「それで、次は異世界から還ってきたっていう人と会うのね?」

「はい。事実ではない可能性が高いとは思いますが。」


 義母はもう、とめなかった。
 ただ一言、「あなたを信じるわ。」と真っ直ぐな目をして呟いた。







 火曜日は、あいにくの雨だった。

 佐々木と舞との待ち合わせ場所に到着すると、小柄な少女がすでに立っていた。
 その傍らには、すらりと背の高い女が佇んでいる。

「こんにちは。」

 声を掛けると、舞のポニーテールが揺れる。
 瀬野さん、と舞が口にすると、彼女の隣の女がこちらをキッと睨みつけてくる。

「あんたが舞を誑かしてんの?!異世界だの何だのって、いい年したおっさんがなんの冗談?」

「先輩!やめてください!」

 どうやら彼女が、帰還者を紹介してくれた先輩らしい。
 ずいぶんな言い草だが、舞を心配してついてきたのだろう。

 どう宥めればいいか悩んでいると、背後から「誑かしたのは、俺じゃないかな。」と声がした。
 振り返ると、佐々木が微笑んで立っていた。
 しかしその瞳の奥には、怒りの色が見える。
 突然現れた佐々木の迫力に女は一瞬怯んだが、ギュッと拳を握りしめて佐々木を睨み返した。

「舞に変なちょっかいかけるのはやめて!下心があるから、異世界転移だなんてバカみたいな話に付き合ってるんでしょ?!」

「……異世界なんて言われても、信じられない気持ちはわかる。でも、俺たちは本当に異世界転移を目の当たりにした。証拠がないから信用してもらおうとは思わないけど、舞の話をただの妄想扱いするのは、彼女にとっても失礼だろ。」

 きっぱりと言い切る佐々木は、男の俺から見てもかっこいい。
 しかし、彼にばかり頼っていては情けない。

「心配してついてきてくれるなんて、いい先輩だね。」

 俺は舞に話しかけた。

「俺の妻の母も心配性でね。ほら、防犯ブザーまで持たされてる。……少し面倒ではあるけど、大切にしてもらえてるっていうは嬉しいものだよね。」

 テントウムシの形をしたかわいい防犯ブザーをちらつかせ、ニッと笑ってみせる。
 舞はしばらくあっけにとられた顔をして、プッと吹き出した。

「あははっ!おじさんにてんとう虫の防犯ブザーって!」

「もともと娘が小学生のときに使っていたものなんだよ。GPSまでついてる。…あと、ライトもつく。」

 ピカッと光らせてみせると、舞はまた声を上げて笑った。
 彼女の様子にほだされたのか、防犯ブザーの効果か、先輩と佐々木の表情も幾分和らいだようだ。

 ひとしきり笑い終えた舞は、ふっと短く息を吐き、先輩をまっすぐ見つめて言った。

「先輩、私を心配してついてきてくれてありがとう。……でも、佐々木さんも瀬野さんも、先輩が思っているような下心は持っていないと思う。だから、失礼なことを言わないで。」

 舞のまっすぐな瞳に、先輩はバツの悪そうな顔をして「ごめん。」と返した。
 その後、背筋を伸ばし、俺と佐々木に向き直る。

「舞が心配だからといって、失礼なことをいってすみませんでした。私は大野沙知絵(おおの さちえ)といいます。今日は私も同行しますので、よろしくお願いします。」

「先輩は今は大学生ですけど、去年まで同じ高校だったんです。正義感が強くて、頼りになる先輩なんですけど……あまり人の話を聞かないのがたまにキズで。」

「ちょっ!やめてよ、舞!」

 二人の様子に、思わず笑みがこぼれる。
 娘も学校で、こんな風に友だちとじゃれ合っていたのだろう。


「それじゃ、行こうか。」


 佐々木が促し、「こっちです。私についてきてください。」と沙知絵が歩き始める。
 まだ厳しい目をしていた佐々木は、俺が様子をうかがっていることに気づくと、少しだけ表情を緩ませた。
 それでも怒りの色が残っている点をみると、先程のような問答は、幾度となく彼を傷つけてきたことがわかる。

 それでも腐らず、懸命に活動を続けている彼を、素直にすごいと思った。
感想 19

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます! ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!