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9 猫
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勇司の話を聞いた俺たちは、「忙しいから」という理由で早々に彼の家を追い出された。
異世界にまつわるすべてを、彼はもう忘れてしまいたいのかもしれない。
もう少し話を聞かせてほしいとねばったが、これ以上話すことはないと押し切られてしまった。
無理を通すわけにもいかず、お暇した俺たちは解散することになった。
それぞれ思うことがあったのだろう。
この件に関する意見交換は、また改めて場を設けて行うことになった。
ひとり歩く帰り道、俺は考えを巡らせる。
勇司の話が真実だったのかはわからない。
すべてが作り話、あるいは妄想である可能性も捨てきれないだろう。
しかし、彼の話は真に迫るものがあった。
「命がけで世界を救った結果がこれとは、報われない…。」
彼の異世界での冒険は、ありふれた異世界ものの漫画や小説そのものだった。
だが、それこそ「身命を賭して戦った」彼の苦労は計り知れない。
3年という長い時間をかけて守った世界も、あっさりと彼に背を向けてしまった。
この世界に帰還してからの彼の境遇を思えば、異世界で暮らし続けた方が幸せだったに違いない。
妹のため、異世界のために二度も自己犠牲を選んだ彼に対して、女神はなぜこれほどまでにひどい仕打ちをしたのか。
他人事ではあるが、憤りを感じる。
ただ、異世界からの帰還者という存在が、俺の心に希望を灯したのも事実だ。
異世界での役目を終えれば、元の世界に帰還できる。
ただし、それは娘のさらわれた世界にも当てはまるのだろうか。
川西夫妻の話を思い出す。
彼らは、異世界からの娘の電話で「元の世界に戻るすべはない。」と確かに聞いたという。
それはすなわち、以前の仮設通り転移先の異世界は複数あり、それぞれルールが異なるということではないか。
娘の世界は、果たして…。
答えを得られない問いにさいなまれながら、俺は自宅玄関の扉を開いた。
「ただいま。」
声をかけると、妻がひょっこりと顔を出し、「おかえり!」と元気に返してくれた。
妻がこの状態になってしばらくは、妻の姿を見るとより辛く感じてしまっていたが、今ではこの明るさに救われている。
「お義母さんは?」
「家に帰ってるよ。すぐ戻ってくるって言ってた!」
そう話す彼女の足元には、黒猫が一匹まとわりついている。
しゃがみこみ、「ただいま。」と声をかける俺を一瞥し、甘えるように妻に身体をこすりつけた。
「コトラ、伊月くんにおかえりしなきゃダメでしょ!」
妻はそうたしなめたが、俺には懐かない黒猫が自分に懐いているのがうれしいのだろう、頬がゆるみっぱなしだ。
記憶を失う前の妻は、俺のことを「パパ」と呼んでいたが、今は「伊月くん」と名前で呼んでいる。
娘が生まれる前に戻ったようで気恥ずかしかったが、自分を子どもだと認識しているのだから、俺のことを「夫」として受け入れられないのは仕方ない。
それに伴い、俺も彼女を「ママ」と呼ぶことはしなくなった。
「詩織、今日は変わったことはなかったかい?」
俺が問いかけると、妻は少し考え込む仕草をしてから「新しい友だちができたよ。」と言った。
友だち?
この状態の妻に?
不審に思い戸惑っていると、玄関のインターホンが鳴った。
「お母さんだ!」
うれしそうに駆けていく妻の後ろ姿を見つめながら、そこはかとなく嫌な予感が胸を支配していた。
そんな俺の様子をじっと見つめるコトラの視線には、気づくことなく。
異世界にまつわるすべてを、彼はもう忘れてしまいたいのかもしれない。
もう少し話を聞かせてほしいとねばったが、これ以上話すことはないと押し切られてしまった。
無理を通すわけにもいかず、お暇した俺たちは解散することになった。
それぞれ思うことがあったのだろう。
この件に関する意見交換は、また改めて場を設けて行うことになった。
ひとり歩く帰り道、俺は考えを巡らせる。
勇司の話が真実だったのかはわからない。
すべてが作り話、あるいは妄想である可能性も捨てきれないだろう。
しかし、彼の話は真に迫るものがあった。
「命がけで世界を救った結果がこれとは、報われない…。」
彼の異世界での冒険は、ありふれた異世界ものの漫画や小説そのものだった。
だが、それこそ「身命を賭して戦った」彼の苦労は計り知れない。
3年という長い時間をかけて守った世界も、あっさりと彼に背を向けてしまった。
この世界に帰還してからの彼の境遇を思えば、異世界で暮らし続けた方が幸せだったに違いない。
妹のため、異世界のために二度も自己犠牲を選んだ彼に対して、女神はなぜこれほどまでにひどい仕打ちをしたのか。
他人事ではあるが、憤りを感じる。
ただ、異世界からの帰還者という存在が、俺の心に希望を灯したのも事実だ。
異世界での役目を終えれば、元の世界に帰還できる。
ただし、それは娘のさらわれた世界にも当てはまるのだろうか。
川西夫妻の話を思い出す。
彼らは、異世界からの娘の電話で「元の世界に戻るすべはない。」と確かに聞いたという。
それはすなわち、以前の仮設通り転移先の異世界は複数あり、それぞれルールが異なるということではないか。
娘の世界は、果たして…。
答えを得られない問いにさいなまれながら、俺は自宅玄関の扉を開いた。
「ただいま。」
声をかけると、妻がひょっこりと顔を出し、「おかえり!」と元気に返してくれた。
妻がこの状態になってしばらくは、妻の姿を見るとより辛く感じてしまっていたが、今ではこの明るさに救われている。
「お義母さんは?」
「家に帰ってるよ。すぐ戻ってくるって言ってた!」
そう話す彼女の足元には、黒猫が一匹まとわりついている。
しゃがみこみ、「ただいま。」と声をかける俺を一瞥し、甘えるように妻に身体をこすりつけた。
「コトラ、伊月くんにおかえりしなきゃダメでしょ!」
妻はそうたしなめたが、俺には懐かない黒猫が自分に懐いているのがうれしいのだろう、頬がゆるみっぱなしだ。
記憶を失う前の妻は、俺のことを「パパ」と呼んでいたが、今は「伊月くん」と名前で呼んでいる。
娘が生まれる前に戻ったようで気恥ずかしかったが、自分を子どもだと認識しているのだから、俺のことを「夫」として受け入れられないのは仕方ない。
それに伴い、俺も彼女を「ママ」と呼ぶことはしなくなった。
「詩織、今日は変わったことはなかったかい?」
俺が問いかけると、妻は少し考え込む仕草をしてから「新しい友だちができたよ。」と言った。
友だち?
この状態の妻に?
不審に思い戸惑っていると、玄関のインターホンが鳴った。
「お母さんだ!」
うれしそうに駆けていく妻の後ろ姿を見つめながら、そこはかとなく嫌な予感が胸を支配していた。
そんな俺の様子をじっと見つめるコトラの視線には、気づくことなく。
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