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10 謎の少年
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「詩織、新しい友だちって、どんな子なんだ?」
何気ない風を装いながら、問いかける。
妻は少し考えるような仕草をしてから、「…不思議な子?」と答えた。
「今日、お母さんといっしょに買い物に行ったんだけどね、そのときに話しかけられたの。」
「話しかけられた?」
「うん、詩織よりちょっと大きいお兄ちゃん。背は詩織のほうが大きいけど、お兄ちゃん10歳だって言ってたもん。」
10歳の少年が、なぜ妻に声をかけたのだろう。
心は幼くなっているものの、見た目は年相応だ。
気軽に声をかけるには、年が離れすぎている。
「それで、そのお兄ちゃんは何だって?」
「詩織がお菓子見てたら、それおいしいよって教えてくれたの!それでね、このあといっしょに遊ぼうって言われたんだけど、お母さんがダメだっていうから、バイバイしたの。そしたら、また今度遊ぼうって言ってた。」
詩織の話を聞いて、義母に目を向けると、困ったような表情をしていた。
「お義母さんもその子を見たんですか?」
「ううん、私は見てないのよ。この子がお菓子を欲しがったから、選ばせているあいだにほかの用事を済ませていて…。お菓子売り場に戻ったときには、その男の子はいなかったから。」
「遊びを断ったあとにもう一度会話しているときは…。」
「そのときも、私はレジに並んでいて、この子は近くのベンチで待たせていたの。会計が終わったころには、もういなくなっていたわ。」
なんだか気味の悪い話だ。
妻しか見ていない謎の少年。
彼は一体何の目的で妻に声をかけたのだろう。
義母も不審に思ったらしく、妻を連れてしばらく少年を探してみたらしい。
しかし、少年の姿はどこにも見当たなかったようだ。
義母とふたり、真剣な顔をして考え込んでいると、妻が「あのお兄ちゃんに会いたいの?」と訊ねる。
そうだね、とぼんやりと返事を返すと、妻はにっこりと笑顔を浮かべ、「大丈夫!」と言った。
「お兄ちゃん、今後おうちに遊びにくるっていってたから、また会えるよ!」
※
妻はそう話していたが、本当にくるとは思っていなかった。
妻は自宅の住所をうまく説明できないし、そもそもどこに住んでいるか話していないと言っていた。
しかし、翌日の早朝、インターホンの音に起こされた俺と義母がモニターをのぞき込むと、10歳くらいの少年の姿があった。
驚きのあまり俺たちが固まっていると、同じくインターフォンの音で目覚めたのか、寝ぼけ眼の妻が「昨日のお兄ちゃんだ!」と嬉しそうな声をあげる。
妻には静かにしているよう言い聞かせ、意を決して、通話ボタンを押す。
「…どちらさまですか?」
そんな俺の問いかけには答えず、少年は無邪気な様子でこういった。
「いーつきくん、しーおりちゃん、あそびましょ!」
俺のことも知っている。
背筋が凍る思いだった。
震える声で「君は誰だ?」と再度問いかけると、次は「君の知りたいことを知る者だよ。」と少年は答えた。
先程の無邪気な声とは異なり、姿に見合わない、やけに大人びた口調だった。
俺の知りたいこと……?
「柚乃ちゃんが今どこにいるか、知りたくない?」
そう問いかける彼は、不敵な笑みを浮かべていた。
※
義母に妻を見ているようお願いした俺は、急いでマンションのロビーへ向かった。
義母は危険だといったが、彼が本当に娘の居場所を知っているのであれば、この機会を逃してはならない。
ゆっくりと降りていくエレベーターに苛立ちながら、その扉が開くのを今か今かと待ち構える。
やがてエレベーターの扉を開くと、その先にひとりの少年が経っていた。
「おはよう、伊月くん。いい朝だね。」
少年はにっこりと笑い、「少し歩こうか。」と促した。
正直、この得体のしれない少年についていくことには抵抗があるが、これからマンションのエントランスは、通勤・通学する人々が行き交うだろう。
そんな中、異世界の話などしていては不審に思われるに違いない。
「わかった。」
了承して、少年のあとをついていく。
歩き慣れた並木道が、今日はまるで別物のように感じる。
「それで、君は一体誰なんだ?どうして俺たちのことを知っている?」
「それは秘密。少年Aとでもしておいてよ。」
「……っ!」
ふざけているのか、と怒鳴りたい気持ちを必死で抑え込む。
「娘の行き先に、心当たりがあるのか?」
「知ってるよ。伊月くんも、気づいているんでしょ?だから、勇司くんにも会いに行った。違う?」
勇司に会ったことまで知っている。
手の込んだいたずらではないかと思っていたが、もしかしたら彼は本当に娘の居所を知っているのかもしれない。
そしてその口ぶり。
それは俺たちの仮説が正しかったことを暗示していた。
「柚乃ちゃんは、異世界にいるよ。君がどうあがいてもたどり着けない、こことはまったく異なる世界にね。」
満面の笑みの少年の言葉に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
何気ない風を装いながら、問いかける。
妻は少し考えるような仕草をしてから、「…不思議な子?」と答えた。
「今日、お母さんといっしょに買い物に行ったんだけどね、そのときに話しかけられたの。」
「話しかけられた?」
「うん、詩織よりちょっと大きいお兄ちゃん。背は詩織のほうが大きいけど、お兄ちゃん10歳だって言ってたもん。」
10歳の少年が、なぜ妻に声をかけたのだろう。
心は幼くなっているものの、見た目は年相応だ。
気軽に声をかけるには、年が離れすぎている。
「それで、そのお兄ちゃんは何だって?」
「詩織がお菓子見てたら、それおいしいよって教えてくれたの!それでね、このあといっしょに遊ぼうって言われたんだけど、お母さんがダメだっていうから、バイバイしたの。そしたら、また今度遊ぼうって言ってた。」
詩織の話を聞いて、義母に目を向けると、困ったような表情をしていた。
「お義母さんもその子を見たんですか?」
「ううん、私は見てないのよ。この子がお菓子を欲しがったから、選ばせているあいだにほかの用事を済ませていて…。お菓子売り場に戻ったときには、その男の子はいなかったから。」
「遊びを断ったあとにもう一度会話しているときは…。」
「そのときも、私はレジに並んでいて、この子は近くのベンチで待たせていたの。会計が終わったころには、もういなくなっていたわ。」
なんだか気味の悪い話だ。
妻しか見ていない謎の少年。
彼は一体何の目的で妻に声をかけたのだろう。
義母も不審に思ったらしく、妻を連れてしばらく少年を探してみたらしい。
しかし、少年の姿はどこにも見当たなかったようだ。
義母とふたり、真剣な顔をして考え込んでいると、妻が「あのお兄ちゃんに会いたいの?」と訊ねる。
そうだね、とぼんやりと返事を返すと、妻はにっこりと笑顔を浮かべ、「大丈夫!」と言った。
「お兄ちゃん、今後おうちに遊びにくるっていってたから、また会えるよ!」
※
妻はそう話していたが、本当にくるとは思っていなかった。
妻は自宅の住所をうまく説明できないし、そもそもどこに住んでいるか話していないと言っていた。
しかし、翌日の早朝、インターホンの音に起こされた俺と義母がモニターをのぞき込むと、10歳くらいの少年の姿があった。
驚きのあまり俺たちが固まっていると、同じくインターフォンの音で目覚めたのか、寝ぼけ眼の妻が「昨日のお兄ちゃんだ!」と嬉しそうな声をあげる。
妻には静かにしているよう言い聞かせ、意を決して、通話ボタンを押す。
「…どちらさまですか?」
そんな俺の問いかけには答えず、少年は無邪気な様子でこういった。
「いーつきくん、しーおりちゃん、あそびましょ!」
俺のことも知っている。
背筋が凍る思いだった。
震える声で「君は誰だ?」と再度問いかけると、次は「君の知りたいことを知る者だよ。」と少年は答えた。
先程の無邪気な声とは異なり、姿に見合わない、やけに大人びた口調だった。
俺の知りたいこと……?
「柚乃ちゃんが今どこにいるか、知りたくない?」
そう問いかける彼は、不敵な笑みを浮かべていた。
※
義母に妻を見ているようお願いした俺は、急いでマンションのロビーへ向かった。
義母は危険だといったが、彼が本当に娘の居場所を知っているのであれば、この機会を逃してはならない。
ゆっくりと降りていくエレベーターに苛立ちながら、その扉が開くのを今か今かと待ち構える。
やがてエレベーターの扉を開くと、その先にひとりの少年が経っていた。
「おはよう、伊月くん。いい朝だね。」
少年はにっこりと笑い、「少し歩こうか。」と促した。
正直、この得体のしれない少年についていくことには抵抗があるが、これからマンションのエントランスは、通勤・通学する人々が行き交うだろう。
そんな中、異世界の話などしていては不審に思われるに違いない。
「わかった。」
了承して、少年のあとをついていく。
歩き慣れた並木道が、今日はまるで別物のように感じる。
「それで、君は一体誰なんだ?どうして俺たちのことを知っている?」
「それは秘密。少年Aとでもしておいてよ。」
「……っ!」
ふざけているのか、と怒鳴りたい気持ちを必死で抑え込む。
「娘の行き先に、心当たりがあるのか?」
「知ってるよ。伊月くんも、気づいているんでしょ?だから、勇司くんにも会いに行った。違う?」
勇司に会ったことまで知っている。
手の込んだいたずらではないかと思っていたが、もしかしたら彼は本当に娘の居所を知っているのかもしれない。
そしてその口ぶり。
それは俺たちの仮説が正しかったことを暗示していた。
「柚乃ちゃんは、異世界にいるよ。君がどうあがいてもたどり着けない、こことはまったく異なる世界にね。」
満面の笑みの少年の言葉に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
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