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21 異世界渡航
「お別れの挨拶は済んだかな?」
少年の問いかけに俺と妻が頷く。
義母が不安そうな顔をしていたため、改めて「詩織のことは精一杯守ります。」と誓いを口にした。
義母は軽く微笑み、
「詩織と柚乃のこと、頼みます。コトラちゃんのこともね。……でも同じくらい、自分の身の安全も優先して頂戴。」
あなたたちの帰りをいつまでも待っているわ、と告げる義母の目は真っ直ぐだった。
「お母さん、行ってきまーす!」
一方で妻は、気楽な様子だ。
子どもらしく、不安よりも好奇心が勝っているらしい。
「その本も持っていっていいよ。勇司くん、いいアドバイスだったね。」
勇司の勧めで購入した科学本を指して、少年が言った。
一冊でも本を持っていけるのはありがたい。
いいアドバイス、ということは、どうやらこれから先の異世界生活で役立つ存在になってくれるのだろう。
改めて、心の中で勇司に感謝した。
「それじゃあ、行こうか。」
少年がそう言うと、ベランダへ続く窓が急に扉へと姿を変えた。
美しい彫刻が施されたその扉は、少年が指を鳴らすとゆっくりと開く。
扉の先からは柔らかな光が溢れるばかりで、その先は見えない。
現実離れした光景に妻が目を輝かせ、義母が息を呑んだのがわかった。
俺はしっかりと妻の手を握る。
コトラは妻の腕に抱かれて、心地よさそうに喉を鳴らしていた。
義母に頭を下げ、少年に促されるまま、ゆっくりと扉に足を踏み入れた。
瞬間、柔らかな光が俺達を包み込み、眩しさに目を閉じる。
再び目を開くと、扉はすでに消え失せていた。
※
少年を先頭に歩みを進めると、以前遭遇した神のもとにたどり着いた。
神々しい姿だが、相変わらずどんな顔をしているのか認識することができない。
妻を見ると、頬を赤らめて神を見つめ「きれい……。」と呟いた。
彼女にはもしかしたら、神の姿がはっきりと見えているのかもしれない。
「よく来てくれた。待っていたよ。」
朗らかに神が言った。
「……ここからは、厳しい旅になるだろう。みな、覚悟はできているか?」
神の言葉に、俺たちはしっかり首を縦に振った。
それに満足したのか、神はうんうんと頷く。
そして人差し指で上の方を指すと、白い光が丸い形を成して集まった。
驚く俺たちに微笑みかけ、「プレゼントをあげよう。」と神が言う。
「漫画とかで見たことあるでしょ?チート能力ってやつ。……俺たちも、君たちに死んでほしくないからね。」
少年が笑い、神と同様に指先に光を集めた。
その光は神のものとは異なり、あのお守りの翡翠のような深い緑色をしている。
やがてそれぞれの光が俺たちを包み込んだ。
また眩しさに目を閉じる。
一瞬ののち目を開くと、満足そうにしている神と少年の姿が見えた。
とくに何かが変わったような気はしないが……。
ふと妻の方を見て、思わず驚きの声を上げる。
「あ!伊月くん、子どもになってる!」
妻がそう言って、自分にも同じ変化が起こっていることに気づいた。
俺の目の前にいる妻は、高校生くらいの歳だろうか?
柚乃によく似たあどけない顔は、たしかに昔の妻そのものだ。
それに、服装も変化している。
動きやすさを重視した、いかにも冒険者といった出で立ちだ。
妻のショートパンツの丈が短すぎるのと、いわゆる絶対領域とやらの存在が気になるが、目をつぶろう。
それよりも、腰のベルトに下がっている短剣が問題だ。
精神が幼くなっている妻には、危険だろう。
折りを見て預かっておいた方がいいかもしれない。
そんな俺の懸念を察したのか、少年が「大丈夫!」と笑いかけた。
「君たちに与えた武器は、敵や物は切り裂くが、本人や害意のない相手には怪我を負わせられないようになっている。護身用だから、肌身離さず持っていてね。それに、持ち主登録がされているから、もし失くしたとしても、一定時間が立ては手元に戻ってくるよ。」
なるほど、それなら安全だ。
そうはいっても、俺も妻も戦闘経験などもちろんない。
扱い方の練習は必要だ。
自身の腰にぶら下がっている長剣を眺めながら、そう考えた。
「えへへ、かっこいいー!」
妻は新しい服装が気に入ったようで、くるくる回って喜んでいる。
そんな様子を神と少年は微笑ましそうに眺めていた。
彼らにとって、俺たち人間は子どものような存在なのかもしれない。
柚乃をさらった異世界の神には憤りを感じるが、俺たちの世界の神が良心的な存在で本当によかったと思う。
そうはいっても、彼らの言動が本心からくるものとは限らないが。
柚乃の一件以来、俺はどうやら疑り深くなったらしい。
彼らに感謝しつつも、裏切られる可能性を消し去ることは難しかった。
「ほかにもいろいろ特典があるけど、それはおいおい説明するね。」
少年はそう言い、指をパチンと鳴らした。
すると、再び扉が目の前に現れる。
「その扉をくぐれば、異世界だ。気軽に元の世界には戻れなくなるけど、覚悟はいいかな?」
少年が改めて確認し、俺は頷いた。
はしゃいでいた妻も、俺のそばで真面目な顔をして立っていた。
ゆっくりと開いた扉へ向かって、足を進める。
少年は軽く神に会釈し、先に扉の中に入ってしまった。
扉をくぐる寸前、「幸運を祈る。」という神の声を聞いた気がした。
少年の問いかけに俺と妻が頷く。
義母が不安そうな顔をしていたため、改めて「詩織のことは精一杯守ります。」と誓いを口にした。
義母は軽く微笑み、
「詩織と柚乃のこと、頼みます。コトラちゃんのこともね。……でも同じくらい、自分の身の安全も優先して頂戴。」
あなたたちの帰りをいつまでも待っているわ、と告げる義母の目は真っ直ぐだった。
「お母さん、行ってきまーす!」
一方で妻は、気楽な様子だ。
子どもらしく、不安よりも好奇心が勝っているらしい。
「その本も持っていっていいよ。勇司くん、いいアドバイスだったね。」
勇司の勧めで購入した科学本を指して、少年が言った。
一冊でも本を持っていけるのはありがたい。
いいアドバイス、ということは、どうやらこれから先の異世界生活で役立つ存在になってくれるのだろう。
改めて、心の中で勇司に感謝した。
「それじゃあ、行こうか。」
少年がそう言うと、ベランダへ続く窓が急に扉へと姿を変えた。
美しい彫刻が施されたその扉は、少年が指を鳴らすとゆっくりと開く。
扉の先からは柔らかな光が溢れるばかりで、その先は見えない。
現実離れした光景に妻が目を輝かせ、義母が息を呑んだのがわかった。
俺はしっかりと妻の手を握る。
コトラは妻の腕に抱かれて、心地よさそうに喉を鳴らしていた。
義母に頭を下げ、少年に促されるまま、ゆっくりと扉に足を踏み入れた。
瞬間、柔らかな光が俺達を包み込み、眩しさに目を閉じる。
再び目を開くと、扉はすでに消え失せていた。
※
少年を先頭に歩みを進めると、以前遭遇した神のもとにたどり着いた。
神々しい姿だが、相変わらずどんな顔をしているのか認識することができない。
妻を見ると、頬を赤らめて神を見つめ「きれい……。」と呟いた。
彼女にはもしかしたら、神の姿がはっきりと見えているのかもしれない。
「よく来てくれた。待っていたよ。」
朗らかに神が言った。
「……ここからは、厳しい旅になるだろう。みな、覚悟はできているか?」
神の言葉に、俺たちはしっかり首を縦に振った。
それに満足したのか、神はうんうんと頷く。
そして人差し指で上の方を指すと、白い光が丸い形を成して集まった。
驚く俺たちに微笑みかけ、「プレゼントをあげよう。」と神が言う。
「漫画とかで見たことあるでしょ?チート能力ってやつ。……俺たちも、君たちに死んでほしくないからね。」
少年が笑い、神と同様に指先に光を集めた。
その光は神のものとは異なり、あのお守りの翡翠のような深い緑色をしている。
やがてそれぞれの光が俺たちを包み込んだ。
また眩しさに目を閉じる。
一瞬ののち目を開くと、満足そうにしている神と少年の姿が見えた。
とくに何かが変わったような気はしないが……。
ふと妻の方を見て、思わず驚きの声を上げる。
「あ!伊月くん、子どもになってる!」
妻がそう言って、自分にも同じ変化が起こっていることに気づいた。
俺の目の前にいる妻は、高校生くらいの歳だろうか?
柚乃によく似たあどけない顔は、たしかに昔の妻そのものだ。
それに、服装も変化している。
動きやすさを重視した、いかにも冒険者といった出で立ちだ。
妻のショートパンツの丈が短すぎるのと、いわゆる絶対領域とやらの存在が気になるが、目をつぶろう。
それよりも、腰のベルトに下がっている短剣が問題だ。
精神が幼くなっている妻には、危険だろう。
折りを見て預かっておいた方がいいかもしれない。
そんな俺の懸念を察したのか、少年が「大丈夫!」と笑いかけた。
「君たちに与えた武器は、敵や物は切り裂くが、本人や害意のない相手には怪我を負わせられないようになっている。護身用だから、肌身離さず持っていてね。それに、持ち主登録がされているから、もし失くしたとしても、一定時間が立ては手元に戻ってくるよ。」
なるほど、それなら安全だ。
そうはいっても、俺も妻も戦闘経験などもちろんない。
扱い方の練習は必要だ。
自身の腰にぶら下がっている長剣を眺めながら、そう考えた。
「えへへ、かっこいいー!」
妻は新しい服装が気に入ったようで、くるくる回って喜んでいる。
そんな様子を神と少年は微笑ましそうに眺めていた。
彼らにとって、俺たち人間は子どものような存在なのかもしれない。
柚乃をさらった異世界の神には憤りを感じるが、俺たちの世界の神が良心的な存在で本当によかったと思う。
そうはいっても、彼らの言動が本心からくるものとは限らないが。
柚乃の一件以来、俺はどうやら疑り深くなったらしい。
彼らに感謝しつつも、裏切られる可能性を消し去ることは難しかった。
「ほかにもいろいろ特典があるけど、それはおいおい説明するね。」
少年はそう言い、指をパチンと鳴らした。
すると、再び扉が目の前に現れる。
「その扉をくぐれば、異世界だ。気軽に元の世界には戻れなくなるけど、覚悟はいいかな?」
少年が改めて確認し、俺は頷いた。
はしゃいでいた妻も、俺のそばで真面目な顔をして立っていた。
ゆっくりと開いた扉へ向かって、足を進める。
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