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13 衝動
あれから街で聞き込みをしてみたが、案の定何の成果も得られなかった。
娘の写真や特徴を載せたビラも、もう何枚配ったことだろう。
どっと押し寄せる疲れに、ぼんやりと空を眺める。
柚乃に会いたい。
元気な姿を一目でいいから見たい。
娘が生まれてからの騒がしい日々が、今では遠い昔のことのように感じられる。
「柚乃……。パパはもう、疲れたよ…。」
道路を走るトラックに目を向けると、不意に悪い考えが浮かんできた。
トラックに轢かれる、過労死するなど、主人公の死から始まるのが、異世界転生の定番だ。
異世界転移があるなら、もしかしたら異世界転生も存在するのかもしれない。
それならば、この世界で娘の行方を探すよりも、死後の世界に希望を見出した方がいいのではないか。
くだらない考えだ。
死んだからといって異世界に転生できるとは限らないし、仮に転生できても、柚乃のいる世界だとは限らない。
頭ではわかっているのに、どうにもならない現状がそうさせるのか、考えを消し去ることができなかった。
一歩、また一歩と車道に足を進める。
あと数歩で、俺はこの仮説を検証することができる。
頭の片隅に、明るく笑う妻の姿が浮かんだ。
彼女を置いていけない、けれど歩みを止めることもまた、できなかった。
「……柚乃…。」
頬を一雫の涙が伝った。
このまま行けば、娘にきっと会える。
根拠なんて一つもないのに、どうしてそう思うのか不思議だったが、なぜだか嫌な気分ではなかった。
「……瀬野さん!」
不意に誰かが、俺の腕をぐっと掴んで引っ張った。
突然のことに思わずバランスを崩し、腕を引いた相手を道連れに、その場に倒れ込む。
その痛みに、ハッと我に返る。
俺はなんということをしようとしていたのだろう。
「ちょっと、何してんだよ!死んだらどうするんだよ!」
目を吊り上げ、必死になって怒鳴っているのは、勇司だった。
目尻に滲んだ涙を強引に拭いながらも、彼は俺の腕をしっかりと掴んで離さない。
彼の手の小さな震えが伝わってきて、胸の奥が少し温かくなった。
※
「ありがとう、止めてくれて。」
腕を引かれるまま連れて行かれた公園でベンチに腰掛けたあと、俺がお礼をいうと、勇司は少し驚いた顔をした。
不思議に思っていると、「責められると思った。」と彼は言う。
「俺は、死なせてくれなかったとき、周りを恨んだから…。」
悲しげな瞳だった。
彼が死を求めたのは、きっと異世界から帰還したあとのことだろう。
恋人と妹のどちらも失った彼の絶望は計り知れない。
「なんで、あんなことしようとしたんだよ?」
率直な質問に、俺は「異世界転生できるかと思ったんだ。」と答えた。
すんなり言葉が出たのは、彼の優しさや悲しみに触れたからだったのかもしれない。
「確かに、トラックに轢かれるのは定番だよな。」
「……でも、娘のいる世界に転生するなんて奇跡が起こる可能性は限りなく低い。頭ではわかっていたけど、自分じゃ止められなかった。勇司くんが来てくれて、本当に助かったよ。」
「いや、俺も咄嗟だったし……。転んだとき、怪我とか…。」
「大丈夫。勇司くんも、巻き添えにしてごめんね。痛いところはないかな?」
大丈夫、と彼が答えて安堵する。
命を救ってもらっておいて、怪我までさせていたらどうしようかと思った。
聞き込みの間、ぐるぐると一人で柚乃のことや少年について考え続けたから、短絡的な思考に至ってしまったのだろうか。
気が緩んだのか表情を和らげた勇司を見ていると、彼になら話してもいいような気がした。
「少し聞いてほしい話があるんだけど、いいかな?」
少なくとも、あの少年は勇司のことを知っていた。
もしかしたら、面識がある可能性だってある。
勇司が頷いたのを確認して、俺は今朝のことを話し始めた。
娘の写真や特徴を載せたビラも、もう何枚配ったことだろう。
どっと押し寄せる疲れに、ぼんやりと空を眺める。
柚乃に会いたい。
元気な姿を一目でいいから見たい。
娘が生まれてからの騒がしい日々が、今では遠い昔のことのように感じられる。
「柚乃……。パパはもう、疲れたよ…。」
道路を走るトラックに目を向けると、不意に悪い考えが浮かんできた。
トラックに轢かれる、過労死するなど、主人公の死から始まるのが、異世界転生の定番だ。
異世界転移があるなら、もしかしたら異世界転生も存在するのかもしれない。
それならば、この世界で娘の行方を探すよりも、死後の世界に希望を見出した方がいいのではないか。
くだらない考えだ。
死んだからといって異世界に転生できるとは限らないし、仮に転生できても、柚乃のいる世界だとは限らない。
頭ではわかっているのに、どうにもならない現状がそうさせるのか、考えを消し去ることができなかった。
一歩、また一歩と車道に足を進める。
あと数歩で、俺はこの仮説を検証することができる。
頭の片隅に、明るく笑う妻の姿が浮かんだ。
彼女を置いていけない、けれど歩みを止めることもまた、できなかった。
「……柚乃…。」
頬を一雫の涙が伝った。
このまま行けば、娘にきっと会える。
根拠なんて一つもないのに、どうしてそう思うのか不思議だったが、なぜだか嫌な気分ではなかった。
「……瀬野さん!」
不意に誰かが、俺の腕をぐっと掴んで引っ張った。
突然のことに思わずバランスを崩し、腕を引いた相手を道連れに、その場に倒れ込む。
その痛みに、ハッと我に返る。
俺はなんということをしようとしていたのだろう。
「ちょっと、何してんだよ!死んだらどうするんだよ!」
目を吊り上げ、必死になって怒鳴っているのは、勇司だった。
目尻に滲んだ涙を強引に拭いながらも、彼は俺の腕をしっかりと掴んで離さない。
彼の手の小さな震えが伝わってきて、胸の奥が少し温かくなった。
※
「ありがとう、止めてくれて。」
腕を引かれるまま連れて行かれた公園でベンチに腰掛けたあと、俺がお礼をいうと、勇司は少し驚いた顔をした。
不思議に思っていると、「責められると思った。」と彼は言う。
「俺は、死なせてくれなかったとき、周りを恨んだから…。」
悲しげな瞳だった。
彼が死を求めたのは、きっと異世界から帰還したあとのことだろう。
恋人と妹のどちらも失った彼の絶望は計り知れない。
「なんで、あんなことしようとしたんだよ?」
率直な質問に、俺は「異世界転生できるかと思ったんだ。」と答えた。
すんなり言葉が出たのは、彼の優しさや悲しみに触れたからだったのかもしれない。
「確かに、トラックに轢かれるのは定番だよな。」
「……でも、娘のいる世界に転生するなんて奇跡が起こる可能性は限りなく低い。頭ではわかっていたけど、自分じゃ止められなかった。勇司くんが来てくれて、本当に助かったよ。」
「いや、俺も咄嗟だったし……。転んだとき、怪我とか…。」
「大丈夫。勇司くんも、巻き添えにしてごめんね。痛いところはないかな?」
大丈夫、と彼が答えて安堵する。
命を救ってもらっておいて、怪我までさせていたらどうしようかと思った。
聞き込みの間、ぐるぐると一人で柚乃のことや少年について考え続けたから、短絡的な思考に至ってしまったのだろうか。
気が緩んだのか表情を和らげた勇司を見ていると、彼になら話してもいいような気がした。
「少し聞いてほしい話があるんだけど、いいかな?」
少なくとも、あの少年は勇司のことを知っていた。
もしかしたら、面識がある可能性だってある。
勇司が頷いたのを確認して、俺は今朝のことを話し始めた。
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