娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
16 / 266

16 お守り

しおりを挟む
 目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。


 握りしめた拳の中に、何か硬いものが入っていることに気づく。
 そっと手を開いてみると、透き通る深緑色が美しい石があった。
 そういえば、意識を失う瞬間、少年の声で「お守り。」と聞こえた気がした。

 異世界の神から命を狙われている俺たちを、この石が守ってくれるというのだろうか。


「伊月くん、おはよう!」


 ドアの隙間からひょこっと顔を出した妻が、にっこり笑う。
 時計を見ると、時刻は午前10時。
 ずいぶん寝坊をしてしまったみたいだ。

「朝ごはん食べる?詩織とお母さんはもう食べたよ。」

「ああ、着替えたら行くよ。」

「はーい!」

 パタパタと遠ざかる妻の足音を聞きながら、ゆっくり立ち上がる。
 昨日の夢がただの夢でなく、あの少年と神が現実のものだと仮定して、今日は行動しようと思う。
 手早く身支度を整えてリビングへ向かうと、妻と義母がテレビを見ていた。

 俺の姿を目にとめると、「おはよう。ゆっくり眠れたのね。」と義母が安堵したように微笑んだ。
 どうやらここ数日の俺は、傍目から見ると相当ひどい状態だったらしい。

「おはようございます。すみません、寝坊してしまって。」

「いいのよ。座っていて頂戴。すぐにごはん、よそうわね。」

 雑穀米に鮭の塩焼き、ほうれん草の胡麻和えと漬物、味噌汁という理想的な朝食が用意され、俺はお礼と「いただきます。」を口にして箸を伸ばした。
 親子だからだろう、義母の味付けは妻のそれによく似ている。
 食事をゆっくりと味わったあと、俺はテレビを眺めている義母に声をかけた。

「ごちそうさまでした。……お義母さん、少しいいですか?」

「別にかまわないけど……。」


 俺は昨日の夢の内容を、包み隠さず話した。
 義母は面を食らったような顔をしていたが、話し終わると何か考え込むように黙り込んでしまった。
 高圧洗浄機の魅力を熱心に語る、テレビの通販番組の音声だけが響き渡っている。

 詩織にはつまらない番組なのだろう。
 何をしているのか見ていると、コトラを膝にのせてよしよしと撫で回している。
 コトラもコトラで、ペロペロと妻の指を舐めて愛情表現をしていた。


「展開が早すぎて、ついていけないわ。」


 しばらくして、ようやく放たれた義母の第一声がこれだった。
 確かに、この数日の展開の速さは怒涛の勢いだ。

「どうして急に、あなたまで異世界に行くなんていう話になるのよ。」

 盛大にため息をついた義母は、半ば呆れ顔で「どうせ止めても行くんでしょう?」と言った。
 俺が「すみません。」と謝ると、もう一度ため息をついて「わかったわ。」と答える。

「詩織のことは任せて、いってきなさい。ただし、自分の身の安全を最優先に、必ず無事に帰ってくると約束して。」

「……はい、必ず…!詩織のこと、よろしくお願いします。」

 深く頭を下げる。
 義母の助けがなければ、俺は異世界へ行くことを即決できなかったかもしれない。

 顔をあげると、義母は悲しそうな、でも嬉しそうな表情をしていた。
 柚乃を救う手立てが見つかったこと、それは義母にとっても大きな希望となったに違いない。


「ねえねえ、なんで詩織のことよろしくするの?」


 妻があどけない口調で訊ねる。
 俺はしばらく家を留守にすること、そして義母の言うことを聞いていい子に過ごすことを妻に言い聞かせる。

 妻はきょとんとして、

「詩織はお留守番しないよ?伊月くんといっしょに行くもん。」

と答える。
 危ないから連れていけないよ、と俺がいうと「でも。」と妻が口ごもる。

「でも?」

 優しく先を促すと、妻はこう答えた。


「詩織も連れて行ってくれるって、あのお兄ちゃんが約束してくれたよ。」


 お兄ちゃん?
 まさか……。

 絶句して妻を見ていると、その手に何か握られていることに気が付いた。
 とてつもなく嫌な予感がする中、妻に手の中のものを見せてくれるよう頼む。
 嬉しそうに手を開いた詩織が見せてくれたのは、まぎれもなく、俺が握っていたあの石と同じものだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...