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17 困惑
「絶対にダメよ!」
悲鳴のような声で叫んだのは、義母だった。
「今のあなたは、子ども同然なのよ?!そんな状態で異世界なんて、無理に決まっているじゃない!」
「無理じゃないもん!伊月くんもいっしょだし、ノアくんも詩織のやりたいようにしていいって言ってたもん!」
「ノアくんって誰なのよ!」
「あのお兄ちゃんの名前!なんていう名前なのって聞いたら、ノアって呼んでっていってたの!」
畜生、なんていうことだ。
どうやらあの少年は、俺だけでなく妻にも接触していたらしい。
よく考えればわかったことだ。
俺も妻も立場は同じ、異世界の神に命を狙われる立場だ。
それに神の話していた「同行者」とやらは、彼女のことだと考えるのが妥当だ。
「なあ、詩織。異世界はどんなところなのかわからない。俺も詩織を必ず守るとは言い切れない。お義母さんといっしょに、俺の帰りを待っていてくれないか?」
「いや!詩織も行く!」
「頼むよ……。詩織を失いたくないんだ…。」
俺と義母の困り果てた顔を見て、ぐっと詩織が怯んだ。
それでも、唇をきゅっと噛みしめて、強い眼差しでこちらを見つめる。
「……詩織は覚えてないけど、あの写真のお姉ちゃん、詩織の子どもなんでしょ?お母さんなら、子どもを助けにいかなきゃだめだもん。」
どうやら妻は妻なりに、娘のことを考えてくれていたらしい。
だからといって、妻が同行することは許容できない。
「なあ詩織、俺が異世界に行っている間に、もしかしたら柚乃が戻ってくるかもしれない。そのとき、俺もお前もいなかったら、柚乃は悲しいんじゃないかな?だから詩織には、ここで帰りを待っててほしいんだ。」
「そうよ、詩織。お母さんには異世界のことはよくわからないけど、突然連れ去られたんだから突然帰ってくることもあるかもしれない。詩織に何かあったら、柚乃はきっと傷つくわ。」
二人がかりで説得するが、妻は納得していない様子だ。
こういう強情なところは、大人になっても子どもになっても変わらない妻の性分らしい。
昔から妻は、一度決めたことは絶対に譲らなかった。
妻の性格を熟知している義母も、説得は難しいことを理解しているだろう。
しかしこれは、命にかかわる問題だ。
妻の決意が固いからといって、認めることはできない。
どう説得すればいいのか頭を抱える俺と義母に、妻は静かに語り始めた。
「詩織ね、写真のお姉ちゃんのこと、知らないって言ったでしょ?それは本当。でもね、知らないお姉ちゃんなのに、大切な人だってことはどうしてだかわかったの。どこにもいなくなって、伊月くんが探してるって聞いて、胸のところがなんだかきゅうって痛くなったの。」
「……詩織。」
「ノアくんもね、危ないよって教えてくれたの!本当はお留守番している方がいいって言ってた。でも詩織、どうしても行かなきゃいけない気がするの。あのお姉ちゃん……柚乃ちゃんを、詩織が助けてあげたいの!」
言葉こそ幼いが、その言葉はまさしく母親のそれだった。
記憶をなくし、精神が幼児期に退行していたとしても、妻の娘を思う気持ちは変わっていなかった。
それがとてつもなく嬉しかったのは、俺だけではないだろう。
一生懸命話す詩織の姿を見る義母の頬には、涙が伝っていた。
「詩織、伊月くんの言うこと聞いて、ちゃんといい子にするよ?柚乃ちゃんと同じように違う世界に連れていかれちゃった子にも、ちゃんとお話聞く!それに、それに……詩織、伊月くんのことも守ってあげたい。伊月くんが遠いところで怪我しちゃうのは嫌なの。」
目にたっぷりと涙を溜めて、妻が言った。
俺や義母が妻の心配をするように、妻も俺の心配をしてくれていたらしい。
俺も義母も、それ以上言葉が出なかった。
本音を言えば、今でも妻には家に残ってもらいたい。
それでも、俺が異世界へ発つのをやめられないように、妻も意思を変えることができないのであれば、俺に止める資格はないのかもしれない。
「……怪我をせず、無事に帰ってこないと許さないわよ。」
絞り出すような義母の声は、弱々しく震えている。
妻はそんな義母の気持ちを知ってか知らずか、「わかった!」と満足げに返事を返した。
悲鳴のような声で叫んだのは、義母だった。
「今のあなたは、子ども同然なのよ?!そんな状態で異世界なんて、無理に決まっているじゃない!」
「無理じゃないもん!伊月くんもいっしょだし、ノアくんも詩織のやりたいようにしていいって言ってたもん!」
「ノアくんって誰なのよ!」
「あのお兄ちゃんの名前!なんていう名前なのって聞いたら、ノアって呼んでっていってたの!」
畜生、なんていうことだ。
どうやらあの少年は、俺だけでなく妻にも接触していたらしい。
よく考えればわかったことだ。
俺も妻も立場は同じ、異世界の神に命を狙われる立場だ。
それに神の話していた「同行者」とやらは、彼女のことだと考えるのが妥当だ。
「なあ、詩織。異世界はどんなところなのかわからない。俺も詩織を必ず守るとは言い切れない。お義母さんといっしょに、俺の帰りを待っていてくれないか?」
「いや!詩織も行く!」
「頼むよ……。詩織を失いたくないんだ…。」
俺と義母の困り果てた顔を見て、ぐっと詩織が怯んだ。
それでも、唇をきゅっと噛みしめて、強い眼差しでこちらを見つめる。
「……詩織は覚えてないけど、あの写真のお姉ちゃん、詩織の子どもなんでしょ?お母さんなら、子どもを助けにいかなきゃだめだもん。」
どうやら妻は妻なりに、娘のことを考えてくれていたらしい。
だからといって、妻が同行することは許容できない。
「なあ詩織、俺が異世界に行っている間に、もしかしたら柚乃が戻ってくるかもしれない。そのとき、俺もお前もいなかったら、柚乃は悲しいんじゃないかな?だから詩織には、ここで帰りを待っててほしいんだ。」
「そうよ、詩織。お母さんには異世界のことはよくわからないけど、突然連れ去られたんだから突然帰ってくることもあるかもしれない。詩織に何かあったら、柚乃はきっと傷つくわ。」
二人がかりで説得するが、妻は納得していない様子だ。
こういう強情なところは、大人になっても子どもになっても変わらない妻の性分らしい。
昔から妻は、一度決めたことは絶対に譲らなかった。
妻の性格を熟知している義母も、説得は難しいことを理解しているだろう。
しかしこれは、命にかかわる問題だ。
妻の決意が固いからといって、認めることはできない。
どう説得すればいいのか頭を抱える俺と義母に、妻は静かに語り始めた。
「詩織ね、写真のお姉ちゃんのこと、知らないって言ったでしょ?それは本当。でもね、知らないお姉ちゃんなのに、大切な人だってことはどうしてだかわかったの。どこにもいなくなって、伊月くんが探してるって聞いて、胸のところがなんだかきゅうって痛くなったの。」
「……詩織。」
「ノアくんもね、危ないよって教えてくれたの!本当はお留守番している方がいいって言ってた。でも詩織、どうしても行かなきゃいけない気がするの。あのお姉ちゃん……柚乃ちゃんを、詩織が助けてあげたいの!」
言葉こそ幼いが、その言葉はまさしく母親のそれだった。
記憶をなくし、精神が幼児期に退行していたとしても、妻の娘を思う気持ちは変わっていなかった。
それがとてつもなく嬉しかったのは、俺だけではないだろう。
一生懸命話す詩織の姿を見る義母の頬には、涙が伝っていた。
「詩織、伊月くんの言うこと聞いて、ちゃんといい子にするよ?柚乃ちゃんと同じように違う世界に連れていかれちゃった子にも、ちゃんとお話聞く!それに、それに……詩織、伊月くんのことも守ってあげたい。伊月くんが遠いところで怪我しちゃうのは嫌なの。」
目にたっぷりと涙を溜めて、妻が言った。
俺や義母が妻の心配をするように、妻も俺の心配をしてくれていたらしい。
俺も義母も、それ以上言葉が出なかった。
本音を言えば、今でも妻には家に残ってもらいたい。
それでも、俺が異世界へ発つのをやめられないように、妻も意思を変えることができないのであれば、俺に止める資格はないのかもしれない。
「……怪我をせず、無事に帰ってこないと許さないわよ。」
絞り出すような義母の声は、弱々しく震えている。
妻はそんな義母の気持ちを知ってか知らずか、「わかった!」と満足げに返事を返した。
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