37 / 266
37 出立式
魔王討伐隊への入隊が決まった俺たちは、1日に数時間騎士団に交じって訓練を行った。
騎士団長であるロイや指南役のハクジも参加することがあったが、エミとショウの姿を見かけることはなかった。
勇者たちを目にしたのは、それからしばらくして行われた出立式の日だった。
出立式には討伐隊の隊員だけでなく、国の主要貴族も参加していた。
討伐隊には、貴族も平民もともに在籍していたが、平民は後ろの方に追いやられていたので、エミとショウも小さくしか見えない。
入隊したのはいいが、このまま話をする時間をとれなかったらどうすればいいのか。
勇者との面会は容易に許可されるものではなく、周囲のガードも堅い。
こっそり王城内のエミとショウの居室に忍び込んだなら、きっとすぐに捕らえられることだろう。
死罪になる可能性だってある。
「なあ、ノア。これからどうするつもりなんだ?」
すべてを把握しているであろう彼に聞くのが手っ取り早いが、案の定「どうしようか。」とはぐらかされてしまった。
困った素振りがまったくないことから、どうやらノアはエミとショウに接触する手段を思いついているようだ。
事前に教えてくれれば、心の準備ができるのに。
そう恨めしく思いながらも、俺は考えることを放棄して国王の長話に耳を傾けた。
※
「このあと、おいしいものが食べられるんだって!」
出立式の最中、しきりにあくびをしていた妻が言う。
今の俺たちは、無事に式を終え、次の指示を待って待機しているところだ。
「おいしいもの?」
「うん、近くにいたお姉さんが言ってた!頑張って戦う人を応援するために、お城のおいしい料理を出してくれるんだって。」
「それは貴族だけじゃなくて?」
「ううん、貴族の人とは違う部屋で、詩織たちも食べれるんだって。」
王城の料理、さぞかし豪勢なのだろう。
ただ貴族と平民で別室を用意しているということは、食事にももちろん大きな差がつけられているはずだ。
しかし身分の差が大きいこの国において、平民に王城で食事を振舞うというのはめったにないことだろう。
「楽しみだな。」
「うん!」
妻が元気に返事をしたところで、騎士の一人から別室へ移動するよう指示を出された。
討伐隊の隊員がぞろぞろと移動する中、俺たちも後を追う。
通されたのは、広いホールのような場所だった。
大きなテーブルの上には所狭しと料理が並び、片隅には空の食器とカトラリーが置かれている。
どうやらビュッフェ形式で食事をするようだ。
ぼんやりとあたりを見渡していると、どよめく声が耳に入った。
騒ぎの方に誌線を向けると、ちょうど扉からエミとショウが入ってくるところだった。
「あ!エミちゃんとショウくんだ!」
妻がぱっと走りだすが、勇者2人はほかの隊員に囲まれてしまい、なかなか近づけない。
しばらく周りをうろうろしていたが、諦めて戻ってきた。
口を尖らせて「お話したかった…。」とぼやく妻を慰めつつ、ノアに目配せをする。
「お優しい勇者様たちは、貴族への挨拶が終わったあとにこちらにも足を運んでくださったようだよ。隊員に挨拶をして回っているようだから、そのうち僕らのところにもくるかもしれないね。」
「ああ、でも…。」
「人目のあるところじゃ、大した話はできないね。」
ノアが肩をすくめる。
近くに転移者がいるのに、話をきくことができないのが何とも歯がゆい。
どうにか人目を避けて話ができればいいのだが…。
そんなことを考えているうちに、だいぶ時間がたったのだろう。
いつのまにか俺たちの番が来たようだ。
俺たちの前にやってきた勇者たちに、軽く頭を下げて挨拶をする。
「訓練はどう?」
エミが問いかけ、妻が「頑張った!」と答えた。
気安い口調で話す妻に怪訝な目を向けるものもいたが、邪気のない様子に温かいまなざしを向けるものも多い。
「えらいね!私たちも頑張っているよ。」
「ロイさんから聞いたけど、君たち本当に強いんだね。でも討伐では命を大事にしなきゃだよ。」
どうやら二人とも、多少は俺たちのことを気にかけてくれていたらしい。
「それじゃあ、討伐の旅に出てからもよろしくね。」
忙しなく踵を返したエミに、妻が「もっとお話ししたいのに…」と残念そうな声をあげる。
俺が小声で注意すると口をつぐんだが、不満そうな表情はそのままだ。
そんな妻の様子に、エミが小さく吹きだす。
「シオリちゃん、小さい子どもみたい。……じゃあ、明日お茶しながらゆっくりお話しする?明日は訓練お休みだし、あんまり予定もないから。」
「いいの?!」
エミとショウのそばに護衛として立っていたロイが咎めるような視線を向けていたが、エミはスルーして「約束ね。」といった。
「みんないっしょでもいい?」
「みんなって、イツキとノア?」
「あとコトラも。」
「いいよ。あとで使いを出すから、詳しい時間はそのときにね。」
妻はすっかりご機嫌で、去っていくエミとショウに手を振っていた。
「さすが詩織ちゃん。」
呆然とする俺を横目に、おかしそうにノアが笑っていた。
騎士団長であるロイや指南役のハクジも参加することがあったが、エミとショウの姿を見かけることはなかった。
勇者たちを目にしたのは、それからしばらくして行われた出立式の日だった。
出立式には討伐隊の隊員だけでなく、国の主要貴族も参加していた。
討伐隊には、貴族も平民もともに在籍していたが、平民は後ろの方に追いやられていたので、エミとショウも小さくしか見えない。
入隊したのはいいが、このまま話をする時間をとれなかったらどうすればいいのか。
勇者との面会は容易に許可されるものではなく、周囲のガードも堅い。
こっそり王城内のエミとショウの居室に忍び込んだなら、きっとすぐに捕らえられることだろう。
死罪になる可能性だってある。
「なあ、ノア。これからどうするつもりなんだ?」
すべてを把握しているであろう彼に聞くのが手っ取り早いが、案の定「どうしようか。」とはぐらかされてしまった。
困った素振りがまったくないことから、どうやらノアはエミとショウに接触する手段を思いついているようだ。
事前に教えてくれれば、心の準備ができるのに。
そう恨めしく思いながらも、俺は考えることを放棄して国王の長話に耳を傾けた。
※
「このあと、おいしいものが食べられるんだって!」
出立式の最中、しきりにあくびをしていた妻が言う。
今の俺たちは、無事に式を終え、次の指示を待って待機しているところだ。
「おいしいもの?」
「うん、近くにいたお姉さんが言ってた!頑張って戦う人を応援するために、お城のおいしい料理を出してくれるんだって。」
「それは貴族だけじゃなくて?」
「ううん、貴族の人とは違う部屋で、詩織たちも食べれるんだって。」
王城の料理、さぞかし豪勢なのだろう。
ただ貴族と平民で別室を用意しているということは、食事にももちろん大きな差がつけられているはずだ。
しかし身分の差が大きいこの国において、平民に王城で食事を振舞うというのはめったにないことだろう。
「楽しみだな。」
「うん!」
妻が元気に返事をしたところで、騎士の一人から別室へ移動するよう指示を出された。
討伐隊の隊員がぞろぞろと移動する中、俺たちも後を追う。
通されたのは、広いホールのような場所だった。
大きなテーブルの上には所狭しと料理が並び、片隅には空の食器とカトラリーが置かれている。
どうやらビュッフェ形式で食事をするようだ。
ぼんやりとあたりを見渡していると、どよめく声が耳に入った。
騒ぎの方に誌線を向けると、ちょうど扉からエミとショウが入ってくるところだった。
「あ!エミちゃんとショウくんだ!」
妻がぱっと走りだすが、勇者2人はほかの隊員に囲まれてしまい、なかなか近づけない。
しばらく周りをうろうろしていたが、諦めて戻ってきた。
口を尖らせて「お話したかった…。」とぼやく妻を慰めつつ、ノアに目配せをする。
「お優しい勇者様たちは、貴族への挨拶が終わったあとにこちらにも足を運んでくださったようだよ。隊員に挨拶をして回っているようだから、そのうち僕らのところにもくるかもしれないね。」
「ああ、でも…。」
「人目のあるところじゃ、大した話はできないね。」
ノアが肩をすくめる。
近くに転移者がいるのに、話をきくことができないのが何とも歯がゆい。
どうにか人目を避けて話ができればいいのだが…。
そんなことを考えているうちに、だいぶ時間がたったのだろう。
いつのまにか俺たちの番が来たようだ。
俺たちの前にやってきた勇者たちに、軽く頭を下げて挨拶をする。
「訓練はどう?」
エミが問いかけ、妻が「頑張った!」と答えた。
気安い口調で話す妻に怪訝な目を向けるものもいたが、邪気のない様子に温かいまなざしを向けるものも多い。
「えらいね!私たちも頑張っているよ。」
「ロイさんから聞いたけど、君たち本当に強いんだね。でも討伐では命を大事にしなきゃだよ。」
どうやら二人とも、多少は俺たちのことを気にかけてくれていたらしい。
「それじゃあ、討伐の旅に出てからもよろしくね。」
忙しなく踵を返したエミに、妻が「もっとお話ししたいのに…」と残念そうな声をあげる。
俺が小声で注意すると口をつぐんだが、不満そうな表情はそのままだ。
そんな妻の様子に、エミが小さく吹きだす。
「シオリちゃん、小さい子どもみたい。……じゃあ、明日お茶しながらゆっくりお話しする?明日は訓練お休みだし、あんまり予定もないから。」
「いいの?!」
エミとショウのそばに護衛として立っていたロイが咎めるような視線を向けていたが、エミはスルーして「約束ね。」といった。
「みんないっしょでもいい?」
「みんなって、イツキとノア?」
「あとコトラも。」
「いいよ。あとで使いを出すから、詳しい時間はそのときにね。」
妻はすっかりご機嫌で、去っていくエミとショウに手を振っていた。
「さすが詩織ちゃん。」
呆然とする俺を横目に、おかしそうにノアが笑っていた。
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!