娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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41 決断

「嘘よ……。」

 目に大粒の涙を浮かべながら、エミが呟く。

「でも、僕たちの前に現れた女神だった……。」

 ショウは拳を握りしめる。
 その手は怒りに震えていた。

 ロイはすっかり頭を抱えてしまった。
 今の映像を見て、それでも勇者としての役目を果たしてほしいとは言えないようだ。


「君たちはどうしたい?確実に殺されちゃうけど、それでも世界を救う勇者になりたい?」

「殺されたくない!でも、でも……!」


 ついに2人とも泣き出してしまった。
 まだ中学生だ。
 信じていた女神が味方ではなかったという事実は、彼らを打ちのめすには十分だった。


「なあ、ノア?」

「何だい?」

「さっき、団長でも魔王を倒せるって言ってたけど、本当なのか?……2人が元の世界に戻っても、この世界を救う術はあるのか?」


 2人が帰宅を躊躇する理由は、この世界の危機を回避する方法が明確になっていないからだろう。
 それがはっきりすれば、心のままに選択することができるかもしれない。


「ああ、その話がまだだったね。それが2人のネックかな?」


 ノアの問いかけに、2人は泣きながら頷く。
 いつの間にか2人に駆け寄っていた妻が、よしよしと頭を撫でていた。


「もしも君たちが帰還を選ぶなら、あとのことは僕がどうにかしてあげる。具体的には、そうだね……君たちの偽物でも用意しようか?」

「偽物?」

「そう。本物そっくりに作るから、魔王を討伐するときまで、女神にバレることはないよ。女神が偽物の存在に気づくのは、力を回収するときかな?」


 そう言って、ノアは冷たく笑う。


「君たちに付与されている力は、僕が回収する。信仰を集めたところで、女神の力自体が薄れていると、世界への干渉もろくにできなくなるだろう。弱体化した女神は、いずれ神の世で裁かれる。相応の報いを受けることになるはずだよ。」


 神の世界にも、裁判というのが存在するのだろうか?
 そんな疑問を抱きながら、ぼんやりと話を聞いていた。

 ノアは改めて、エミとショウにどうしたいのかと問いかけた。
 2人は揃って「帰りたい。」と返して嗚咽する。
 ノアはうんうんと頷いて、今度は優しく笑った。


「それでね、ロイくん。」


 ノアがぱっとロイに向き直る。


「は、はい!」


 ノアの貫禄に圧倒されたのか、いつの間にか敬語になっている。


「君にひとつ頼みたいことがあるんだ。」

「頼み……ですか?」

「そう。エミちゃんとショウくんの身代わりは作るけど、女神の分身ともいえる魔王を倒せるかとうかは定かじゃない。……まあ人形のようなものだから、魔王に負けてもそっちは大丈夫なんだけど、この世界の人は勇者に勝ってもらわないと困るでしょ?

 だからロイくんには、偽物勇者たちの補助をしつつ、魔王討伐の真の勇者になってほしい。……この世界の人が魔王を倒せないのは、女神が呪いをかけているせいなんだ。女神に逆らうことができない呪い。だから女神の力で生み出された魔王も倒すことができないってわけ。

 ロイくんには、女神の呪いから解放されるよう、僕から強い祝福を授ける。実力は十分だから、無理なく魔王を倒せるはずだよ。……できるかな?」

「……精一杯、努めさせていただきます。」


 頭を下げるロイに、ノアが手をかざす。
 すると淡い翡翠色の光が降り注ぎ、ロイの中に消えていった。


「これで大丈夫。魔王を討伐しても、君が真摯な行いを続けるのであれば、引き続き祝福を授けよう。ただし、力に溺れ、それを私利私欲のために使うなら、魔王討伐前でも罰を下す。」

「決して人道に背く行いはしないと誓います。」

「信じているよ。頑張ってね。」


 微笑むノアの姿は神々しく、あの女神よりもよっぽど神らしいと思った。







 偽物の勇者作りは、一瞬で終わった。
 自分にそっくりの動く人形を、興味深そうにエミとショウが覗き込んでいる。

 2人が泣き止んだことに安心したのか、妻はソファに腰掛けてお菓子を食べている。
 妻は俺にも勧めてきたが、先程の前勇者の映像が頭をよぎり、遠慮することにした。


「勇者様方。」


 エミとショウの前に、ロイが跪く。


「我が世界の都合で、おふたりには大変なご迷惑をおかけ致しました。本来であれば国を挙げて謝罪の場を設けるべきですが、ご無礼をお許しください。」

「そんな、ロイさん!頭を上げてください!」

「そうですよ!異世界で右も左もわからなかった僕たちにとって、ロイさんは年の離れたお兄さんみたいで、どれだけ助けられたか……。」

「こんな他人行儀なお別れなんて嫌です!」


 口々に語る2人に、ロイが涙ぐむ。
 ありがとう、と言って2人の頭をワシワシと乱暴に撫でた。
 エミもショウも嬉しそうに声を上げて笑う。


「お別れの挨拶は済んだかな?」


 ノアの問いかけに、2人は頷いた。


「それじゃあ、今まで頑張った2人に僕からのご褒美だよ。」


 ノアが手をかざし、2人に祝福を授ける。


「これからの人生も、懸命に努力し、道徳的な行いを心がけるように。さすれば、幸福への道が拓けるだろう。……エミちゃんもショウくんも、自分の身を削って、見知らぬ世界の人々を救う決心ができた。だからきっと、大丈夫だと信じているよ。」


 2人は黙って頭を下げた。
 唇を噛み締めて、涙をこらえている。
 異世界での生活は、まだ幼い彼らにとって、つらいものだったはずだ。
 それでも弱音を吐かず、世界のために努力を続けた彼らを俺は尊敬する。


「エミちゃん、ショウくん。向こうに戻ったら、お姉さんによろしく伝えてね。……それと、少し頼みがあるんだけどいいかな?」

「もちろん!……って、本当はすごい年上なんですよね?すみません、ずっとタメ口で……。」

「いやいや、タメ口のままで大丈夫。こちらこそ、騙したようでごめんね。」


 俺は、義母と佐々木、勇司への伝言を彼らに託した。
 舞を通して佐々木に連絡をして、佐々木から義母と勇司に伝言を伝えてもらう予定だ。

 異世界で無事にやっていること。
 これからも転移者へ帰還を促し続けるつもりであること。
 可能であれば、今後も帰還者に経過を報告する伝言を頼むつもりであること。


「確かに伝えるね!」

「約束する。」


 そう言った2人の後ろに、大きな白い扉が現れた。
 ゆっくり開いた扉の先は、やはり眩い光が溢れるだけで、その先は見えない。


「この先へ進むと、元の世界へ戻れるよ。」


 ノアが言った。
 エミとショウは手を強く繋ぎ、扉の中に一歩足を踏み出した。
 2人の姿が光りに包まれて消えゆくさなか、確かに「ありがとう。」と聞こえた気がした。
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