娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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46 教会

「収穫祭は確かに大きいお祭りなんだけど、今年は特別なのよ。」


 教会への道すがら、リサが教えてくれた。
 どうやら今年は、収穫祭に合わせて聖女の巡礼が行われるらしい。
 国内を回って瘴気を浄化する傍ら、各地に点在する聖地を巡ることで、聖女としての力をより高めることができるという。
 聖女の巡礼には、この国の王子も付き添い、旅を終えたらふたりは結婚することが決まっているそうだ。
 
 まるで王道の少女漫画のような展開だ。
 王子様との運命的な恋に憧れを抱く少女にとっては、夢のような話だろう。

 しかし聖女はまだ幼い子どもだ。
 物事の分別が付くかどうかも怪しい年ごろの子ども相手に何を……と思ってしまうのは、俺が父親としての立場で考えてしまうからなのかもしれない。
 しかし川西夫妻のことを考えると、このまま流れに任せてふたりを結婚させてはいけない気がする。


「ちょっと、伊月くん。怖い顔になってるよ。」


 小声でノアに注意された。
 気持ちが顔に出すぎていたらしい。
 幸い、前を歩くリサや妻には気づかれなかったようだ。

 俺は「ごめん。」と小さく返し、表情を緩めた。



「さ、ここが教会よ!」


 到着した教会は、想像よりもずっと大きかった。
 街自体は田舎の部類に入るだろうが、教会だけは大聖堂と言っても過言ではない荘厳さだ。


「すごく立派ですね。」


 思わず、声に出てしまった。
 リサは得意げに「ここは初代聖女様降臨の地だからね。」と笑った。

 今から1500年ほど前、世界が瘴気に蝕まれ、混沌としていた時代、聖女が降り立ったのは、何もない荒野だった。
 たまたま通りがかった商人に拾われた彼女は、近隣の町へ向かう途中に、自分が異世界から訪れたことを知ったという。
 その後教会で神の啓示を受けた神官に保護され、聖女としての力に目覚めたのだそうだ。



「初代聖女様のおかげで、枯れていくだけだった土地に命が宿ったのだそうよ。聖女様は当時の国王と結婚して、末永く国の繁栄のために尽力なされたと伝えられているわ。そんな聖女様の死後、彼女の功績を称えて建てられたのが、この教会なの。なかには、聖女様の像もあるのよ。」

「立派な方だったのですね。」

「というか、あなたたちこの国の出身じゃないの?この国では、小さな子どもでも知っている話よ?」

「えっ!……あ、えーと、実は遠い国の出身で。この国の事情には明るくないんです。」


 苦い笑いをしてごまかす。
 我ながら苦しかったが、リサは追及しないでくれるようだ。


「まあいいわ。ちょっと相談してくるから、礼拝堂で待っていてちょうだい。」

「わかりました。」


 姿勢よく歩いていくリサの背中を見送って、俺たちは礼拝堂に足を踏み入れた。
 塵一つなく磨き上げられた礼拝堂は厳かで、いくつもの神像が祀られている。


「この世界の神は、一人じゃないのか?」


 ノアに訊ねる。


「そうだね。この世界は3人の神が治める世界だ。一番大きいのが太陽神、髪の長い女性が月の女神、そして子どもの姿をしているのが海神。一応名前はあるけど、君たち日本人にとっては発音しづらいし長くて覚えづらいだろうから、気にしなくていいよ。

 それで、こっちの女の子が初代聖女かな。彼女が降臨したのはこの世界では1500年以上前だけど、あちらの世界では20年くらい前のことなんだ。」

「20年!?」

「そう。世界が違えば、時間の進み方も変わってくる。この世界に連れてこられなければ、伊月くんや詩織ちゃんとあまり歳は変わらなかっただろうね。」

「それじゃあ、もしかして今の聖女も……?」

「この世界にきて、もう3年になる。ずいぶん大きくなっているよ。」

「そんな……っ。」


 そんなに成長して、向こうに帰ったときにどうすればいいのか。
 ノアやあちらの神様がどうにかしてくれるのかもしれないが、思春期の3年という時間は俺が想像する以上に長いものだろう。


「ちょうど王子も同年代。だから、相手はロリコンではないよ。」

「ロリコンって…。」

「気になってたでしょ?それに、この世界の平均結婚年齢は18歳。早ければ12歳で結婚することもある。だからこの世界では、聖女は結婚適齢期ってこと。」


 そうはいっても、日本人の感覚で納得できるものではない。
 俺だって、柚乃が異世界で結婚すると言い出したら絶対に反対する。

 もしも柚乃がすでに結婚していたら……。
 恐ろしい思考に呑み込まれそうになって、慌てて首を振る。
 今は心配してもどうしようもないことだ。

 俺はただ、もう一度柚乃に会うため、全力を尽くす。
 今はただ、それだけを考えるようにしよう。
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