娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
51 / 266

48 収穫祭

しおりを挟む
 翌朝、あくびを噛みしめながら、俺は街の大通りに来ていた。
 妻はコトラも連れて行こうとしていたが、人が多いところは好まないのか、しっぽを振るだけで拒否した。
 今頃、教会の部屋でぐっすりと眠っていることだろう。
 眠気をこらえながら、俺は少しだけコトラをうらやましく思った。

 大通りにはさまざまな屋台が並び、おいしそうな匂いが漂っている。

 妻は目を輝かせ、口の端からはちょっとよだれが垂れている。
 俺は妻の口元を吹きながら、ノアに「今日の目的は?」と訊ねる。
 ノアはきょとんとした顔をして「遊びに来ただけだよ?」と答えた。


「は?とくに用事があるわけじゃないのか?」

「うん。詩織ちゃんもお祭り見たがってたし、いいかなって。どうせ聖女が来るまで、何ができるってわけでもないしさ。」

「いや、そうはいっても…。」

「それに僕、こういう人間の文化見るの、結構好きなんだよね。」


 ころんとしたきれいな硝子玉を手に取り、ノアが笑う。
 光にかざすとキラキラして、まるで星を閉じ込めているようだ。

 ノアは適当に硝子玉を何個か選び、店主に料金を支払う。
 袋に入れてもらってうれしそうにしている様子を見ると、文句は言えなかった。


 妻は大きな綿菓子を買ってもらい、大きな口を開けて食べている。
 口周りがまたべたべたになっているから、あとで拭いてやらないといけないな。
 そんなことを考えつつ、あたりを見渡す。


 小さな街だと思ったが、活気のあるいい街だ。
 街の人の表情は明るく、景観もよく整備されている。
 聖女の巡礼に備えているとはいえ、この状態を維持するのは一朝一夕とはいかないだろう。

 ふと、カラフルな屋台が目に留まる。
 どうやら焼き菓子を売っているお店らしい。
 買っていったら、孤児院の子供たちは喜ぶだろうか。
 ぼんやり考えていると、ノアが「行ってきたら?」と背中を押した。


「勝手に心を読むなよ。」

「ふふっ、伊月くんがわかりやすいだけだよ。」


 お金の管理は基本的にノアに任せているが、俺や妻 も一定の金額を持たされている。
 万が一はぐれてしまったときや、不測の事態でお金が必要になったときに備えて、だそうだ。
 ノアにとって不測の事態など起こりえないような気がするが、無一文というのは落ち着かないのでありがたかった。

 屋台では、黒髪の少女が売り子をしていた。
 この世界には珍しく、日本人に近い顔立ちだ。
 少女は「どうぞ見ていってください。」と微笑んだ。


「それじゃあ、この瓶詰めのクッキーをまとめてもらおうかな。」

「全部ですか?結構な量になりますよ?」

「孤児院へもっていくから、たくさん必要なんだ。」


 なるほど、と少女は頷き、クッキーの瓶を袋に詰めてくれた。
 料金を支払い、お礼を言って立ち去る間際、少女が「子どもたち、喜んでくれるといいですね!」と笑いかけた。

 俺は「ありがとう。」と返し、妻とノアのもとに戻る。
 妻は俺の抱えた袋が何か気になったようだったので、孤児院へのお土産だと教えると、嬉しそうに俺の頭を撫でてくれた。
 お姉さんぶっている様子がおかしくて思わず笑うと、妻は褒めたことを喜ばれたと勘違いしたのか、その後もしばらく俺の頭を撫でまわし続けた。


 屋台で軽く早めの食事を済ませてから、孤児院へ戻る。
 結局あのあと、妻もお土産を買いたがったので、屋台を回って串焼きをたくさん包んでもらった。
 育ち盛りの子どもたちには肉が喜ばれるはずだ、と提案したのは俺だ。
 今から急いで帰れば、子どもたちの昼食に間に合うかもしれない。

 子どもたちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、足早に孤児院へと急いだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...