娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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64 裏切り

「それじゃあ、僕たちはそろそろ行くよ」


 ノアが神々に告げる。


「君たちの処分については、追って使いをよこすから、心して待つように」


 そのノアの言葉に、神々が恭しく頭を下げた。
 俺はずっと、ノアは神に準ずる存在なのだと思っていた。
 しかし彼らの態度は明らかに、自分よりも格上の相手に対するものだ。
 もしかしたらノアは、神よりも上の立場の存在なのかもしれない。

 ノアがパチンと指を鳴らすと、元の聖女の部屋に戻っていた。
 例の異世界間をつなぐ白い扉が現れるものと思っていたから、意外だった。


「元の世界に帰すんじゃないのか?」

「帰すよ。でも、挨拶もまだだろう」

「挨拶って……」


 戸惑っていると、カチャリと音がした。
 誰かが鍵を開けたようだ。

 ゆっくりと開く扉に、身を固くする。
 こっそりと顔をのぞかせたのは、由佳里の護衛をしていた大男のネルだった。

 ネルは俺たちが由佳里の部屋にいることに驚き、一瞬で剣を抜いて、由佳里の手を引き、自らの背に庇う。
 あまりに鮮やかな動きに、感心するほどだ。
 由佳里は戸惑いつつも「やめて!」とネルを制止する。

 由佳里の声に、ネルが動きを止める。


「この人たちは敵じゃない!乱暴なことはしないで」

「しかし……」

「しないで」


 ネルは戸惑いつつも、剣を鞘におさめた。
 そして小声で「お逃げください」と由佳里に告げる。

 その理由を由佳里が問うと、ネルは眉間にしわを寄せ「危険が迫っております」とだけ言った。


 そのとき、扉の向こうからこちらへ向かってくる足音が聞こえた。
 ネルは瞬時に部屋の扉から由佳里を遠ざける。
 勢いよく開かれた扉の先には、王子と数人の兵士が怒りの形相で立っていた。


「……何をしている?」


 冷たい声で王子が訊ねる。


「それにお前たち、なぜここにいる?警備は万全だと聞いていたが、ネズミの侵入を許していたとは……」

「おや、ずいぶん粗末な警備だったけどね?」


 ノアが煽ったが、王子は挑発に乗らず、ふんっと鳴らしただけだった。


「それで、何の用だ?」

「別に?君に用はない。僕たちは由佳里ちゃんと話をしにきただけだよ」

「何の話だ?」

「彼女は、元の世界に帰してもらうよ」


 ノアの言葉に、王子が目を見開く。
 そして大きな声で笑い始めた。


「ばかな!帰れるわけがないだろう。神託も下っているのだぞ、この世界のために生涯を捧げろとな」

「神託を下した神とは、もう話はついているから大丈夫。明日には、新しい神託が下るんじゃない?」

「……は?」

「今後の瘴気の浄化は、君たち王族のお仕事になるらしいよ。頑張ってね」


 にっこりとノアが笑うと、王子は「ふざけるな!!」と激高した。
 そして剣を抜き、由佳里に向かって切っ先を伸ばす。


「なぜこの俺が瘴気の浄化をする必要がある?聖女が元の世界に帰ろうとするからいけないのだろう。無責任な……。おい、ネル!お前はそこで何をしている?はやく聖女をこちらに連れてこい。儀式の支度も整った」

「……儀式?」


 由佳里が怯えた表情で王子を見る。
 王子はそんな由佳里のことなど無視して、ネルに叱責を続ける。


「早くしろ!この愚図め。失敗したらどうする!」

「……できません……!」


 怒鳴り散らすアレンに、ネルが呟く。
 アレンにとっては予想外の返答だったのだろう。
 その言葉に固まったかと思うと、顔を真っ赤にしてより大声で怒鳴りつける。


「お前も俺を裏切るのか!もういい、お前も殺してやる!!」


 アレンが兵士に攻撃を指示する。
 兵士が魔法の詠唱を始めると、ネルが俺たちに向かって「彼女を連れて逃げてほしい」と頼んだ。


「勝手なことを言っているのはわかっている。だが、このままでは聖女様の心が壊されてしまう。この世界のために尽くしてくれた聖女様に、そんなことをさせるわけにはいかない。だから頼む……!」


 剣を構えたまま、聖女の前に立ち続ける彼は、どうやら自分の身を犠牲にしてでも由佳里を逃がしたいらしい。
 由佳里は唖然としたまま、ネルを見上げている。

 気づくと、俺は短く「アイスウォール」と唱えていた。

 みるみるうちに氷の壁ができあがり、俺たちとアレンたちの間を遮る。
 ノアは俺を見て「70点かな」と言った。
 普段と比べると、なかなか高評価だ。


「減点ポイントは?」


 一応訊ねると「発動までの時間と氷壁の厚さが均等でないところ」だと返された。
 出来上がった壁を見ると、確かに端の方が少し薄くなっている。


「でも、とっさにしては上出来だよ。僕より先に魔法を唱えたのも加点対象。よくできました」


 ノアに褒められ、ちょっと嬉しくなりながら、俺はネルに向き直った。


「とりあえず、今のうちに話を聞かせてくれないかな?」


 ネルはぽかんと口を開けたまま、呆然と頷いた。
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