娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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71 よくある不幸話

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「問題は、肉体が失われているから、生きたまま元の世界に連れ戻せないことなんだよね」


 真剣な顔で、ノアが言った。
 魂だけ連れ戻して、輪廻の輪に戻すことはできるらしい。
 しかし肉体が別の世界に吸収されているから、その損失を補うために長い時間生まれ変わることができないらしい。

 ただし、肉体が吸収された異世界の輪廻の輪に入れば、ほかの人間と同じサイクルで生まれ変われるそうだ。
 しかしそれは、残してきた家族との永久の別れを意味する。


「……難しい問題だな」

「そうなんだよ。本人に選んでもらうつもりだけど、まだ子どもだからね」

「今までの転移者も子どもだっただろ?」

「うん。でも彼女は、まだ10歳だからね」


 俺は目を見開いた。
 10歳の子どもに、酷な選択をさせることになるなんてと、異世界の神に憤る。

 そして、憑依者の年齢を聞いて、誰の家族の話なのか察した。


「……勇司くんの妹か……」


 俺の呟きに、ノアは静かに頷いた。


 勇司は、異世界で魔王を倒した勇者だった。
 彼が異世界に渡ったのは、病気の妹の治療のため。
 彼が魔王と倒すことと引き換えに、女神が妹を救ってくれると約束したのだという。

 しかし約束は果たされず、勇司は元の世界へと送り返された。
 引き換えに、妹を奪われて。


「それで、その子は誰に憑依したんだ?」

「貴族の女の子だよ。年齢は、元の世界と同じく10歳」

「貴族か……」

「……とはいっても、貴族らしい扱いは受けていないけどね」


 苦々しくノアが言う。

 生まれ変わった先の少女は、この世界の侯爵家の長女だという。
 しかし彼女の母親は、少女が5歳のころに病死。
 その後、父親はすぐに後妻を迎え入れた。

 後妻には、少女の一つ下の娘がいるそうだ。
 その娘の父親は、侯爵家の当主。
 少女の父親と同一人物である。

 つまり、少女の母親が存命のころから、父親は愛人を囲っていて、子どもまで生ませていたのだ。


「それで、その子は今、継母と腹違いの妹に虐められているのか?」

「そう。よくある話だよね」

「……父親は?」

「少女には興味がないみたい。少女が何をされても、知らぬ存ぜぬを通しているそうだよ。後妻とその娘には全身全霊で愛情を注いでいるらしいけどね」

「……最低だな」


 ノアも同意見らしく、眉間に深くしわを寄せている。
 年端もいかない少女を寄ってたかって虐める心理が理解できない。


「まずは、彼女を今の状況から救い出すことが急務になる」

「ああ。でも、どうやって?貴族の屋敷に忍び込むのか?」

「……いや、後々困らないよう、正当な手段を使う」

「正当な手段?」

「侯爵よりも地位の高い人物を頼るんだ」


 ノアは簡単そうに言ったが、そんな身分の相手と接点を持つことは容易ではないだろう。
 そう思いつつも、ノアが言うならなんとかなるのだろうと思った。







 夜が明けるのを待って、小屋を出た。
 近くの街までは、半日ほどかかるらしい。


「ずいぶん森の奥だったんだな」


と俺がいうと、ノアは「出没する魔物も強いから、気を付けるんだよ」と笑った。
 ノアの指導の下、世界が変わっても鍛錬は続けていた。
 それなりの実力は身につけたつもりだが、強い魔物にも通用するのかと心配になる。

 妻も不安になったようで、俺の腕をつかんで辺りを警戒していた。
 コトラは妻に抱かれたまま、呑気にあくびをしている。


「索敵能力が一番高いのはコトラだから、コトラの様子を見ておくといいよ」


 ちらりとコトラを見ながら、ノアが言う。
 コトラは得意げに「にゃおん」と鳴いた。
 妻はそんなコトラを「すごいねぇ」と撫でまわしている。


「ま、多少攻撃受けてもその装備なら死ぬことはないよ。いざとなったら僕が治療してあげるから、安心して」


 死なないが、怪我をしないわけではないのか。

 異世界へ渡るとき元の世界の神とノアに用意してもらった装備は、どれも最高級品だ。
 多少強い魔物では、傷一つつけられないと言っていた。
 そうなると、ここにいるのは……。

 そんなことを悶々と考えながら、何十分か歩いたころ、ふいにノアが話し始めた。


「ねえ、伊月くん。男の子ってさ、いつまでも童心を忘れないものだよね」

「いや、人によると思うけど……」

「伊月くんはさ、恐竜とか好きでしょ?フィギュア飾ってたし、冒険ものの異世界小説大好きじゃん」

「まあ」


 話の意図がわからず、戸惑いながら返事を返していると、妻の腕の中のコトラが「シャー!」と威嚇するような鳴き声を発しだした。
 コトラは妻の腕からするりと抜け出すと、全身の毛を逆立て、牙をむき出しにして進行方向を睨んでいる。

 嫌な予感に身を震わせる俺に、ノアが満面の笑顔で言った。


「ほら、もうすぐドラゴンがくるよ!よかったね!」


 俺は全身に鳥肌が立つのを感じながら「全然よくない……」と呟くことしかできなかった。
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