娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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72 対ドラゴン戦

 今までにも、さまざまな魔物と戦ってきた。

 定番のスライムをはじめ、オオカミや熊なんかの強い魔物もいた。
 ゴブリンやコボルト、オークなどの人型の魔物は、討伐するのに抵抗があったが、何とか頑張った。


 しかし、今目の前で大きな咆哮をあげているのは、正真正銘の巨大なドラゴン。
 まさに口から火でも吹きそうな様子だ。
 分厚くて硬そうな鱗、鋭い牙、そして金色に光る瞳。
 そのどれもが、ドラゴンの圧倒的な力を象徴しているように見える。

 正直、異世界に行くなら、一度はドラゴンを見てみたいと思ってはいた。
 強い者に憧れる男の性分は、中年になっても変わらない。

 でも、でも……!


 俺は妻の手を引いて、全力で走りだしていた。
 妻も声にならない悲鳴を上げながら、パニックを起こしている。


「こんなでっかいドラゴンと戦うつもりなんてないって!」


 そう叫ぶ俺を見て、ノアが楽しそうに笑い声をあげている。

 そもそも、最初から巨大ドラゴンってどういうことだよ!
 こういうのって、せめてワイバーンみたいな小さめの竜から挑戦するもんじゃないの?!


 全身に感じるドラゴンの威圧感に怯みながらも、この状況で何をすべきか考える。

 あの様子のノアは、よほど切羽詰まった状況にならない限り、手助けなどしてくれないだろう。
 すっかり混乱している妻に、戦闘は期待できない。
 むしろ、あんな危険生物と妻を戦わせられるはずがない。

 コトラは、俺たちについてきながらも威嚇を繰り返している。
 敵意はむき出しだが、怯えているようには見えない。
 つまり、少なくともコトラはドラゴンを「勝ち目がまったくない敵」とは見なしていないということだ。


 ドラゴンを観察してみると、向こうも様子を見ているらしい。
 こちらの様子を窺いながら、攻撃の機会を探っているようだ。
 相手もこちらをそれなりの相手としてみなしてくれているのだろう。



「詩織!落ち着いて俺の後ろに隠れてろ!」

「う、うん……」

「防御魔法だけ頼めるか?俺は攻撃に集中するから」

「……わかった!」


 妻が集めた魔力を、分厚い壁の形に変形する。
 密度の濃い防御魔法だ。
 ドラゴンの強さがどれほどかはわからないが、多少の攻撃は防げるかもしれない。
 防御壁のように視界を塞がないのが、防御魔法のいいところだ。

 俺は少し考え、魔力を槍の形にしてドラゴンに向けて撃った。
 相手の属性がわからない以上、火や水などの属性魔法を使うのはリスクがある。
 エネルギーとして吸収される可能性があるからだ。


 俺の放った槍は、ドラゴンに当たりはしたが、鱗に弾かれてしまった。
 やはり並大抵の攻撃では、ダメージを与えることは難しいらしい。


「にゃおぉぉぉん!!」


 コトラが鳴き声を上げると、ドラゴンの身体に雷が直撃した。
 ドラゴンは苦しそうによろけてうめいたが、すぐに体勢を整える。

 雷は効果ありか。
 しかし、決定打に欠ける。
 おそらく何発撃ち込んでも、ドラゴンを倒すことはできないだろう。


 そのとき、ドラゴンが後ろにのけぞった。
 口元からは、炎が漏れ出している。


「やばい!」


 俺は妻の防御魔法に重ねるように、魔力を練り上げる。
 二重で防御することで、少しは被害を押さえられるかもしれない。

 俺の防御魔法が完成すると同時に、ドラゴンの口元から激しい炎が噴き出された。


 凄まじい威力に、パリンと防御魔法が割れる音がした。
 よく見ると、俺が重ねがけした防御魔法が崩れ、妻のそれにもひびが入っていた。

 やばいやばいやばい!
 焦りながら再度魔力を集める。
 しかし防御魔法を構築する前に、炎は途切れた。

 俺は集めた魔力で、全力の水魔法を放つ。
 水道のホースから水をジェット噴射させるイメージで、ひたすら。

 ドラゴンは苦しそうに悲鳴を上げ、その場から逃げ出そうと翼を広げる。
 そのすきに、コトラがもう一度鳴き、落雷を呼んだ。

 水は電気を通すから、落雷の威力は先程の比ではない。
 ビリビリと体を震わすような音と衝撃を身をもって感じる。


「……やったのか?」


 やがて静かになったドラゴンを見て、俺は呟いた。
 ドラゴンは黒焦げになり、ピクリとも動かない。

 ノアが満足そうに拍手した。


「上出来、上出来!よくできました。これで、コネが作れるね」


 ドラゴンとコネに何の関係があるのかよくわからないが、戦闘が終わった安堵から脱力し、その場にへたり込む。

 異世界へ来てから、命の危機を感じたことは何度もあった。
 しかし、今日が一番だ。


 深々とため息をつきながら、俺は無事に生きていることに感謝した。
 俺は見事な連携技を決めてくれたコトラに感謝し、頭を撫でようとしたが、いつもの如く、するりと逃げられてしまった。
 それどころか、ふーっと威嚇までされる始末。

 コトラは妻にすり寄り、撫でられて満足そうにしている。
 相変わらず、俺には懐かないくせに、妻にはデレデレだ。

 俺はほんのりと切なさを感じずにはいられなかった。
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