娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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98 異変

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 その日の夜、小さな地震が起こった。

 俺はすでに布団の中にいて、これからのことをあれこれと考えていた。
 揺れたな、とは思ったが、すぐに収まった。
 体感で、震度1から2くらいだろうか。

 妻もコトラはぐっすり寝ていて、起きる気配さえない。
 俺はとくに気にすることなく、あくびをして眠りについた。







 翌朝、いつもの時間に目を覚ました俺は、日課の鍛錬を行うために訓練場にきていた。
 ロエナが話を通してくれ、騎士や兵士の邪魔にならない範囲でなら自由に使用していいと許可を得ている。

 普段は、朝は訓練に励む者が多く、訓練場はそれなりに賑わっているのだが、今日は珍しく貸切状態だ。
 何かあったのだろうかと不安に思いつつも、柔軟をはじめる。
 年を取ってから、準備運動の大切さが身にしみてわかった。
 今は若返っているが、準備運動なしに体を動かすのは抵抗があるのだ。

 十分に身体をほぐしたあと、走り込みに移ろうかというところで、慌てた様子の騎士に声をかけられた。
 訓練場で何度か顔を合わせたことのある騎士で、普段はおちゃらけて周囲の笑いを取ることも多い男だ。
 しかし今日は、珍しく真面目な顔をしている。


「すまないが、いっしょに来てもらおう。陛下がお呼びだ」

「何かあったんですか?」

「詳しい説明はあとだ。悪いが、少し急ぐぞ」


 小走りで移動を始めた騎士の後を追い、初めてくる部屋の前にたどり着いた。
 騎士によると、ここは王の執務室らしい。

 騎士がノックをして俺を連れてきたことを告げると、すぐに入室が許可された。
 恐る恐る室内に入ると、王のほかに身分の高そうな者が数人集まっていた。

 王のそばの椅子にはロエナが腰掛けていて、その隣には困惑した様子でコトラを抱いた妻の姿があった。


「突然呼び出してすまない」


 王の言葉に、俺は「とんでもございません」と礼をして返す。
 王はふっと表情を緩めて「楽にしてくれて構わない」と妻の隣の椅子を勧めてくれた。


「昨日、地震があったのは気づいたか?」

「ええ、軽く揺れましたね」


 俺の言葉に、王は小さく頷いて話を進めた。


「そなたは地震に慣れているのだな」

「え、ええ。故郷は地震が多い国でしたので」

「そうか。……この国では、地震はほとんど起こらない。長い歴史を遡ってみても、ある時期をのぞいて数える程度しか発生していないのだ」

「ある時期……?」

「ああ。……魔王の誕生時期だ」


 魔王?

 魔王は8年前に勇司が倒したはずだ。
 復活するにしても、スパンが短すぎるのではないだろうか?


「8年前に魔王が討伐されたことは確かだ。現にこの8年間、魔物の数も災害も激減している」

「新たな魔王が誕生したと……?」

「否定はできないが、可能性は少ないだろう。さすがに早すぎる。しかし……」

「ほかにも、気がかりなことがあるのですか?」

「この数日、各地で魔物の数が増えているとの報告が上がっている」


 魔王の誕生には、数百年単位の長い時間がかかるはずだ。
 そう考えると、魔王誕生の可能性が確かに低いが、何らかの異変が起こっているのは確かだ。
 
 もしかしたら、昨日イルミュールが言っていたノアに相談したいことというのも、このことだったのかもしれない。


「この王都の近辺でも、魔物の数は急激に増加している。そこで、軍を率いて大規模な討伐を行う予定だ。冒険者ギルドにも協力を募ることになっているのだが、そなたたちも力を貸してくれないだろうか?」

「私からもお願いいたします。このままでは、民に犠牲が出てしまう日も近いでしょう」


 王とロエナ、ふたりがまっすぐに俺たちを見つめる。
 俺は覚悟を決めて、頷いた。
 ノアには戦う必要はないと言われるかもしれないが、目の前に困っている人がいるのに、素知らぬ顔はできない。

 何より、王もロエナも誠実な統治者だ。
 わが身可愛さに保身に走ることなく、国民のためにできる最善を尽くすことができる人たちだ。
 ひたむきな姿勢を見て、応援せずにはいられない。

 だが、魔物の討伐には危険が伴うだろう。
 装備の力があるとはいえ、必ずしも安全が保障されるわけではない。
 何より、今はノアがそばにいない。
 不測の事態に対応できる確証がない。


「魔物の討伐に、協力させていただきます。……ただ、一つだけお願いがございます」


 俺は討伐に際して、条件をつけることにした。
 王は快く、俺の希望を汲んでくれた。 
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