娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
115 / 266

109 感謝と激励

 ふと、シャルロッテが少し寂しそうな顔をしていることに気づいた。
 どうした、と小声で問いかけると、なんでもないというふうに小さく首を振った。

 何にもないようには見えないのだが……。
 だが、あまり突っ込んでいい話かどうかはわからない。

 俺が悩んでいると、ロエナがふとこちらに視線を向けた。
 そして、優しく微笑んでシャルロッテを手招きした。
 戸惑いつつもゆっくり近づいてきたシャルロッテを、ロエナが勢い良く抱きしめた。


「これで、シャルとも正真正銘の姉妹になれますね!」


 心から嬉しそうに言うロエナに、シャルロッテはぽかんとした顔をした。
 勇司もロエナごとシャルロッテを抱きしめ、目に涙を滲ませて笑っている。

 そんなふたりに、シャルロッテは恥ずかしそうに笑って頷いた。

 どうやら先程は、勇司とロエナが二人の世界に入っていたので、ちょっとしたやきもちを焼いていたのかもしれない。
 あるいは、疎外感を抱いてしまったのだろう。
 でも、今はもう大丈夫みたいだ。


「シャルちゃん、よかったね」


 妻とノアもいっしょになって、シャルロッテを撫でまわしている。
 もみくちゃにされながら笑うシャルロッテは、年相応の子どもらしい表情をしていた。







 しばらく再会を喜んだのち、ノアは勇司とロエナに今後の話を始めた。

 なんでも、神の代替わりは無事に完了したが、世界の異変が収まるには数年の月日が必要なのだそうだ。
 その期間は魔物の増加や自然災害の発生などが続く。
 そうした危機にどう立ち向かえばいいか、ノアが丁寧に説明していた。

 勇司とロエナは、メモを取りながら真剣にノアの話を聞いている。
 今後ノアの助言を聞くことは難しいとわかっているのか、疑問点は細かいところまで質問していた。


 あらかた話が終わったところで、ノアは青く光る不思議な石を勇司に手渡した。
 そして小さな声で、勇司に何かを囁いた。
 勇司は少し驚いた顔をしつつも、覚悟を決めたように頷いた。

 俺がその石が一体何なのか気になったが、問いかけることはしなかった。
 わざわざ勇司にだけ耳打ちしているのだ。
 訊ねたところで、ノアが教えてくれるとは思えない。
 俺は好奇心にふたをして、きゃっきゃと話に花を咲かせている妻とシャルロッテを眺めていた。


「……瀬野さん」


 いつの間にか話が終わったのか、勇司に声をかけられた。


「いろいろ、ありがとな」

「いや、俺は大したことは何も」

「……妹のあんなに楽しそうな顔、久しぶりに見た。瀬野さんたちがそばにいてくれたおかげだと思う」

「そうだったらうれしいけどな」


 勇司は俺の言葉に、ふっと笑った。


「瀬野さんは気づいてないかもしれないけどさ、なんだかいっしょにいると心が軽くなる気がするんだよな」

「心が?」

「俺もさ、元の世界で瀬野さんに会ったときは荒み切ってた。自殺する勇気はなかったけど、早く死んでしまいたいとすら思ってたよ。でも、なんていうかな……瀬野さんって毒気が全然ない人じゃん?俺をバカにすることも、威嚇することもない。瀬野さんじゃなきゃ、初めて会った相手に異世界転移のこと、あんな風に話せなかったと思う」

「……勇司くん……」

「ほら、佐々木のおっさんは顔も怖いし、なんていうか棘があるじゃん?」

「はは、棘って……。まあ、佐々木さんも苦労していたみたいだしな」


 異世界転移被害者の会の代表である佐々木は、散々奇異の目にさらされてきたはずた。
 だからこそ、警戒心が強い。
 勇司が異世界からの帰還者だという話を耳にして、詳しい話を聞こうと自宅を訪問したときも、一触即発の空気になってしまったほどだ。


「瀬野さんと話してるとさ、警戒してんのがバカみたいに思えてくるんだよな」

「それは……いいことなのかな?」

「いいことだよ。少なくとも、俺にとってはそうだっと」


 勇司は、すっきりとした顔をしていた。
 その顔を見ていると、俺もなんだか、それでいいような気がしてきた。


「ところで……本当によかったのか?」

「何が?」

「元の世界、もう戻れないんだろ?シャルちゃんと姫様がいるとはいえ、やっぱり思うところもあるんじゃないか?」


 俺の言葉に、勇司は少しだけ考えるそぶりを見せて、首を横に振った。


「元の世界の生活はここに比べて便利だし、飯もうまいけどさ、やっぱり大切な人がそばにいないとな」

「そっか」

「あ、でも一つ、心残りがあったわ」

「心残り?」


 首をかしげた俺に、勇司がにっと笑った。


「そ。前に小説書いてるって言ったじゃん?あれ、完結しないままだったなって。完結してたら瀬野さんにも見せられたけど、未完じゃ厳しいなぁ」

「ふっ、なんだよ、それ。そういえば、タイトル教えてもらってない」

「絶対教えない」


 勇司が楽しそうに笑う。
 確か小説の内容は、勇司の異世界での冒険譚をもとにしたものだったはずだ。
 元の世界に帰ったら探してみよう、と密かに誓った。


「それじゃあ、そろそろ行こうか?」


 ノアが言った。
 これからもう、勇司やシャルロッテたちに会うことはないのかと思うと寂しくもあるが、俺には俺のやるべきことがある。


「ああ、行こう。詩織、おいで」

「うん。……シャルちゃん、姫様、元気でね」

「詩織ちゃんも。頑張ってね。怪我しないようにね」

「ありがとう」


 別れのハグをした二人は、目じりに涙が浮かんでいたけど、笑顔だった。


「イツキ様、シオリ様、ノア様。そして、コトラちゃんも……。この度は、本当にありがとうございました。世界を代表して、お礼を申し上げます」


 深々とロエナが頭を下げる。
 ノアはそんなロエナに、頭を上げるよう促した。


「これから数年、君たちにはさまざまな苦難が待ち受けているだろう。でも他人を思いやり、みんなで力を合わせれば、必ず乗り越えられるから、頑張ってね。……君たちなら、できると信じているよ」

「はい。……必ず」


 ロエナは勇司に目線を向け、二人で頷きあった。
 どんな困難も、彼らならきっと乗り越えられることだろう。

 ノアがぱちんと指を鳴らすと、また白い扉が現れた。
 ゆっくりと開いた光り輝く扉の先に、俺たちはそろって足を踏み出した。


「……瀬野さん!」


 光に包まれる間際、勇司が俺を呼んだ。


「瀬野さんならきっと、娘さんを取り戻せると思う!もう会えないけど、俺はいつでも瀬野さんの無事を祈っているから!だから絶対、家族そろって元の世界に戻れよ!!」

「……っ!」


 勇司の言葉に、胸が詰まるような思いがした。
 声を出したら泣いてしまいそうだったから、手をあげて答える。

 勇司とロエナとシャルロッテの笑顔が、光の中に消えていった。
感想 19

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます! ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!