118 / 266
特別編(9)護衛騎士
勇司の異世界での新生活は、平穏なものではなかった。
各地からの救援要請に応え、国中を飛び回る日々は多忙を極める。
かつて魔王討伐の旅をしていたころと比べても、さらに忙しい毎日だった。
しかしそれでも頑張れたのは、支えてくれる仲間と帰りを待っていてくれるシャルロッテのおかげだった。
勇司は今、魔王討伐時のメンバーとともに各地を回っている。
国一番の魔法使いであるロエナのほか、教会に戻っていた神官のマシュー、そしてロエナの護衛騎士を務めているカイル。
カイルがロエナの護衛騎士になっていたのは、勇司にとっては意外なことだった。
そもそもカイルは貧しい孤児で、王族や貴族に対して深い憎しみを抱いていた。
同じ孤児の子どもたちと生活を共にしており、日銭を稼ぐために窃盗を繰り返していたのだ。
窃盗被害に困った住人に頼まれ、盗賊退治を引き受けた勇司たちは、カイルと出会い、彼らの境遇を知ることになった。
一番ショックを受けていたのは、ロエナだった。
自分の知らぬところで、飢えに苦しむ国民がいるという事実に打ちのめされたらしい。
しかし、そこでロエナは背を向けなかった。
ロエナは己の世間知らずを恥じ、カイルをはじめとする孤児たちの生活の安定に奔走したのだ。
紆余曲折あったものの、その街の領主に孤児院の建設を約束させることに成功した。
ロエナ個人としても寄付を行い、孤児院完成までの間、孤児たちが安心して暮らせる環境を整えることになった。
カイルはロエナの献身に、何か裏があるのではないかと疑っていた。
だからこそ、監視のために勇司たちに同行すると言い出したのだ。
危険な旅だからと止めたものの、カイルの決心は固く、勇司たちが折れる形で同行することになった。
旅の中で、カイルは王族や貴族が悪人だとは限らないと身をもって感じたらしく、次第に態度は軟化していった。
そしてやがて、互いの命を預けられるほどのかけがえのない仲間となったのだ。
「なあ、カイル。なんで護衛騎士を選んだんだ?」
救援要請のあった街へ向かう道中、勇司が訊ねた。
魔王討伐後、カイルは故郷に戻ると語っていた。
そこで、きょうだい同然に育った孤児たちとのんびり暮らすのだと。
だから、ロエナのそばに鎧を着たカイルがいて驚いたのだ。
「そうだな……一度は故郷に戻ったんだがな」
「何か問題があったのか?」
「いや、みんな俺の帰りを喜んでくれた。このまま、みんなと暮らしたいと思ったよ」
「じゃあ、なんで……」
「……思ったんだよ、旅をしているとき。姫様ならきっと、この国をもっとよくしてくれるって。俺はその手助けがしたくなったんだ」
「手助け……」
「いや、違うかな。姫様のそばで、国が変わっていくところを見ていたかったのかもしれない」
魔王討伐を成し遂げたあと、ロエナは国民の生活の安定に注力した。
孤児院を作り、病院を整備し、生活困窮者が自立できるよう仕事について学べる学校の設立を提案した。
多大な国費を使うことから、反対意見も多かったというが、長い時間をかけて少しずつ環境はよくなっているという。
俺たちの話を隣で聞いていたロエナは、照れくさそうな顔をしながら言った。
「前にユージが教えてくれた、ユージの世界の話を参考にしてみたのです」
以前、ロエナに貧困者の救済方法について相談されたとき、勇司は日本の話を例に挙げたことがあった。
親のいない子どもを養う施設があること、専門学校や職業訓練校の仕組みなど、あなり詳しくはなかったがわかる範囲で話したのを覚えていてくれたらしい。
この国には、そもそも病院はなかった。
病気になったら神官に治癒魔法をかけてもらうのが一般的だが、料金は高額で、平民にはとても手が出せない。
それに比べると治療薬は安価だが、それでも裕福な平民がようやく利用できる程度だ。
そこでロエナは、神官見習いの学習の場として病院を設立しようと決めたそうだ。
治癒魔法の練習という形で、神官の指導を受けながら見習いが治療を施す。
練習がメインなので、料金は安価に設定された。
魔王討伐をともにした神官のマシューの力添えもあり、教会側はすんなりと提案を受け入れてくれたそうだ。
神官見習いの練習の場は想像以上に少なく、成長の遅さが課題だったそうだ。
実際に病院で活動することで、神官見習いたちは異例の速さで治癒魔法を上達させたという。
「この数年で、頑張ったんだな」
勇司がいうと、ロエナは嬉しそうに笑った。
「せっかくあなたが救ってくれた世界だもの。一人でも多くの人が笑って暮らせる世界を作っていきたいの。……これからは、ユージも手伝ってくれるでしょう?」
ロエナの言葉に、勇司は「もちろん」と頷いた。
そんなふたりを見つめるカイルの瞳は、以前のような憎しみではなく、希望と感謝に満ち溢れていた。
各地からの救援要請に応え、国中を飛び回る日々は多忙を極める。
かつて魔王討伐の旅をしていたころと比べても、さらに忙しい毎日だった。
しかしそれでも頑張れたのは、支えてくれる仲間と帰りを待っていてくれるシャルロッテのおかげだった。
勇司は今、魔王討伐時のメンバーとともに各地を回っている。
国一番の魔法使いであるロエナのほか、教会に戻っていた神官のマシュー、そしてロエナの護衛騎士を務めているカイル。
カイルがロエナの護衛騎士になっていたのは、勇司にとっては意外なことだった。
そもそもカイルは貧しい孤児で、王族や貴族に対して深い憎しみを抱いていた。
同じ孤児の子どもたちと生活を共にしており、日銭を稼ぐために窃盗を繰り返していたのだ。
窃盗被害に困った住人に頼まれ、盗賊退治を引き受けた勇司たちは、カイルと出会い、彼らの境遇を知ることになった。
一番ショックを受けていたのは、ロエナだった。
自分の知らぬところで、飢えに苦しむ国民がいるという事実に打ちのめされたらしい。
しかし、そこでロエナは背を向けなかった。
ロエナは己の世間知らずを恥じ、カイルをはじめとする孤児たちの生活の安定に奔走したのだ。
紆余曲折あったものの、その街の領主に孤児院の建設を約束させることに成功した。
ロエナ個人としても寄付を行い、孤児院完成までの間、孤児たちが安心して暮らせる環境を整えることになった。
カイルはロエナの献身に、何か裏があるのではないかと疑っていた。
だからこそ、監視のために勇司たちに同行すると言い出したのだ。
危険な旅だからと止めたものの、カイルの決心は固く、勇司たちが折れる形で同行することになった。
旅の中で、カイルは王族や貴族が悪人だとは限らないと身をもって感じたらしく、次第に態度は軟化していった。
そしてやがて、互いの命を預けられるほどのかけがえのない仲間となったのだ。
「なあ、カイル。なんで護衛騎士を選んだんだ?」
救援要請のあった街へ向かう道中、勇司が訊ねた。
魔王討伐後、カイルは故郷に戻ると語っていた。
そこで、きょうだい同然に育った孤児たちとのんびり暮らすのだと。
だから、ロエナのそばに鎧を着たカイルがいて驚いたのだ。
「そうだな……一度は故郷に戻ったんだがな」
「何か問題があったのか?」
「いや、みんな俺の帰りを喜んでくれた。このまま、みんなと暮らしたいと思ったよ」
「じゃあ、なんで……」
「……思ったんだよ、旅をしているとき。姫様ならきっと、この国をもっとよくしてくれるって。俺はその手助けがしたくなったんだ」
「手助け……」
「いや、違うかな。姫様のそばで、国が変わっていくところを見ていたかったのかもしれない」
魔王討伐を成し遂げたあと、ロエナは国民の生活の安定に注力した。
孤児院を作り、病院を整備し、生活困窮者が自立できるよう仕事について学べる学校の設立を提案した。
多大な国費を使うことから、反対意見も多かったというが、長い時間をかけて少しずつ環境はよくなっているという。
俺たちの話を隣で聞いていたロエナは、照れくさそうな顔をしながら言った。
「前にユージが教えてくれた、ユージの世界の話を参考にしてみたのです」
以前、ロエナに貧困者の救済方法について相談されたとき、勇司は日本の話を例に挙げたことがあった。
親のいない子どもを養う施設があること、専門学校や職業訓練校の仕組みなど、あなり詳しくはなかったがわかる範囲で話したのを覚えていてくれたらしい。
この国には、そもそも病院はなかった。
病気になったら神官に治癒魔法をかけてもらうのが一般的だが、料金は高額で、平民にはとても手が出せない。
それに比べると治療薬は安価だが、それでも裕福な平民がようやく利用できる程度だ。
そこでロエナは、神官見習いの学習の場として病院を設立しようと決めたそうだ。
治癒魔法の練習という形で、神官の指導を受けながら見習いが治療を施す。
練習がメインなので、料金は安価に設定された。
魔王討伐をともにした神官のマシューの力添えもあり、教会側はすんなりと提案を受け入れてくれたそうだ。
神官見習いの練習の場は想像以上に少なく、成長の遅さが課題だったそうだ。
実際に病院で活動することで、神官見習いたちは異例の速さで治癒魔法を上達させたという。
「この数年で、頑張ったんだな」
勇司がいうと、ロエナは嬉しそうに笑った。
「せっかくあなたが救ってくれた世界だもの。一人でも多くの人が笑って暮らせる世界を作っていきたいの。……これからは、ユージも手伝ってくれるでしょう?」
ロエナの言葉に、勇司は「もちろん」と頷いた。
そんなふたりを見つめるカイルの瞳は、以前のような憎しみではなく、希望と感謝に満ち溢れていた。
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!