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特別編(11)軋轢
魔王討伐の旅の途中、勇司は一度、北の辺境伯に出会っていた。
まさに気にいいおじさんといった男で、修行のため、辺境伯領のダンジョンに立ち寄った勇司たち一行を快く迎え入れてくれたのだ。
当時健在だった夫人との仲もよく、貴族の中ではとくに、家族関係のいい家庭だと思ったことを勇司は覚えている。
夫人とは政略結婚だったそうだが、時間をかけて信頼しあえる夫婦になったと辺境伯は語っていた。
寄り添って微笑みあう二人の姿を見て、勇司は自分の両親が彼らのようであったら、と思わずにはいられなかった。
だからこそ、辺境伯がシャルロッテを後妻に望んでいたと聞いたときは驚いた。
絵に描いたような愛妻家だった彼が、親子以上に歳の離れた少女との結婚を決めるとは考えられなかったのだ。
「今、辺境伯家は揉めているそうよ」
ロエナがぽつりと言った。
「辺境伯の再婚に、家族は猛反対しているんですって。でも、辺境伯は反対を押し切り、無理やり婚約を取り付けてしまった。……仲のいい家族だったのに、残念ね」
「そうだな……」
以前訪問したときの、幸せに満ち溢れた辺境伯一家を思い出し、勇司は胸が痛んだ。
辺境伯家の子どもは、長男、次男、長女の3人。
長男はすでに成人しており、後継者として働きながら辺境伯領の仕事を学んでいるという。
次男と長女はまだ学生の身だが、今回の騒動で学校が休校しているため、実家に戻っているそうだ。
勇司は、隣に座って勇司に寄りかかり、寝息を立てているシャルロッテをちらりと見て、ため息をついた。
シャルロッテが行くことで、余計にこじれなければいいが……。
そんな勇司の不安は、見事的中することになるのだった。
※
「はるばるお越しくださり、ありがとうございます」
辺境伯家の屋敷の前で出迎えてくれたのは、辺境伯本人だった。
辺境伯家の子どもたちも、父の後ろで頭を下げている。
「お出迎え、感謝いたします。さっそく被害状況について伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
ロエナの言葉に辺境伯が頷き、屋敷の応接室へ案内する。
勇司とシャルロッテ、カイル、マシューもそのあとに続く。
ほかに同行している騎士や兵士に関しては、別室で待機してもらうことになった。
幼い身でありながら、魔王討伐パーティーに同行しているシャルロッテに、辺境伯の長男が訝しむような視線を向ける。
シャルロッテはその視線に気づき、慌てて挨拶をしようとしたが、ふいっと視線を逸らされてしまった。
「あ……」
戸惑うシャルロッテの手を、ロエナがそっと握った。
大丈夫、とでもいうように微笑むロエナに、シャルロッテは安心したように笑みを返した。
応接室に通されたあと、勇司たちは辺境伯家から改めて挨拶を受けた。
その際、勇司たちも改めて挨拶をする。
そして最後に、シャルロッテを紹介した。
「こちらは、ダルモーテ侯爵家のシャルロッテ嬢です」
「初めまして。シャルロッテ・ダルモーテと申します」
何度も練習した甲斐もあって、シャルロッテの礼は一般的な貴族令嬢と遜色のないものに仕上がっている。
ほんの数ヶ月前まで、ろくな教育を受けさせてもらえていなかったとは思えないほどだ。
「……君が……」
辺境伯が目を丸くする。
対して辺境伯の子どもたちは、一様にシャルロッテへ厳しい目を向けた。
「初めまして。ところで、このような状況下で何の御用でしょうか?」
丁寧ながらも冷たい口調で訊ねたのは、長男だった。
シャルロッテが怯えたように肩を震わすと、辺境伯が長男を諫める。
しかし長男は、引く気はないようだった。
「失礼ながら、ご訪問されると伺っておりませんでしたので、お部屋のご用意ができておりません。街一番の宿にお部屋をご用意いたしますので、そちらでお過ごしいただけますか?」
要は、さっさと屋敷から出て行けということだろう。
シャルロッテは小さな声で「申し訳ありません……」と呟くのがやっとだった。
そんなシャルロッテの肩をそっと支え、ロエナが口を開く。
「緊急の案件でしたので、同行者の詳細については現地でお伝えすることになっていたはずです。彼女だけよそに滞在させるのは、筋が通らないのでは?部屋がなければ、私と同室で構いません」
「それは……」
「あなた方の気持ちもわからくはありませんが、小さな少女に対して、あまり高圧的な態度をとるのは見過ごせません。それに、シャルロッテ嬢は辺境伯の婚約者として訪問したのではなく、私の身の回りの手伝いのために同行してもらったのです。別に宿をとられては、私が困ります」
「……かしこまりました。早急にお部屋のご用意をいたします」
悔しそうな顔で、長男が言った。
シャルロッテは、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「この件はひとまずおいておいて、まずは被害状況を詳しく聞かせてください」
勇司の言葉に辺境伯が頷いた。
話題の矛先が変わったことで、険悪な雰囲気はいくらか緩和されることになった。
まさに気にいいおじさんといった男で、修行のため、辺境伯領のダンジョンに立ち寄った勇司たち一行を快く迎え入れてくれたのだ。
当時健在だった夫人との仲もよく、貴族の中ではとくに、家族関係のいい家庭だと思ったことを勇司は覚えている。
夫人とは政略結婚だったそうだが、時間をかけて信頼しあえる夫婦になったと辺境伯は語っていた。
寄り添って微笑みあう二人の姿を見て、勇司は自分の両親が彼らのようであったら、と思わずにはいられなかった。
だからこそ、辺境伯がシャルロッテを後妻に望んでいたと聞いたときは驚いた。
絵に描いたような愛妻家だった彼が、親子以上に歳の離れた少女との結婚を決めるとは考えられなかったのだ。
「今、辺境伯家は揉めているそうよ」
ロエナがぽつりと言った。
「辺境伯の再婚に、家族は猛反対しているんですって。でも、辺境伯は反対を押し切り、無理やり婚約を取り付けてしまった。……仲のいい家族だったのに、残念ね」
「そうだな……」
以前訪問したときの、幸せに満ち溢れた辺境伯一家を思い出し、勇司は胸が痛んだ。
辺境伯家の子どもは、長男、次男、長女の3人。
長男はすでに成人しており、後継者として働きながら辺境伯領の仕事を学んでいるという。
次男と長女はまだ学生の身だが、今回の騒動で学校が休校しているため、実家に戻っているそうだ。
勇司は、隣に座って勇司に寄りかかり、寝息を立てているシャルロッテをちらりと見て、ため息をついた。
シャルロッテが行くことで、余計にこじれなければいいが……。
そんな勇司の不安は、見事的中することになるのだった。
※
「はるばるお越しくださり、ありがとうございます」
辺境伯家の屋敷の前で出迎えてくれたのは、辺境伯本人だった。
辺境伯家の子どもたちも、父の後ろで頭を下げている。
「お出迎え、感謝いたします。さっそく被害状況について伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
ロエナの言葉に辺境伯が頷き、屋敷の応接室へ案内する。
勇司とシャルロッテ、カイル、マシューもそのあとに続く。
ほかに同行している騎士や兵士に関しては、別室で待機してもらうことになった。
幼い身でありながら、魔王討伐パーティーに同行しているシャルロッテに、辺境伯の長男が訝しむような視線を向ける。
シャルロッテはその視線に気づき、慌てて挨拶をしようとしたが、ふいっと視線を逸らされてしまった。
「あ……」
戸惑うシャルロッテの手を、ロエナがそっと握った。
大丈夫、とでもいうように微笑むロエナに、シャルロッテは安心したように笑みを返した。
応接室に通されたあと、勇司たちは辺境伯家から改めて挨拶を受けた。
その際、勇司たちも改めて挨拶をする。
そして最後に、シャルロッテを紹介した。
「こちらは、ダルモーテ侯爵家のシャルロッテ嬢です」
「初めまして。シャルロッテ・ダルモーテと申します」
何度も練習した甲斐もあって、シャルロッテの礼は一般的な貴族令嬢と遜色のないものに仕上がっている。
ほんの数ヶ月前まで、ろくな教育を受けさせてもらえていなかったとは思えないほどだ。
「……君が……」
辺境伯が目を丸くする。
対して辺境伯の子どもたちは、一様にシャルロッテへ厳しい目を向けた。
「初めまして。ところで、このような状況下で何の御用でしょうか?」
丁寧ながらも冷たい口調で訊ねたのは、長男だった。
シャルロッテが怯えたように肩を震わすと、辺境伯が長男を諫める。
しかし長男は、引く気はないようだった。
「失礼ながら、ご訪問されると伺っておりませんでしたので、お部屋のご用意ができておりません。街一番の宿にお部屋をご用意いたしますので、そちらでお過ごしいただけますか?」
要は、さっさと屋敷から出て行けということだろう。
シャルロッテは小さな声で「申し訳ありません……」と呟くのがやっとだった。
そんなシャルロッテの肩をそっと支え、ロエナが口を開く。
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「それは……」
「あなた方の気持ちもわからくはありませんが、小さな少女に対して、あまり高圧的な態度をとるのは見過ごせません。それに、シャルロッテ嬢は辺境伯の婚約者として訪問したのではなく、私の身の回りの手伝いのために同行してもらったのです。別に宿をとられては、私が困ります」
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悔しそうな顔で、長男が言った。
シャルロッテは、今にも泣きだしそうな顔をしている。
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