122 / 266
特別編(13)形見
話を終えたあと、辺境伯の子どもたちはそろってシャルロッテに謝罪した。
事情も知らずに冷たい態度をとってしまったこと、敵意を向けてしまったこと。
シャルロッテは笑顔で謝罪を受け入れた。
それからシャルロッテは、辺境伯から母の話を聞くことができた。
遠い記憶の中の思い出しかなかった母の話を聞くシャルロッテは、心の底から嬉しそうに見える。
勇司は目を輝かせて辺境伯の話に耳を傾けるシャルロッテを見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
辺境伯は、シャルロッテを亡くなった辺境伯夫人の部屋へ案内してくれた。
部屋の主が何年も前にこの世を去ったとは思えないほど、きれいに整えられた部屋だった。
ともに案内された勇司は、窓辺に飾られている白い花を見て、辺境伯の夫人へ対する愛情が今もなお深いことを悟る。
辺境伯は、机の引き出しから、封筒の束を取り出してシャルロッテに手渡した。
「これは、あなたの母君から妻に送られた手紙です。妻の死後、遺品の整理をしていたときに見つけました」
「読んでもいいのですか?」
シャルロッテが辺境伯を見上げて問いかける。
辺境伯は頷いて答えた。
「きっと妻も、母君も許してくれるでしょう」
その手紙には、互いの近況をはじめ、趣味の読書のこと、家族のことなどが書かれていた。
婚約が決まってからの手紙には、暗い内容も多い。
しかしシャルロッテが生まれたことを知らせる手紙やそれ以降の成長を語る手紙には、はっきりとシャルロッテへの愛情が綴られていた。
初めてママと呼んでくれた喜び。
よちよちと歩く姿を見た感動。
父からの愛情をシャルロッテが得られないことへの不安。
そして娘の幸せを祈る心。
シャルロッテの母は、子育ての先輩である辺境伯夫人を頼りにしていたようで、悩みごとの相談もしていた。
そして手紙の文面を見る限り、辺境伯夫人が真摯にそれに応えていたことが窺える。
「母の遺品は、父にすべて処分されてしまい、何も残っていなかったのです。だから、母がどういう人なのか、私は遠い記憶の中でしか知らなかった……。母がこんなに私を愛してくれていたなんて、知らなくて……」
「そうだったのですね……」
涙ながらに語るシャルロッテに、辺境伯は本棚から一冊の本を取り、差し出した。
「よかったら、こちらを」
「これは……?」
「昔、妻があなたの母君から譲り受けた本です。お気に入りの本を互いに贈りあったのだと、嬉しそうに話してくれました。形見としては、少し物足りないかもしれませんが……」
シャルロッテは恐る恐る手を伸ばし、本を受け取る。
そして「ありがとうございます」と深く頭を下げた。
※
翌日から、勇司たちは辺境伯領の魔物の討伐に取り掛かった。
ほかの領地を回って慣れていたこともあり、討伐は予定通り順調に進められた。
そして1週間ほどが経った頃、勇司たちはダンジョン内部への探索を始めることになった。
魔王討伐時に一度潜ったことのあるダンジョンだが、その規模は国内最大。
気を引き締めてかからねば、無事に帰ることは難しいだろう。
辺境伯家の次男が同行を申し出たが、勇司は断った。
実践慣れしていない学生を連れて行ったところで、足手まといになるだけだろう。
だからといって、辺境伯やその跡継ぎを連れて行くわけにはいかない。
ダンジョンへは、魔王討伐メンバーと辺境伯家の騎士団長および精鋭部隊が同行することになった。
不安そうにしつつも、気丈に見送りに出たシャルロッテの頭を勇司が優しく撫でた。
「必ず無事に帰る。シャルもみなさんの言うことをよく聞いて、いい子で待っているんだぞ」
「うん……約束だよ?」
勇司は確かに頷き、ダンジョンへ向けて出発した。
ダンジョン内は、想像よりも落ち着いていた。
あふれ出ていた魔物の討伐があらかた済んでいたこともあり、魔物の数も以前潜ったときと比べ、多少増えた程度だろう。
そうして、あっさりと最深部へと到達することができた。
「……もう最深部か……」
「あっという間でしたね」
「ああ。だが、このままあっさり終わるとは思えない」
険しい顔で、勇司が言った。
通常のダンジョンでは、最深部に近づくほど魔物の数は増え、個体の強さも上がる。
しかし今回は、最深部に近づくほど魔物の数は減少した。
それはつまり、ほかの魔物が逃げ出すほどの恐ろしい魔物が、この先にいるかもしれないということだ。
事情も知らずに冷たい態度をとってしまったこと、敵意を向けてしまったこと。
シャルロッテは笑顔で謝罪を受け入れた。
それからシャルロッテは、辺境伯から母の話を聞くことができた。
遠い記憶の中の思い出しかなかった母の話を聞くシャルロッテは、心の底から嬉しそうに見える。
勇司は目を輝かせて辺境伯の話に耳を傾けるシャルロッテを見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
辺境伯は、シャルロッテを亡くなった辺境伯夫人の部屋へ案内してくれた。
部屋の主が何年も前にこの世を去ったとは思えないほど、きれいに整えられた部屋だった。
ともに案内された勇司は、窓辺に飾られている白い花を見て、辺境伯の夫人へ対する愛情が今もなお深いことを悟る。
辺境伯は、机の引き出しから、封筒の束を取り出してシャルロッテに手渡した。
「これは、あなたの母君から妻に送られた手紙です。妻の死後、遺品の整理をしていたときに見つけました」
「読んでもいいのですか?」
シャルロッテが辺境伯を見上げて問いかける。
辺境伯は頷いて答えた。
「きっと妻も、母君も許してくれるでしょう」
その手紙には、互いの近況をはじめ、趣味の読書のこと、家族のことなどが書かれていた。
婚約が決まってからの手紙には、暗い内容も多い。
しかしシャルロッテが生まれたことを知らせる手紙やそれ以降の成長を語る手紙には、はっきりとシャルロッテへの愛情が綴られていた。
初めてママと呼んでくれた喜び。
よちよちと歩く姿を見た感動。
父からの愛情をシャルロッテが得られないことへの不安。
そして娘の幸せを祈る心。
シャルロッテの母は、子育ての先輩である辺境伯夫人を頼りにしていたようで、悩みごとの相談もしていた。
そして手紙の文面を見る限り、辺境伯夫人が真摯にそれに応えていたことが窺える。
「母の遺品は、父にすべて処分されてしまい、何も残っていなかったのです。だから、母がどういう人なのか、私は遠い記憶の中でしか知らなかった……。母がこんなに私を愛してくれていたなんて、知らなくて……」
「そうだったのですね……」
涙ながらに語るシャルロッテに、辺境伯は本棚から一冊の本を取り、差し出した。
「よかったら、こちらを」
「これは……?」
「昔、妻があなたの母君から譲り受けた本です。お気に入りの本を互いに贈りあったのだと、嬉しそうに話してくれました。形見としては、少し物足りないかもしれませんが……」
シャルロッテは恐る恐る手を伸ばし、本を受け取る。
そして「ありがとうございます」と深く頭を下げた。
※
翌日から、勇司たちは辺境伯領の魔物の討伐に取り掛かった。
ほかの領地を回って慣れていたこともあり、討伐は予定通り順調に進められた。
そして1週間ほどが経った頃、勇司たちはダンジョン内部への探索を始めることになった。
魔王討伐時に一度潜ったことのあるダンジョンだが、その規模は国内最大。
気を引き締めてかからねば、無事に帰ることは難しいだろう。
辺境伯家の次男が同行を申し出たが、勇司は断った。
実践慣れしていない学生を連れて行ったところで、足手まといになるだけだろう。
だからといって、辺境伯やその跡継ぎを連れて行くわけにはいかない。
ダンジョンへは、魔王討伐メンバーと辺境伯家の騎士団長および精鋭部隊が同行することになった。
不安そうにしつつも、気丈に見送りに出たシャルロッテの頭を勇司が優しく撫でた。
「必ず無事に帰る。シャルもみなさんの言うことをよく聞いて、いい子で待っているんだぞ」
「うん……約束だよ?」
勇司は確かに頷き、ダンジョンへ向けて出発した。
ダンジョン内は、想像よりも落ち着いていた。
あふれ出ていた魔物の討伐があらかた済んでいたこともあり、魔物の数も以前潜ったときと比べ、多少増えた程度だろう。
そうして、あっさりと最深部へと到達することができた。
「……もう最深部か……」
「あっという間でしたね」
「ああ。だが、このままあっさり終わるとは思えない」
険しい顔で、勇司が言った。
通常のダンジョンでは、最深部に近づくほど魔物の数は増え、個体の強さも上がる。
しかし今回は、最深部に近づくほど魔物の数は減少した。
それはつまり、ほかの魔物が逃げ出すほどの恐ろしい魔物が、この先にいるかもしれないということだ。
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!