娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
131 / 266

117 掃除

 蓮とラウルに案内された部屋は、想像よりもきれいだった。
 もともと客室として使っていたのか、一台だけだがベッドまで用意されている。
 長く使われていないらしく、埃は積もっているが、確かに掃除さえすればすぐにでも使えそうだ。

 蓮がカーテンを開けると、まぶしい日差しが飛び込んできた。
 日当たりもいいので、普段から使ってもいいだろうにと思う。


 俺たちは蓮とラウルが用意してくれた道具で、部屋の掃除を始めた。
 ほうきや雑巾、バケツだけでなく、はたきなんかもそろっている。
 
 蓮やラウルは掃除に慣れているようで、手際よく上のほうから埃を払っていく。
 妻も自然に体が動くのか、てきぱきと行動している。
 俺もみんなに倣って、雑巾を手に取った。


「伊月くん、拭き掃除はまだだよ」


 ぴしゃりと妻が言う。
 そしてバケツを俺に手渡す。


「先に水を汲んできてほしいな」

「わ、わかった」


 俺は了承して、バケツを受け取り部屋を出る。
 1階に降りると、斎藤が俺に気づき、どうしたのかと声をかけてきた。
 水を汲みに行くところだと伝えると、水がめまで案内してくれるという。

 斎藤の話では、少し離れたところに川が流れているそうだが、その都度汲みに行くのは効率が悪い。
 そのため、朝と夕にまとめて水を汲みにいき、水がめに保管しているそうだ。


「もうすぐ新しい水を汲みに行く時間なので、ここにある分はご自由にお使いください」

「ありがとうございます」


 礼を言うと、また斎藤は俺をじっと見つめた。


「あの……何か?」

「……いや、何だか伊月さんは不思議な雰囲気の方だと思いまして」

「不思議、ですか?」

「ええ」


 戸惑っていると、上のほうから俺を呼ぶ妻の声が聞こえてきた。
 声のしたほうに俺が視線を向けると、斎藤が小さな笑い声を漏らした気がした。
 はっとして斎藤のほうを見たが、先ほどまでと変わらない無表情のままだった。

 気のせいだったのだろうかと考えていると、斎藤は会釈をしてその場を立ち去ろうとした。
 俺はとっさに、その後ろ姿を呼び止める。

 斎藤は振り向き、落ち着いた声で答えた。


「お話の続きは、また今度ゆっくりと」







「伊月くん、水の場所わかった?蓮くんたちが、川まで行っちゃったんじゃないかって言ってて」

「大丈夫、斎藤さんに水がめの場所を教えてもらったから」

「そっか、ならよかった!」

「ありがとな、詩織。蓮くんとラウルくんも、気にかけてくれてありがとう」

「い、いや……俺たちは別に」


 俺が礼を言うと、蓮もラウルもそっけなくそっぽを向いた。
 しかしちらりと見えた耳がほんのり赤く染まっていたから、おそらく照れているだけだろう。
 思春期らしい不器用さが微笑ましい。
 娘の柚乃にもそれなりに反抗期はあったが、男の子と女の子ではまた反応が違うのだろうなと思う。

 意外なことに、ノアもせっせと掃除に勤しんでいた。
 その表情は何とも楽しげだ。
 神のような存在であるノアにとっては、掃除一つとっても珍しい体験なのだろう。


「魔法を使わずにきれいになるっていうのは、面白いものだね」


 感心したようにノアが言う。
 確かに普段のノアなら、部屋の掃除など指先一つ鳴らして完了するだろう。

 そんなノアの言葉に反応したのは、蓮とラウルだった。


「魔法?」

「え、お前、魔法使えんの?!すっげぇ!」


 目を輝かせて近づいてくる少年たちに気をよくしたのか、ノアがパチンと指を鳴らした。
 すると、俺が運んできたばかりのバケツに入った水が丸い球になってふわふわと浮かび出した。


「なにこれ!」

「やばいやばい!!」


 二人のテンションは最高潮だ。
 ノアがもう一度指を鳴らすと、水の球が分裂し、そのうちの一つが蓮とラウルの間で弾けた。
 少年たちの歓声に満足げな顔をしたノアだったが、すぐに表情が固まる。
 そしてゆっくりと妻のほうを振り向いた。

 妻はぷっくりと頬を膨らませて、怒りをアピールしていた。


「ノアくん、まだお水使っちゃダメだよ」


 普段よりも低めの声で言った妻に、ノアが素直に謝罪した。
 ノアにつられて、蓮とラウルまで背中を丸めているのが何だかおかしかった。
感想 19

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます! ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!