娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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118 年齢

 掃除が終わったら、水を汲みに行くというので手伝うことにした。
 歩いて10分から15分くらいだろうか。
 澄んだ水が美しい小川にたどり着いた。

 流れる水に触れると、冷たくて気持ちがいい。
 斎藤のところから持ってきたバケツに水を汲み、再び小屋に戻る。

 水がめがいっぱいになるまで、3回ほど往復するという。
 毎日大変だな、と話すと、蓮はもう慣れたと笑った。
 いっしょに掃除をして、水汲みまでしたことで、だいぶ警戒が薄れてきたらしい。
 蓮もラウルも、口数が増えてきた。


「なあ、兄ちゃんと知り合いなんだよな?」


 2度目の水汲みの道中、躊躇いがちに蓮がきいた。
 俺が「そうだよ」と返すと「元気にしてた?」と問われた。


「そうだな、元気そうだった。そしていつでも、蓮くんのことを心配してるようだったよ」

「……そっか……」


 蓮は少し嬉しそうだった。


「お兄さんと仲いいんだな」

「だって兄ちゃん、かっこいいからな!俺、兄ちゃんみたいになりたいんだ」

「お兄さんみたいに?」

「そう。兄ちゃんなら、多分こんな状況になっても、冷静に対処できると思う。強いし、頭いいし、仲間思いだし」


 どんどん兄自慢が飛び出してくる。
 楽しそうに語る蓮を眺め、俺は目を細めた。
 そんな俺を見て、蓮が少し訝しむような視線を向ける。


「どうしたの?」


 思わず問いかけた。


「なんかあんた、言動が老けてんだよな」


 ズバッと手厳しい言葉が返ってきた。
 言動が老けている……間違ってはいないのだろうが、何だか無性に物悲しい気持ちになってしまった。

 今の俺は、見た目だけなら蓮やラウルとさほど変わらないだろう。
 それなのに、どんなところが老けて見えてしまうのか。


「だってなんか、やけに落ち着いてるっていうかさ。威厳があるわけでもないし、なんていうか、おじいちゃん?みたいな」

「お、おじいちゃん……」

「あ、あぁ……ま、いい意味で?」


 ショックを受けた俺に気を使ったのか、疑問符をつけながらも蓮は気まずそうにフォローする。
 おじさんと言われるならまだしも、それを通り越しておじいさん扱いされるとは……。

 そんな俺たちの会話に、後ろのほうでノアア小さく噴き出したのが、振り向かずともわかった。


「まあまあ、そんな落ち込むなって」


 ラウルが俺の背中をポンと叩いて励ましてくれた。
 俺は短く礼を返し、なおも笑いをこらえ続けているノアに、恨みがましい視線を向けた。







 その日の夕飯は、斎藤が用意してくれた。
 意外だったのは、米がでてきたことだ。
 何でも遠方の小国に米食文化があるらしく、そこから米を取り寄せ、こっちで栽培しているという。

 斎藤は農家の出身だったらしく、実家で米は作っていなかったが、親戚が作っていたため多少の知識はあった。
 そこから試行錯誤して、何とか米作りを形にできたそうだ。
 
 田んぼは小屋から少し離れたところにあるという。


「どうしても米を食べたいという、日本人の執念ですよ」


 そういった斎藤は、寂し気な目をしていた。


「斎藤さんは、日本へ帰りたいとは……」

「もちろん昔は、来る日も来る日も故郷へ戻りたいという思いは消えませんでした。しかし今は……時間がたちすぎてしまいましたからね」

「そうですか……」


 斎藤は、少し目を細めて俺をじっと見つめた。
 これで三度目だ。

 視線の意味を図りかねていると、斎藤がふっと笑みをこぼした。
 ずっと無表情だった斎藤が笑ったことに驚いていると、同じように蓮やラウルも驚愕の表情を浮かべていた。
 どうやら、彼の無表情は俺たちの前に限ったことではないらしい。


「いや、申し訳ない。なんだか伊月さんを見ていると、不思議な気分になってしまって」

「不思議な気分ですか?」

「ええ。見た目はこの子たちとほとんど変わらないのに、同年代の方と話しているような気になるんです。話し方やちょっとした仕草というのか……いや、失礼でしたかな」

「いえ、そんなことは……」

「だよな!こいつ、中身だけめっちゃ老けてんだよ!」


 俺の言葉を遮り、斎藤に強く同意を示したのは蓮だった。
 こら、と斎藤にたしなめられつつも、斎藤が自分と同じ感想を抱いていたことがうれしかったのか、蓮は興奮冷めやらぬ様子だ。

 俺は苦笑しつつ「実は……」と事情を説明した。

 実は蓮やラウルと同年代の娘がいるおじさんだということ。
 妻も中身は同年代だが、娘がさらわれたショックで精神が退行してしまったこと。
 そして、娘を取り戻すために旅を続けているということ。

 淡々と話していた俺の背中を、斎藤がそっとさすった。
 驚いて斎藤を見ると、その瞳には同情の色とともに、なんだか喜びのようなものが混ざっているように見えた。
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