152 / 266
138 密入国
ユミュリエール教国に密入国するためには、オートラック王国とユミュリエール教国、両国の国境警備の網をかいくぐる必要がある。
密入国というと夜に行うものかと思っていたが、情報屋から仕入れた巡回ルートを見ると、夜はガードが堅いようだ。
「闇夜に紛れて、敵国の諜報部隊なんかが侵入すると困るだろうからね。……ま、互いに相当数のスパイを潜り込ませているみたいだけど」
呆れたようにノアが言った。
「人間の欲には際限がないというのは、本当だよね。両国ともこれだけ立派な国土を有しているというのに、まだ国を大きくしたいんでしょ?」
「まあな。満足してくれたら、争いを避けられるのに」
「ま、仕方ないね」
明るい日差しのもと、国境を目指して俺たちは歩いている。
白昼堂々、密入国とは大胆なものだ。
両国とも、そんな無謀なことをする奴は少ないと踏んでいるのか、昼間のほうが巡回が手薄だった。
それでも、定期的な巡回は両国とも行っている。
どちらの警備もかいくぐれそうな時間は、たったの10分足らずだ。
俺たちは、国境近くの岩場にたどり着き、身を潜めた。
警備が途切れるまで、ここで待機することになる。
地図を広げ、斎藤が改めてこれからの行動を確認する。
「時間になったら、私と伊月さんで偵察に向かいます。人影がないことを確認出来たら合図をするので、みんなで一斉にあちらの森の中まで走ります。この間、絶対に魔法は使用しないこと。万が一兵士に見つかったら、物理攻撃で制圧してください」
俺たちは頷き、そのまま息をひそめ続ける。
黙って待っているだけだと、時間がたつのがずいぶんと長く感じる。
次々と巡回に訪れる兵士たちを眺めながら、ため息をついた。
俺の手を、妻がそっと握る。
少し驚いて妻を見ると、彼女はにっこり笑ってみせた。
その顔を見ていると、少し心が軽くなった気がした。
どうやら俺は、自分で思っている以上に緊張していたらしい。
ありがとう、と小声でつぶやくと、妻は嬉しそうに頷いた。
そして予定の時刻。
最後の兵士の姿が見えなくなったことを確認した後、俺と斎藤は素早く国境へ移動し、周囲を見渡した。
やはり兵士の姿も気配もない。
片手をあげて合図を送ると、みんなが一斉に駆け出してきた。
俺と斎藤は先行しつつ、周囲を警戒する。
そのときだった。
「……まずい……」
小さく斎藤が呟いた。
どうしたのかと問いかけると、遠方にこちらへ向かう人影が見えたという。
おそらくオートラック王国の兵士だ。
人数は一人。
巡回は2人1組で行うため、別件な用があるのだろう。
残念ながら、国境沿いの道は見晴らしがよく、視界を遮るものが少ない。
ユミュリエール教国の森に身を隠す前に、俺たちの姿を見られてしまうだろう。
魔法が使えれば、いくらでも誤魔化しがきくのに。
そう思いつつ、斎藤とそろって人影に向かって駆け出した。
助けを求められてはいけない。
素早く制圧しなくては。
猛烈な勢いで向かってくる俺たちに気づいた兵士は、戸惑いつつも持っていた剣を抜く。
しかしその動きは遅く、瞬く間に俺たちは兵士を地面に押さえつけ、剣を取り上げた。
兵士は低くうめき声をあげた。
口を塞がなくては、と思ったが、斎藤が兵士の胸元を強く地面に押し付けているため、大声が出せないようだ。
苦しそうにもがく兵士に、申し訳ない気分になる。
「悪いな」
ぽつりと斎藤がつぶやいた。
その声に、兵士が目を見開いた。
そして押さえつけられたまま、視線だけを斎藤に向ける。
「……ゆ……しゃ……どの」
蚊の鳴くような声で、兵士が言った。
斎藤は驚いた顔をしたが、力を緩めることはしなかった。
そしてやがて、兵士は気を失ってしまった。
俺たちは兵士の意識がないことを確認してから、国境をまたいでユミュリエール教国に侵入した。
そして当初の予定通り、森の中に潜伏する。
森の中から先ほどの兵士の様子を観察していると、まもなく訪れた巡回の兵士に起こされた。
このまま騒ぎになるかと内心焦っていたが、意外なことに兵士が騒ぎ立てることはなかった。
一言二言巡回の兵士と会話をしていたようだが、彼らの落ち着いた様子からして、俺たちのことは話してはいないらしい。
やがて巡回の兵士は再び歩き始め、姿が見えなくなった。
どういうことだ?
そう思いつつ兵士を眺めていると、どうやら森の中から様子をうかがっている俺たちに気づいたらしい。
兵士の視線がこちらへ向いた。
兵士はそのまま、俺たちに向かって頭を下げた。
そしてそのまま、踵を返した。
ひとまず安堵し斎藤を見ると、彼は複雑そうな表情で兵士のことを見ていた。
密入国というと夜に行うものかと思っていたが、情報屋から仕入れた巡回ルートを見ると、夜はガードが堅いようだ。
「闇夜に紛れて、敵国の諜報部隊なんかが侵入すると困るだろうからね。……ま、互いに相当数のスパイを潜り込ませているみたいだけど」
呆れたようにノアが言った。
「人間の欲には際限がないというのは、本当だよね。両国ともこれだけ立派な国土を有しているというのに、まだ国を大きくしたいんでしょ?」
「まあな。満足してくれたら、争いを避けられるのに」
「ま、仕方ないね」
明るい日差しのもと、国境を目指して俺たちは歩いている。
白昼堂々、密入国とは大胆なものだ。
両国とも、そんな無謀なことをする奴は少ないと踏んでいるのか、昼間のほうが巡回が手薄だった。
それでも、定期的な巡回は両国とも行っている。
どちらの警備もかいくぐれそうな時間は、たったの10分足らずだ。
俺たちは、国境近くの岩場にたどり着き、身を潜めた。
警備が途切れるまで、ここで待機することになる。
地図を広げ、斎藤が改めてこれからの行動を確認する。
「時間になったら、私と伊月さんで偵察に向かいます。人影がないことを確認出来たら合図をするので、みんなで一斉にあちらの森の中まで走ります。この間、絶対に魔法は使用しないこと。万が一兵士に見つかったら、物理攻撃で制圧してください」
俺たちは頷き、そのまま息をひそめ続ける。
黙って待っているだけだと、時間がたつのがずいぶんと長く感じる。
次々と巡回に訪れる兵士たちを眺めながら、ため息をついた。
俺の手を、妻がそっと握る。
少し驚いて妻を見ると、彼女はにっこり笑ってみせた。
その顔を見ていると、少し心が軽くなった気がした。
どうやら俺は、自分で思っている以上に緊張していたらしい。
ありがとう、と小声でつぶやくと、妻は嬉しそうに頷いた。
そして予定の時刻。
最後の兵士の姿が見えなくなったことを確認した後、俺と斎藤は素早く国境へ移動し、周囲を見渡した。
やはり兵士の姿も気配もない。
片手をあげて合図を送ると、みんなが一斉に駆け出してきた。
俺と斎藤は先行しつつ、周囲を警戒する。
そのときだった。
「……まずい……」
小さく斎藤が呟いた。
どうしたのかと問いかけると、遠方にこちらへ向かう人影が見えたという。
おそらくオートラック王国の兵士だ。
人数は一人。
巡回は2人1組で行うため、別件な用があるのだろう。
残念ながら、国境沿いの道は見晴らしがよく、視界を遮るものが少ない。
ユミュリエール教国の森に身を隠す前に、俺たちの姿を見られてしまうだろう。
魔法が使えれば、いくらでも誤魔化しがきくのに。
そう思いつつ、斎藤とそろって人影に向かって駆け出した。
助けを求められてはいけない。
素早く制圧しなくては。
猛烈な勢いで向かってくる俺たちに気づいた兵士は、戸惑いつつも持っていた剣を抜く。
しかしその動きは遅く、瞬く間に俺たちは兵士を地面に押さえつけ、剣を取り上げた。
兵士は低くうめき声をあげた。
口を塞がなくては、と思ったが、斎藤が兵士の胸元を強く地面に押し付けているため、大声が出せないようだ。
苦しそうにもがく兵士に、申し訳ない気分になる。
「悪いな」
ぽつりと斎藤がつぶやいた。
その声に、兵士が目を見開いた。
そして押さえつけられたまま、視線だけを斎藤に向ける。
「……ゆ……しゃ……どの」
蚊の鳴くような声で、兵士が言った。
斎藤は驚いた顔をしたが、力を緩めることはしなかった。
そしてやがて、兵士は気を失ってしまった。
俺たちは兵士の意識がないことを確認してから、国境をまたいでユミュリエール教国に侵入した。
そして当初の予定通り、森の中に潜伏する。
森の中から先ほどの兵士の様子を観察していると、まもなく訪れた巡回の兵士に起こされた。
このまま騒ぎになるかと内心焦っていたが、意外なことに兵士が騒ぎ立てることはなかった。
一言二言巡回の兵士と会話をしていたようだが、彼らの落ち着いた様子からして、俺たちのことは話してはいないらしい。
やがて巡回の兵士は再び歩き始め、姿が見えなくなった。
どういうことだ?
そう思いつつ兵士を眺めていると、どうやら森の中から様子をうかがっている俺たちに気づいたらしい。
兵士の視線がこちらへ向いた。
兵士はそのまま、俺たちに向かって頭を下げた。
そしてそのまま、踵を返した。
ひとまず安堵し斎藤を見ると、彼は複雑そうな表情で兵士のことを見ていた。
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!