娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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142 脱獄

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 俺がぼんやり娘の柚乃のことを考えていると、外の様子を窺っていた斎藤が小声で話し始めた。


「一定期間で看守が交代するようですが、その際、少し離れたところで引継ぎや業務連絡なんかが行われているようです。完全にとはいきませんが、交代のタイミングなら我々への監視の目が緩みます。抜け出すなら、そこしかないでしょう」

「わかりました。ありがとうございます。それでは次の交代のタイミングで、行動に移しましょうか?」


 俺の提案に、みんなは頷いた。
 牢を抜け出したら、奈央の部屋を探しに行くことを計画している。
 魔法が使えないので、しらみつぶしになるが、仕方がないだろう。
 加えて、また笛を吹かれないよう最大限の注意を払う必要がある。


 そのまま少し待っていると、看守の交代の時間がやってきた。
 看守は俺たちをちらりと見て、不審な動きをしていないことを確認すると、その場を離れた。
 何かあればすぐに駆け付けられる程度の場所まで離れ、交代の看守と小声で会話を始める。
 俺たちに国の内情を知られないための対策なのだろう。

 俺は長剣を取り出し、格子窓に押し当てた。
 ノア特製のこの長剣は、硬いものでもすんなり切り裂く魔法道具だ。
 加えて、自分自身や味方には危害を加えられない仕組みになっているので、誤って手を切る心配もない。

 サクサクと鉄の格子を切って外していくと、大人が一人は通れそうな抜け穴が完成した。
 そしてそのまま。俺たちは手早く牢を抜け出す。
 脱出した先にも敵兵が潜んでいないか不安だったが、強固な格子窓を壊せるはずがないだろうと踏んで、見張りは配置されていないようだった。


「それにしても、その長剣、よく取り上げられなかったな」


 蓮が言う。
 ラウルもその隣で、同様に首をかしげている。

 拘束された際、俺たちが捨てた武器は騎士によって回収された。
 加えて、荷物もすべて取り上げられていた。
 ボディチェックまでされたのに、どうやって隠し持っていたのかと不思議に思ったようだ。


「いや、ちゃんと騎士に回収されたよ?でもこの長剣は、一定時間がたてば持ち主の元へ戻ってくるんだ」



 にやりと笑って見せると、蓮とラウルはそろって「すげー!」と目を輝かせる。
 俺が「ノア特製だぞ」というと、ふたりはその眩しいまなざしをノアに向けた。

 ノアは何でもないような顔をしつつも、どこか嬉しそうに胸を張っている。


 そのとき、ふいに「ふふふ」と誰かの笑い声が聞こえた。
 はっとして振り返ると、そこには身なりのいい服装の青年がたたずんでいた。

 おかしい。
 青年を呆然と見つめながら思う。

 ノアの訓練の成果もあり、人の気配にはずいぶん敏感になった。
 隠密を得意とする相手でも、ここまで近づかれれば感知できないはずがない。
 斎藤たちも同様に、唖然と青年を眺めていた。


「おや。びっくりさせたかな?」


 飄々と青年が言う。
 その言葉に、ノアが小さく舌打ちをした。
 思い切りしかめられた表情は、俺が初めて目にするものだった。


「こんなところで、何をしてるの?」


 冷たい声でノアが言った。
 自分に向けられたものではないとわかっていても、背筋が凍る思いがした。
 しかし青年が怯んだ様子はなく、余裕の笑みを浮かべている。

 そして「それはこっちのセリフだよ」と言う。


「まさかあんたが俺の世界に来てくれるなんて、うれしいな。遊びに来てくれたの?」

「ふざけないで」

「ふざけていないさ。まぎれもない本心だよ。お望みとあれば、お茶でも出そうか?」


 さっき青年は「俺の世界」だといった。
 それに、ノアに対してやけに親しげな口ぶり。
 嫌な予感が俺の頭をよぎる。

 俺の予感を確信に変えるように、ノアが決定的な言葉を発する。


「現世への過度な干渉は、ご法度だって知ってるでしょ?」


 ああ、やっぱり。
 俺はぐっと唇を噛み
 目の前にいるこいつは、この世界を司る神だ。
 どうして神がこの場にいるのかはわからないが、ややこしい状況になってしまったことだけは確かだろう。
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