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147 悲痛
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溢れる涙を指先で拭い、奈央は言う。
「わざわざ私のためにここまで来てくださって、ありがとうございます。主人が私のこと、忘れずに探してくれていたこと……本当に嬉しい……。でも、私が還ってしまうと、この国は……」
「その通りです!この国にはあなた様が必要なのです!」
奈央の言葉にいち早く反応したのは、そばに控えている騎士だった。
奈央は悲しげな顔で頷いてみせた。
そんな奈央に、ノアが不満気に問いかける。
「君は自分の身を犠牲にしてまで、この国に尽くしたいの?」
「犠牲って……」
「君の愛する人を傷つけてまで、本当にしなくてはならないことなのかな?」
そんなのまるで、人身御供じゃないか。
俺もそう思ったが、奈央を責めるようで言えなかった。
ノアの言葉に、奈央はぐっと唇を噛む。
愛する夫を傷つけることなど、彼女は望んでいないはずだ。
それでも彼女の正義感が、あるいは優しさがこの世界を見捨てることをよしとしないのだろう。
ノアは仕方がないとでもいうように、ため息をついて指をパチンと鳴らした。
すると、突如として大きな水鏡のようなものが現れる。
水面が揺れたと思ったら、その中に一人の男の姿が映し出された。
男は、テレビの前に座りこんでうなだれている。
「……亮介……」
奈央が小声で、夫の名前を呼んだ。
しかし男はこちらに気づくことはなく、ただ静かにテレビに視線を向けた。
テレビの中には、奈央の姿があった。
異世界で聖女として過ごす奈央の姿は神々しいが、おそらく亮介の知る妻の姿とは異なるのだろう。
画面の中の奈央は、騎士とともに魔物と戦っている。
魔物の軍勢に追い込まれつつも、奈央は回復や支援魔法を駆使して騎士のサポートに徹していた。
亮介はそんな奈央をみつめて、涙を流していた。
拳を握り締め、噛みしめた唇には血が滲んでいる。
奈央は圧倒されるように、亮介の姿を見て息をのんだ。
「……亮介が泣いてるの、初めて見た」
そういう奈央も、目にたっぷりの涙を浮かべている。
そんな奈央の様子を見て、再びノアが指をパチンと鳴らした。
水鏡の水面が揺れ、映像が切り替わる。
しかし新たに映し出されたのも、テレビの前にいる亮介の姿だった。
ただ先程と違うのは、彼がテレビにしがみつきながら、何かを叫んでいることだった。
ノアがもう一度指を鳴らすと、亮介の声がその場に響き渡った。
『がんばれ!がんばれ、がんばれ……!』
ひたすら何かを応援する声。
一体何を必死に応援しているのかと、亮介の視線の先のテレビの画面を観る。
そこに映し出されていたのは、俺たちの姿だった。
とある領地へ視察予定の奈央を待ち伏せしていた俺たちが、神聖騎士たちに囲まれている場面だ。
奈央が笛を吹いて神具の檻のなかに閉じこもったのを見て、俺たちは降伏することを決める。
それを見た亮介は『……なんでだよっ!』と悲痛な叫び声をあげた。
その場に崩れこむようにしてしゃがみ込み、拳で何度も地面を叩きつける。
『あとちょっとだったのに!ふざけんなよ!……助けてくれよ……頼むから……誰でもいいから、奈央を助けてくれよ……』
嗚咽にも聞こえる切実な声に、俺は胸を裂かれるような気持ちだった。
もしも俺が彼の立場だったら、きっと同じように絶望することだろう。
あと一歩のところでうまくいかないやるせなさ。
それを画面越しに見ることしかできない不甲斐なさ。
そんなもので心がぐちゃちゃになってしまうはずだ。
「……もう、やめて……」
消え入るような声で、奈央が言った。
水鏡の中の亮介は、ずっと地面を殴り続けている。
拳を振り下ろすたび、痛々しい鮮血が宙を舞う。
「やめて、亮介!手がダメになっちゃうよ!お願いだからもうやめて!!」
悲痛な奈央の叫びは、亮介には届かない。
奈央は泣きじゃくりながら、亮介の名前を繰り返し呼んでいる。
そのとき、ノアがもう一度指を鳴らした。
水鏡は霞のように消え去り、亮介の姿も見えなくなった。
「……これでも、この世界のほうが大切?このままだと、彼は壊れてしまうかもしれないよ?」
「……っ……」
「それに、酷なことをいうようだけど、君が彼にしているのはこういうことだよ」
「わざわざ私のためにここまで来てくださって、ありがとうございます。主人が私のこと、忘れずに探してくれていたこと……本当に嬉しい……。でも、私が還ってしまうと、この国は……」
「その通りです!この国にはあなた様が必要なのです!」
奈央の言葉にいち早く反応したのは、そばに控えている騎士だった。
奈央は悲しげな顔で頷いてみせた。
そんな奈央に、ノアが不満気に問いかける。
「君は自分の身を犠牲にしてまで、この国に尽くしたいの?」
「犠牲って……」
「君の愛する人を傷つけてまで、本当にしなくてはならないことなのかな?」
そんなのまるで、人身御供じゃないか。
俺もそう思ったが、奈央を責めるようで言えなかった。
ノアの言葉に、奈央はぐっと唇を噛む。
愛する夫を傷つけることなど、彼女は望んでいないはずだ。
それでも彼女の正義感が、あるいは優しさがこの世界を見捨てることをよしとしないのだろう。
ノアは仕方がないとでもいうように、ため息をついて指をパチンと鳴らした。
すると、突如として大きな水鏡のようなものが現れる。
水面が揺れたと思ったら、その中に一人の男の姿が映し出された。
男は、テレビの前に座りこんでうなだれている。
「……亮介……」
奈央が小声で、夫の名前を呼んだ。
しかし男はこちらに気づくことはなく、ただ静かにテレビに視線を向けた。
テレビの中には、奈央の姿があった。
異世界で聖女として過ごす奈央の姿は神々しいが、おそらく亮介の知る妻の姿とは異なるのだろう。
画面の中の奈央は、騎士とともに魔物と戦っている。
魔物の軍勢に追い込まれつつも、奈央は回復や支援魔法を駆使して騎士のサポートに徹していた。
亮介はそんな奈央をみつめて、涙を流していた。
拳を握り締め、噛みしめた唇には血が滲んでいる。
奈央は圧倒されるように、亮介の姿を見て息をのんだ。
「……亮介が泣いてるの、初めて見た」
そういう奈央も、目にたっぷりの涙を浮かべている。
そんな奈央の様子を見て、再びノアが指をパチンと鳴らした。
水鏡の水面が揺れ、映像が切り替わる。
しかし新たに映し出されたのも、テレビの前にいる亮介の姿だった。
ただ先程と違うのは、彼がテレビにしがみつきながら、何かを叫んでいることだった。
ノアがもう一度指を鳴らすと、亮介の声がその場に響き渡った。
『がんばれ!がんばれ、がんばれ……!』
ひたすら何かを応援する声。
一体何を必死に応援しているのかと、亮介の視線の先のテレビの画面を観る。
そこに映し出されていたのは、俺たちの姿だった。
とある領地へ視察予定の奈央を待ち伏せしていた俺たちが、神聖騎士たちに囲まれている場面だ。
奈央が笛を吹いて神具の檻のなかに閉じこもったのを見て、俺たちは降伏することを決める。
それを見た亮介は『……なんでだよっ!』と悲痛な叫び声をあげた。
その場に崩れこむようにしてしゃがみ込み、拳で何度も地面を叩きつける。
『あとちょっとだったのに!ふざけんなよ!……助けてくれよ……頼むから……誰でもいいから、奈央を助けてくれよ……』
嗚咽にも聞こえる切実な声に、俺は胸を裂かれるような気持ちだった。
もしも俺が彼の立場だったら、きっと同じように絶望することだろう。
あと一歩のところでうまくいかないやるせなさ。
それを画面越しに見ることしかできない不甲斐なさ。
そんなもので心がぐちゃちゃになってしまうはずだ。
「……もう、やめて……」
消え入るような声で、奈央が言った。
水鏡の中の亮介は、ずっと地面を殴り続けている。
拳を振り下ろすたび、痛々しい鮮血が宙を舞う。
「やめて、亮介!手がダメになっちゃうよ!お願いだからもうやめて!!」
悲痛な奈央の叫びは、亮介には届かない。
奈央は泣きじゃくりながら、亮介の名前を繰り返し呼んでいる。
そのとき、ノアがもう一度指を鳴らした。
水鏡は霞のように消え去り、亮介の姿も見えなくなった。
「……これでも、この世界のほうが大切?このままだと、彼は壊れてしまうかもしれないよ?」
「……っ……」
「それに、酷なことをいうようだけど、君が彼にしているのはこういうことだよ」
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