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161 魔王と転移者
まぶしさに閉じていた瞳を開くと、真っ白な空間にいた。
俺とその隣にいる妻を、ノアがじっと見つめている。
「……ノア?」
不審に思って声をかけると、ノアは複雑そうな顔をして微笑んだ。
そして「次の世界に行く前に、ちょっと準備が必要なんだ」と言い、ぱちんと指を鳴らす。
すると俺たちの服装がいつの間にか変わっていた。
冒険者風の動きやすい服装だったのが、黒をベースとした軍服のようなものになっている。
さらにトレンチコートまで黒で、襟もとにはボリュームのあるファーがついていた。
妻もおそろいのデザインだが、ズボンの丈が異様に短く、黒のニーハイブーツと合わせて絶対領域とやらがあらわになっている。
漫画やアニメなんかで出てくる軍服少女そのものだ。
「わあ!新しい服もかわいい!大人っぽい!」
妻はにこにことはしゃいでご機嫌そうにしている。
くるくる回ると、トレンチコートの裾が膨らみ、スカートのように見えた。
「な、なんでこんな格好……」
少しコスプレをしているかのような気分になって、気恥ずかしくなる。
ノアはクスクス笑って「二人とも、似合ってるよ」と言った。
そんなノアの服装も、黒がベースのものに変わっていた。
ノアの場合、軍服ではなく、貴族のお坊ちゃんが着ていそうな質感の良いスーツだった。
黒いリボンタイには、ノアの瞳と同じ色の青い宝石のついたブローチが飾られている。
「ノアくんもかわいい!」
「ありがとう」
妻の誉め言葉に、ノアが微笑んで答える。
そして自分のリボンタイと同じデザインの首輪をコトラにつけた。
コトラは嫌がることなく、じっとノアを見つめている。
ノアは首輪をつけ終わると満足そうな顔をして、話を始めた。
「次に行く世界にも、魔王がいるんだ」
「……魔王、どこの世界にもいるな……」
「ふふ、いない世界もあるよ」
俺のぼやきに、ノアが苦笑して答える。
こうも行く先々の世界に魔王が存在していると、なんだか特別感が薄れるように思えてならない。
「それで?また転移者は魔王討伐を依頼されているのか?」
「……いや」
「違うのか?」
「うん。勇者はいることにはいるんだけど、向こうの世界の住人なんだ。勇者パーティーのほかのメンバーも、全員転移者ではない」
珍しいパターンだ。
そう思いつつ、話の続きに耳を傾ける。
「転移者は……魔王城にいるんだよね」
困ったように、ノアが笑った。
俺は衝撃の事実に、口をぽかんと開けて固まる。
すると妻が「魔王に捕まっちゃったの?」と問いかけた。
しかしノアは、首を横に振って否定する。
「じゃあ、魔王の仲間になったの?」
妻の言葉に、ノアは小さく頷いた。
まさかの連続に、俺は口をパクパクさせる。
確かに、たまにラノベの設定なんかで見かけるけど、実際に魔王に手を貸す転移者がいるとは……。
そして改めて、黒で統一された服装を見て納得する。
魔王といえば黒、というのは安直すぎる気もするが。
「つまり、今回の転移者は魔王と手を組み、人間と対立しているということか?神のねらいがよくわからないが……」
「いや、人間と対立している……とは言えないかな?」
「どういうことだ?」
ノアが言うには、魔王側には人間と敵対する意思はないらしい。
人間を襲うつもりも、人間の国の領土を狙うつもりもないと。
しかし人間たちはそれに納得しておらず「いつか攻めてくるかもしれない」という理由で、魔王の討伐を目論んでいるそうだ。
幸い魔王側の方が個々の戦闘力が圧倒的に高く、攻め入る人間たちは脅威にすらなっていない。
ただし、勇者パーティーは人間にしては戦闘力が高く、弱い個体の魔物や魔人には命の危険があるという。
加えて最近では伝説の聖剣とやらを手に入れ、魔王側では警戒が強まっているそうだ。
「聖剣があれば、魔王にも勝てるのか?」
「いや、まず無理だろうね。魔王の側近たちにさえ、手も足も出ないんじゃないかな?」
「そうなのか?伝説なのに?」
「伝説と言っても、人間にとっては攻撃力が高いだけで、魔王側にはもっと強い武器はいくらでもあるからね」
「ああ……」
ただ勇者たちがどこから攻め入ってくるかわからない状況では、魔王国の民に犠牲が出る可能性もある。
そこでやむを得ず、勇者を見つけたらとらえるよう命令が下されているという。
確保が難しければ、駆除も致し方なしと。
「駆除……」
まるで害虫か何かのようだが、魔王側からするとまさしくそうなのだろう。
しかしそうして魔王側に危害を加えようとする人間を、転移者とはいえ魔王城に置くとは、魔王は変わり者なのかもしれない。
「それで、転移者は……」
「魔王側と人間側の和解を目指しているようだね。ただ、転移者本人は魔王側に受け入れられているけど、その世界の人間は偏見強くて、難しいそうだよ」
「だろうな……」
差別や偏見の根は、想像以上に深いものだ。
それも種族が異なるとなれば、なおさらだろう。
それでも、転移者が魔王城で不遇な扱いを受けていないというのは朗報だと言える。
「それでね」
ノアは意を決したように言った。
「その魔王城にいる転移者っているのが、柚乃ちゃんなんだ」
その言葉に、俺は目を見開いた。
娘が魔王城にいる。
今から俺たちが向かう世界に、柚乃がいる。
期待と不安が入り混じって、頭が真っ白になる。
待ち望んだ再会が、すぐそこまで迫っていることに、心が震えるのを感じた。
-----------------------------------------
次回からしばらく特別編を挟んで、最後の世界での冒険が始まります。
果たして伊月たちは、柚乃と無事に再会を果たし、元の世界へ戻ることができるのか。
ぜひ最後までお楽しみください!
次回からの特別編も少し長くなりますが、こちらもお付き合いいただけるとうれしいです。
俺とその隣にいる妻を、ノアがじっと見つめている。
「……ノア?」
不審に思って声をかけると、ノアは複雑そうな顔をして微笑んだ。
そして「次の世界に行く前に、ちょっと準備が必要なんだ」と言い、ぱちんと指を鳴らす。
すると俺たちの服装がいつの間にか変わっていた。
冒険者風の動きやすい服装だったのが、黒をベースとした軍服のようなものになっている。
さらにトレンチコートまで黒で、襟もとにはボリュームのあるファーがついていた。
妻もおそろいのデザインだが、ズボンの丈が異様に短く、黒のニーハイブーツと合わせて絶対領域とやらがあらわになっている。
漫画やアニメなんかで出てくる軍服少女そのものだ。
「わあ!新しい服もかわいい!大人っぽい!」
妻はにこにことはしゃいでご機嫌そうにしている。
くるくる回ると、トレンチコートの裾が膨らみ、スカートのように見えた。
「な、なんでこんな格好……」
少しコスプレをしているかのような気分になって、気恥ずかしくなる。
ノアはクスクス笑って「二人とも、似合ってるよ」と言った。
そんなノアの服装も、黒がベースのものに変わっていた。
ノアの場合、軍服ではなく、貴族のお坊ちゃんが着ていそうな質感の良いスーツだった。
黒いリボンタイには、ノアの瞳と同じ色の青い宝石のついたブローチが飾られている。
「ノアくんもかわいい!」
「ありがとう」
妻の誉め言葉に、ノアが微笑んで答える。
そして自分のリボンタイと同じデザインの首輪をコトラにつけた。
コトラは嫌がることなく、じっとノアを見つめている。
ノアは首輪をつけ終わると満足そうな顔をして、話を始めた。
「次に行く世界にも、魔王がいるんだ」
「……魔王、どこの世界にもいるな……」
「ふふ、いない世界もあるよ」
俺のぼやきに、ノアが苦笑して答える。
こうも行く先々の世界に魔王が存在していると、なんだか特別感が薄れるように思えてならない。
「それで?また転移者は魔王討伐を依頼されているのか?」
「……いや」
「違うのか?」
「うん。勇者はいることにはいるんだけど、向こうの世界の住人なんだ。勇者パーティーのほかのメンバーも、全員転移者ではない」
珍しいパターンだ。
そう思いつつ、話の続きに耳を傾ける。
「転移者は……魔王城にいるんだよね」
困ったように、ノアが笑った。
俺は衝撃の事実に、口をぽかんと開けて固まる。
すると妻が「魔王に捕まっちゃったの?」と問いかけた。
しかしノアは、首を横に振って否定する。
「じゃあ、魔王の仲間になったの?」
妻の言葉に、ノアは小さく頷いた。
まさかの連続に、俺は口をパクパクさせる。
確かに、たまにラノベの設定なんかで見かけるけど、実際に魔王に手を貸す転移者がいるとは……。
そして改めて、黒で統一された服装を見て納得する。
魔王といえば黒、というのは安直すぎる気もするが。
「つまり、今回の転移者は魔王と手を組み、人間と対立しているということか?神のねらいがよくわからないが……」
「いや、人間と対立している……とは言えないかな?」
「どういうことだ?」
ノアが言うには、魔王側には人間と敵対する意思はないらしい。
人間を襲うつもりも、人間の国の領土を狙うつもりもないと。
しかし人間たちはそれに納得しておらず「いつか攻めてくるかもしれない」という理由で、魔王の討伐を目論んでいるそうだ。
幸い魔王側の方が個々の戦闘力が圧倒的に高く、攻め入る人間たちは脅威にすらなっていない。
ただし、勇者パーティーは人間にしては戦闘力が高く、弱い個体の魔物や魔人には命の危険があるという。
加えて最近では伝説の聖剣とやらを手に入れ、魔王側では警戒が強まっているそうだ。
「聖剣があれば、魔王にも勝てるのか?」
「いや、まず無理だろうね。魔王の側近たちにさえ、手も足も出ないんじゃないかな?」
「そうなのか?伝説なのに?」
「伝説と言っても、人間にとっては攻撃力が高いだけで、魔王側にはもっと強い武器はいくらでもあるからね」
「ああ……」
ただ勇者たちがどこから攻め入ってくるかわからない状況では、魔王国の民に犠牲が出る可能性もある。
そこでやむを得ず、勇者を見つけたらとらえるよう命令が下されているという。
確保が難しければ、駆除も致し方なしと。
「駆除……」
まるで害虫か何かのようだが、魔王側からするとまさしくそうなのだろう。
しかしそうして魔王側に危害を加えようとする人間を、転移者とはいえ魔王城に置くとは、魔王は変わり者なのかもしれない。
「それで、転移者は……」
「魔王側と人間側の和解を目指しているようだね。ただ、転移者本人は魔王側に受け入れられているけど、その世界の人間は偏見強くて、難しいそうだよ」
「だろうな……」
差別や偏見の根は、想像以上に深いものだ。
それも種族が異なるとなれば、なおさらだろう。
それでも、転移者が魔王城で不遇な扱いを受けていないというのは朗報だと言える。
「それでね」
ノアは意を決したように言った。
「その魔王城にいる転移者っているのが、柚乃ちゃんなんだ」
その言葉に、俺は目を見開いた。
娘が魔王城にいる。
今から俺たちが向かう世界に、柚乃がいる。
期待と不安が入り混じって、頭が真っ白になる。
待ち望んだ再会が、すぐそこまで迫っていることに、心が震えるのを感じた。
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次回からしばらく特別編を挟んで、最後の世界での冒険が始まります。
果たして伊月たちは、柚乃と無事に再会を果たし、元の世界へ戻ることができるのか。
ぜひ最後までお楽しみください!
次回からの特別編も少し長くなりますが、こちらもお付き合いいただけるとうれしいです。
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