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特別編(18)恨みの矛先
「あーあ」
気の抜けた声を出したのは、地面に転がったままの神だった。
亮介が涙に濡れた瞳を神に向ける。
神は嘲笑するように笑い、亮介に冷たい視線を返した。
「こんなはずじゃなかったのになぁ、残念。もっと傷ついて、もっと絶望して、彼女や世界や神なんかを恨んでくれたら面白かったのに。彼女は彼女でガードが硬いし、全然面白くなかった」
「な、なにを……」
「つまらない、つまらない、つまらない。退屈だったんだよ、俺は。だから苦しむ人間でも観察して楽しもうと思ってたのに……あーあ、何もかもつまらない」
そう吐き捨てる神に、亮介は思わずカッとなる。
しかし感情のまま殴りかかろうとした亮介の腕を少年がそっと掴み、制止した。
亮介が少年に睨むような目線を向けると、少年は何とも悲しそうな顔をして首を横に振る。
そしてちらりと神の方を見た。
神の首は、端から少しずつ崩れ始めていた。
どうやら彼に残された時間はわずかしかないらしい。
意地の悪そうな顔をした神の目には、涙が滲んでいる。
亮介はどうしてか胸が締め付けられるような気持ちになって、振り上げた拳を下ろした。
「俺だって愛したかったし、愛されたかった。それなのに、どうしてお前らごときが……!一生離れ離れにしてやるはずだったのに、俺はもうあの子に会えないのに……」
神の言葉は支離滅裂で、亮介には何が言いたいのかわからなかった。
それでも切実に訴える姿に、今までこの場所で嘆き苦しんできた自分の姿が重なる。
そんな亮介の横で、少年は憐れむような視線を神に向けていた。
それが気に食わなかったのか、神は少年を睨みつけて怒鳴る。
「あいつの非情さは、いずれお前たちにも牙を剥く!そして、お前たちもこちら側に堕ちてくるのだ。ざまあみろ、それがあいつの最期になるんだ!あはははは!」
そう笑い出した神は、亮介の目には泣いているように見えた。
そしてその瞳に滲んだ涙がこぼれた瞬間、神の生首はさらりと音を立てて崩れ去った。
砂上の城のように、なんとも呆気なく。
少年はそんな神を偲ぶかのように、そっと目を伏せた。
その光景があまりにも美しく、呆けたように見つめる亮介には、それが瞬きほどの時間だったのか、はたまた数分ほどだったのかすらわからなかった。
目を開けた少年は、悲しげに微笑んで亮介に告げる。
「君の愛する人を攫った者は、今こうして崩れ去った。……まあ、先程の彼はすでに存在を失った残留思念に過ぎなかったがな。言ってることがめちゃくちゃだっただろ?」
「……どうしてあんなことに?」
「彼は罪と向き合うことを避け、自ら消滅することを選んだんだ。……それならば、こうして最期の最期まで君に意地悪をしなくてもよかったのにな」
「なんでそこまで俺たちに……」
神の執着の理由が、亮介には何と考えてもわからなかった。
平凡な暮らしをしていただけで、もちろん奈央も亮介も、神とは面識すらなかったはずだ。
少年は少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
「……彼にも、愛する人がいたんだよ。今ではもう遠い昔のことだが。彼が恨んでいたのは君たち個人じゃなく、すべての愛し愛される人々だったんだよ」
「あいつの愛した相手も、神じゃなくて人間だったのか?」
「そう。彼女は彼の世界の聖女だった。そして偶然どこかの世界から迷い込んでしまった、異世界人でもあった。……彼は異分子であるがゆえに彼女に惹かれ、また彼女も彼の想いに応えてしまった。それが、悲劇の始まりだったとも言える」
神による世界への過度な干渉は禁じられているが、それが余計に2人の恋に火をつけた。
しかし、人の命は神にとってあまりに短く、儚い。
だから神は恋人を半神化させ、ともに悠久のときを生きることを決めた。
もちろん、神の独断で人間に神格を与えることはご法度だった。
神には神の、人には人の道理がある。
一個人の熱情で、それを捻じ曲げることは許されない。
それからしばらく経って、神と恋人は相応の報いを受けることになった。
気の抜けた声を出したのは、地面に転がったままの神だった。
亮介が涙に濡れた瞳を神に向ける。
神は嘲笑するように笑い、亮介に冷たい視線を返した。
「こんなはずじゃなかったのになぁ、残念。もっと傷ついて、もっと絶望して、彼女や世界や神なんかを恨んでくれたら面白かったのに。彼女は彼女でガードが硬いし、全然面白くなかった」
「な、なにを……」
「つまらない、つまらない、つまらない。退屈だったんだよ、俺は。だから苦しむ人間でも観察して楽しもうと思ってたのに……あーあ、何もかもつまらない」
そう吐き捨てる神に、亮介は思わずカッとなる。
しかし感情のまま殴りかかろうとした亮介の腕を少年がそっと掴み、制止した。
亮介が少年に睨むような目線を向けると、少年は何とも悲しそうな顔をして首を横に振る。
そしてちらりと神の方を見た。
神の首は、端から少しずつ崩れ始めていた。
どうやら彼に残された時間はわずかしかないらしい。
意地の悪そうな顔をした神の目には、涙が滲んでいる。
亮介はどうしてか胸が締め付けられるような気持ちになって、振り上げた拳を下ろした。
「俺だって愛したかったし、愛されたかった。それなのに、どうしてお前らごときが……!一生離れ離れにしてやるはずだったのに、俺はもうあの子に会えないのに……」
神の言葉は支離滅裂で、亮介には何が言いたいのかわからなかった。
それでも切実に訴える姿に、今までこの場所で嘆き苦しんできた自分の姿が重なる。
そんな亮介の横で、少年は憐れむような視線を神に向けていた。
それが気に食わなかったのか、神は少年を睨みつけて怒鳴る。
「あいつの非情さは、いずれお前たちにも牙を剥く!そして、お前たちもこちら側に堕ちてくるのだ。ざまあみろ、それがあいつの最期になるんだ!あはははは!」
そう笑い出した神は、亮介の目には泣いているように見えた。
そしてその瞳に滲んだ涙がこぼれた瞬間、神の生首はさらりと音を立てて崩れ去った。
砂上の城のように、なんとも呆気なく。
少年はそんな神を偲ぶかのように、そっと目を伏せた。
その光景があまりにも美しく、呆けたように見つめる亮介には、それが瞬きほどの時間だったのか、はたまた数分ほどだったのかすらわからなかった。
目を開けた少年は、悲しげに微笑んで亮介に告げる。
「君の愛する人を攫った者は、今こうして崩れ去った。……まあ、先程の彼はすでに存在を失った残留思念に過ぎなかったがな。言ってることがめちゃくちゃだっただろ?」
「……どうしてあんなことに?」
「彼は罪と向き合うことを避け、自ら消滅することを選んだんだ。……それならば、こうして最期の最期まで君に意地悪をしなくてもよかったのにな」
「なんでそこまで俺たちに……」
神の執着の理由が、亮介には何と考えてもわからなかった。
平凡な暮らしをしていただけで、もちろん奈央も亮介も、神とは面識すらなかったはずだ。
少年は少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
「……彼にも、愛する人がいたんだよ。今ではもう遠い昔のことだが。彼が恨んでいたのは君たち個人じゃなく、すべての愛し愛される人々だったんだよ」
「あいつの愛した相手も、神じゃなくて人間だったのか?」
「そう。彼女は彼の世界の聖女だった。そして偶然どこかの世界から迷い込んでしまった、異世界人でもあった。……彼は異分子であるがゆえに彼女に惹かれ、また彼女も彼の想いに応えてしまった。それが、悲劇の始まりだったとも言える」
神による世界への過度な干渉は禁じられているが、それが余計に2人の恋に火をつけた。
しかし、人の命は神にとってあまりに短く、儚い。
だから神は恋人を半神化させ、ともに悠久のときを生きることを決めた。
もちろん、神の独断で人間に神格を与えることはご法度だった。
神には神の、人には人の道理がある。
一個人の熱情で、それを捻じ曲げることは許されない。
それからしばらく経って、神と恋人は相応の報いを受けることになった。
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