娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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163 魔王城

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 見慣れた自分の顔が、コンタクトひとつでここまで印象が変わることに驚いた。
 思わず呆けて鏡を見つめていると、ノアが「気に入ったかい?」と問いかける。
 俺は小さく頷き返し「でもなんか照れくさいな」と笑った。


「そう?似合ってるよ」


 そう微笑んだノアは、振り向いて「詩織ちゃんは……」と言って固まった。
 どうしたのかと思って妻のほうを見ると、どうやらすでにコンタクトを着用していたらしい。


「詩織ちゃん、自分でつけられたの?すごいねぇ」

「うん!女は度胸って奈央ちゃんが言ってたからね!」


 ノアに褒められ、得意げにどや顔をする妻。
 俺はさっきまでの自分の狼狽ぶりを思い出し、恥ずかしさのあまりうなだれる。

 そんな俺の近くに妻が来て「どう?」と目を見開いて見せた。
 その瞳は俺と同じ深い青で縁取られ、全体に無数の星がちりばめられている。
 まるで吸い込まれそうだ。
 そう思いつつ「きれいだよ」というと、妻は嬉しそうに笑って俺の持つ手鏡を覗き込んだ。


「わ、かわいい!伊月くんのに似てて、おそろいみたい」

「そうだね。二人そろうと、きれいな夜空みたいだ」


 はしゃぐ妻を微笑ましそうに眺めて、ノアが言う。
 その瞳は幾何学模様のようなもので周囲を囲まれ、三角形の何かが中央に配置されている。

 三角……いや、違う。
 下の部分が楕円になっている。
 どこかで見たような形なのだが、はっきりと思い出せない。


「それ、かっこいいな」


 素直に口をついた誉め言葉に、ノアは「自前だよ」と笑った。
 まじか、と驚く俺に「どうかな?」とおどけて見せたが、嘘を言っている様子はなさそうなので本当なのだろう。
 今までは人間らしさを演出するために見た目を変えていたのだろう。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


 ノアが指を鳴らし、見慣れた白い扉が姿を現した。
 ゆっくりと開いた扉に足を踏み入れながら、ノアの瞳がどこか天秤に似ているな、とぼんやり考えていた。







 扉の先は、まさにイメージ通りの魔王領そのものだった。

 荒廃した土地。
 赤く輝く不気味な月。
 小高い丘に建つ黒く大きな西洋風の城。


「す、すごい……!」

「いかにもって感じでしょ?」


 目を輝かせる俺に、くすっと笑ってノアが言う。
 妻はちょっと怖いのか、俺の横にぴったりくっついて険しい顔をしている。


「それで、このまま魔王城に乗り込むのか?」

「うーん、それも悪くないけど、一応アポをとろうかな」

「アポ?」


 何だか会社みたいだ。
 そう思いつつも、確かに魔王領のトップの居城に約束もなしに乗り込むのは失礼だろうと思う。


「で、アポはどこでとれるんだ?」

「入口のところに受付があるらしいからね、そこでとるよ」

「う、受付……」


 ますます会社みたいだ。
 雰囲気にそぐわないが、ちゃんとした組織があるらしい。

 ひとまず魔王城のほうへ向かうことにして、ゆっくりと歩き始める。
 あたりを見渡すと、岩や枯れ木ばかりで緑は一切ない。

 さらに魔王城に近づくにつれ、城が深い崖に囲まれていることに気づいた。
 ここを渡るには、飛行魔法が必要になるのだろうか?
 そうこう考えているうちに、気づくと俺たちは崖の前に立っていた。

 城の周りを飛んでいたコウモリが、俺たちに気づいたらしく、一目散にこちらへ向かって飛んでくる。
 思わず身構えるも、ノアに「大丈夫」と制止された。


「見ない顔だな。客人か?」


 俺たちの周囲を回るように飛びながら、訊ねたのはコウモリだった。
 コウモリが喋ったことに驚きつつも、表情には出さず黙って頷く。


「魔王様に会いに来たんだけど、ここってどうやって渡るんだい?」


 ノアが訊ねると、コウモリは「少し待っていろ」と城へ向かって飛んでいってしまった。
 そのまま待機していると、崖の下の方からゴゴゴゴゴゴ、と何かが動くような音が聞こえてきた。

 不安げな顔をしている妻の手を握り、崖の下をそっと覗き込むと、細長い何かがせり上がってきていた。


「……橋?」


 それは石造りの立派な橋だった。
 古びてはいるものの、魔王城の雰囲気によく合う黒く光沢のある石でできた橋は怪しい美しささえ感じさせる。

 まもなく先程のコウモリが戻ってきて、橋の先まで先導してくれることになった。
 ずいぶん親切だからか、何か罠があるのではないかと警戒してしまうが、問題なく魔王城の前までたどり着くことができた。


「案内してくれてありがとう」


 ノアがコウモリにお礼を言い、俺と妻も続いて頭を下げる。
 コウモリは「仕事だからな」といい、飛んで行ってしまった。
 どうやら彼は、門兵のような役割を担っているらしい。


「こんにちは」


 コウモリを見送った俺たちに声をかけたのは、大きな角を2本生やした少女だった。
 メイド服のようなものを着ていて、背中には先程のコウモリのような翼まで生えている。


「魔王様にご面会を希望されると伺いました。受付をいたしますので、こちらへどうぞ」


 にこやかな案内に従いつつ「謁見」じゃなくて「面会」なのがますます会社っぽいな、などと俺は考えていた。
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