娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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164 受付

 案内の少女の指示に従ってノアが書類を記入しているあいだ、俺たちは魔王城のエントランスに通されていた。
 手入れの行き届いたエントランスは清潔感があるが、飾られている大きな角や魔物のはく製なんかが魔王城らしい雰囲気を出している。
 また中心には、魔王らしき長髪の男性の肖像画も飾られていた。

 物珍しさにあたりを見渡す俺たちに、少女がお茶を出してくれた。
 紅茶のような色をしているそれに恐る恐る口を付けると、芳醇な香りが広がる。


「……おいしい」


 俺は思わず、そう呟いていた。
 少女は微笑んで、そのお茶には魔王のお気に入りの茶葉が使われているのだと教えてくれた。
 もてなしの意味を込め、魔王城の来訪者にはこうして最上級のお茶を出すよう魔王に指示されているらしい。

 少女はノアの書き終えた書類を確認し「確かに承りました」と頭を下げた。
 しかし眉を下げ、申し訳なさそうに続ける。


「ただいま魔王様は外交に出ておりまして、お戻りは5日後の予定となっております。またご面会は先着順となっており、お客様の前に数組ほど面会予約をされた方がいらっしゃいますので、面会は7日後の午後が最短となりますが、よろしいでしょうか?」


 ノアが問題ないと伝えると、少女はにっこりと微笑んだ。


「ご理解いただきありがとうございます。面会日までは城下町で過ごされますか?城下町の宿で利用できる魔王様面会待ちクーポンをお配りしておりますので、よろしければご利用くださいませ」


 そう言って少女が小さな木の札のようなものを差しだす。
 この札を宿に出すと、利用料金が3割差し引かれるそうだ。
 あまりの至れり尽くせりぶりに、本当にここが魔王城なのか疑わしく思えてくる。

 城下町がどこにあるのかと不思議に思い首を傾げると、少女が説明してくれた。
 王城の周辺は何もない荒れ地に見えるが、地下街が発達しているらしい。
 魔王城内の転移魔法陣から城下町へ降りられるそうなので、少女に案内してもらうことになった。

 先導する少女の後ろ姿に「あの」と声をかける。
 少女は「どうなさいましたか?」と微笑みながら振り向いた。


「あの、ここに人間の女の子がいると聞いたのですが……」


 魔王が留守でも、娘はこの城にいるはずだ。
 魔王に会う前に、何とか娘に会えないか頼もうと思ったのが、少女は困った顔で答えた。


「ユノ様のことでしょうか?申し訳ございません、彼女も魔王様の外交に同行しておりまして」

「外交に……?」

「ええ、ユノ様は人間の身でありながら、魔王領の発展に大きく貢献されておられる方なのです。わたくしたち使用人にもお優しくて、みなに慕われているんですよ」

「そうなんですか」


 娘も不在にしていることは予想外だったが、他人の口からわが子が褒められるというのは何ともうれしいものだ。
 俺の様子を窺うようにじっとこちらを見つめていた少女は、安心したように表情を和らげた。


「ユノ様にもご面会を希望されますか?」

「は、はい!」

「ユノ様とのご面会には魔王様の許可が必要になりますので、申請書に付け加えておきますね。敵意がない方であれば、許可されることがほとんどですのでご心配なく」

「ありがとうございます」


 少女によると、人間に恨みを持つ一部の魔族が娘に敵意をもって近づくことがあるらしい。
 そのため、娘に近づく者に問題がないか事前にチェックすることが義務付けられているという。
 以前に襲撃を受けた際は、護衛の魔族によって事なきを得たそうだが、娘が怪我でもしていたらと思うとぞっとする思いだった。

 案内された部屋には、大きな魔法陣が描かれていた。
 娘がさらわれたときの魔法陣を思い出し、少し胸がざわつく。
 魔法陣の中に俺たちが入ったのを確認し、少女が短く呪文を唱えた。
 その途端魔法陣が淡く光ったかと思うと、すぐに光は落ち着いた。

 辺りを見渡すと、先程変わらない部屋に見える。
 しかしさっきまで目の前にいた少女の姿はなく、代わりに若い青年が生真面目な顔をして立っていた。
 そして青年が後ろを振り向き、扉を開く。
 その先には、活気のあふれる城下町が広がっていた。
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