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177 特別
案内された庭園は、意外なことに緑で満ち溢れていた。
周囲の荒れ果てた土地とのあまりの違いに、俺たちは目を丸くする。
「見事ですよね」
微笑みながらアリーが言う。
なんでも、この庭園には温度管理と湿度調整の魔法道具が使われており、こうして植物の栽培が可能になっているそうだ。
ちなみに魔王領には特有の毒素が発生しているが、それもこの庭園では浄化されているというのだから感心する。
庭園の浄化は、もともと娘のために開発された技術を流用しているという。
魔王領の毒素は、人間である娘の身体に悪影響を及ぼす。
そのため、転移直後の娘は体調を崩して伏せることが多かったそうだ。
高熱にうなされる娘を見かね、魔王が国宝である宝玉を使い、娘の周囲の毒素を浄化する魔法道具を作成した。
それを見た城の研究者が、人間への毒素の悪影響を取り除けるのであれば、動植物にも効果があるのではないかと実験的に庭園を造ることを計画したという。
「どうりで……聞こえてくるのは、鳥の鳴き声ですか?」
「ええ。魔物ではなく、人間たちの国に生息している鳥の一種です。ほかにも何種類かの動物を飼育しておりますが、そちらは立ち入りが制限されておりまして、ご案内することはできません」
申し訳なさそうにいうアリーに「大丈夫です」と笑みを返す。
そして魔王城にしか咲かないという花のところに案内された。
庭園の中心で、一輪の花が咲き誇っている。
桃色の大振りな花は見事だが、どこか既視感がある。
どこで見たのだろうかと記憶をたどっていると、妻がポツリと何かをつぶやいた。
うまく聞き取れなかった俺が聞き返しても、妻から返事が返ってくることはなかった。
ただ茫然とした顔で、その鮮やかな花を凝視している。
「きれいでしょう?こちらはユノ様がこちらにこられたときに、お持ちになった花なんですよ」
「……え……?」
アリーの言葉に、目を見開く。
娘が転移者であることは、魔王領では周知の事実なのだそうだ。
ある日、魔王領のはずれで、奇妙な魔力が感知された。
強力かつ異質な魔力にただことではないと感じた魔王は、直々にそこへ足を運ぶことを決めたという。
そして魔力をたどった先には、見たこともない衣服を身に着けた人間の少女が倒れていた。
その手に、誰も見たことのない花を握りしめて。
少女は、守られるかのように不思議な膜に包まれていた。
魔王の配下の兵士が何をしようと膜が割れることはなかったが、魔王が指先を触れただけで膜はいとも容易く崩れ去ったという。
「魔王様は少女を保護し、城の中で面倒を見ることにしました。当時は反対意見もあったのですが、すべて魔王様がねじ伏せたそうです」
「どうしてそこまで?」
「詳しくはわかりませんが、魔王様は一目見て、ユノ様が特別な存在なのだとわかったといいます。魔王様の直感は絶対ですので」
きっぱりとアリーが言い切る。
魔王固有の能力なのかはわからないが、魔王の直感は必ず当たると認識されているらしい。
その魔王が「特別」だと称した人間だからこそ、ここまで丁重に扱われることになったようだ。
「そうはいっても、力の弱い人間が高位魔族と同等に扱われることに不満を抱くものも少なくありませんでした。直接ユノ様に危害を加えようとした者も、数え切れません」
「そのときも、魔王様が保護を?」
「ええ、最初のうちは。ただ時が経つにつれ、ユノ様はそのお力を開花されていきました。異世界の知識で技術の発展を促してくださっただけでなく、たぐいまれなる魔力から繰り出される魔法は、高位魔族のそれを凌駕するほどです」
アリーの表情は恍惚としていた。
強いものに惹かれるのが魔族の習性というのであれば、娘は相当の実力者ということになる。
実力と評価を得るまで、どれほどの苦境に立たされてきたことだろう。
魔王の後ろ盾があったとしても、それは決してやさしい道のりではなかったはずだ。
周囲の荒れ果てた土地とのあまりの違いに、俺たちは目を丸くする。
「見事ですよね」
微笑みながらアリーが言う。
なんでも、この庭園には温度管理と湿度調整の魔法道具が使われており、こうして植物の栽培が可能になっているそうだ。
ちなみに魔王領には特有の毒素が発生しているが、それもこの庭園では浄化されているというのだから感心する。
庭園の浄化は、もともと娘のために開発された技術を流用しているという。
魔王領の毒素は、人間である娘の身体に悪影響を及ぼす。
そのため、転移直後の娘は体調を崩して伏せることが多かったそうだ。
高熱にうなされる娘を見かね、魔王が国宝である宝玉を使い、娘の周囲の毒素を浄化する魔法道具を作成した。
それを見た城の研究者が、人間への毒素の悪影響を取り除けるのであれば、動植物にも効果があるのではないかと実験的に庭園を造ることを計画したという。
「どうりで……聞こえてくるのは、鳥の鳴き声ですか?」
「ええ。魔物ではなく、人間たちの国に生息している鳥の一種です。ほかにも何種類かの動物を飼育しておりますが、そちらは立ち入りが制限されておりまして、ご案内することはできません」
申し訳なさそうにいうアリーに「大丈夫です」と笑みを返す。
そして魔王城にしか咲かないという花のところに案内された。
庭園の中心で、一輪の花が咲き誇っている。
桃色の大振りな花は見事だが、どこか既視感がある。
どこで見たのだろうかと記憶をたどっていると、妻がポツリと何かをつぶやいた。
うまく聞き取れなかった俺が聞き返しても、妻から返事が返ってくることはなかった。
ただ茫然とした顔で、その鮮やかな花を凝視している。
「きれいでしょう?こちらはユノ様がこちらにこられたときに、お持ちになった花なんですよ」
「……え……?」
アリーの言葉に、目を見開く。
娘が転移者であることは、魔王領では周知の事実なのだそうだ。
ある日、魔王領のはずれで、奇妙な魔力が感知された。
強力かつ異質な魔力にただことではないと感じた魔王は、直々にそこへ足を運ぶことを決めたという。
そして魔力をたどった先には、見たこともない衣服を身に着けた人間の少女が倒れていた。
その手に、誰も見たことのない花を握りしめて。
少女は、守られるかのように不思議な膜に包まれていた。
魔王の配下の兵士が何をしようと膜が割れることはなかったが、魔王が指先を触れただけで膜はいとも容易く崩れ去ったという。
「魔王様は少女を保護し、城の中で面倒を見ることにしました。当時は反対意見もあったのですが、すべて魔王様がねじ伏せたそうです」
「どうしてそこまで?」
「詳しくはわかりませんが、魔王様は一目見て、ユノ様が特別な存在なのだとわかったといいます。魔王様の直感は絶対ですので」
きっぱりとアリーが言い切る。
魔王固有の能力なのかはわからないが、魔王の直感は必ず当たると認識されているらしい。
その魔王が「特別」だと称した人間だからこそ、ここまで丁重に扱われることになったようだ。
「そうはいっても、力の弱い人間が高位魔族と同等に扱われることに不満を抱くものも少なくありませんでした。直接ユノ様に危害を加えようとした者も、数え切れません」
「そのときも、魔王様が保護を?」
「ええ、最初のうちは。ただ時が経つにつれ、ユノ様はそのお力を開花されていきました。異世界の知識で技術の発展を促してくださっただけでなく、たぐいまれなる魔力から繰り出される魔法は、高位魔族のそれを凌駕するほどです」
アリーの表情は恍惚としていた。
強いものに惹かれるのが魔族の習性というのであれば、娘は相当の実力者ということになる。
実力と評価を得るまで、どれほどの苦境に立たされてきたことだろう。
魔王の後ろ盾があったとしても、それは決してやさしい道のりではなかったはずだ。
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