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207 贖罪
放心している神に、妻はなおも冷淡に続ける。
「あなたは私たちのもとから、勝手に娘を連れ去った。誰の承諾を得ることもなく、当然だとでもいうように。……あなたにも事情があったのは知っているわ。でも、理由があれば何をしても許されるの?行き先を教えてあげる分、私たちのほうがよほど良心的だと思うけど?」
取り付く島もない妻の説得は難しいと悟ったのか、神が訴えるような視線をノアに向ける。
しかしノアはそんな神を一瞥し「理にかなっている」と一言告げただけだった。
神の深い絶望が、その表情からありありと読み取れる。
「アークヴァルドくんは、今娘と二人で話をしているわ。すんなり納得してくれるかどうかはわからないけど、時間をかけて話をすれば、きっと受け入れてくれるでしょうね。愛する人の傍にいられるというのは、それだけ尊いことだから」
『ま、待て……待ってくれ……』
「私たちはあなたとは違うから、一応話だけは通してあげたの。でも、もうあなたには何の用もないわ。さようなら」
そう言って妻が踵を返す。
神は必死になって『待て!』と叫んでいる。
神に背を向けた妻は泣いていた。
その涙は、怒りゆえか悲しみゆえか。
妻一人にここまで言わせてしまったことを反省し、その肩をそっと抱く。
『謝る!謝ればいいんだろう?!』
息を切らして叫ぶ神を見る。
俺は薄暗い怒りを込めた眼差しで神を睨みつけ「そんな軽薄な謝罪はいらない」と切り捨てた。
俺の言葉に神は息を呑んだ。
その瞳はひどく揺れていて、さまざまな感情が彼の中を交錯しているのが読み取れる。
神自身も、自分の感情が把握できないのかもしれない。
はっはっと荒い息を吐きながら、檻に縋りついている。
神の身体は震えていた。
惨めったらしく泣いていた。
そして、小声で何度も何度も許しを請う。
『すまない……本当に申し訳ない、ことをっ……!だが、だが息子は……息子だけは連れて行かないでくれ……。あの子がっ、あの子が何より大事なんだ……っ』
情けない。
そう思いつつも、他人事には思えなかった。
娘がさらわれたときの俺も、きっと同じような顔をしていたはずだから。
父親というのは、子どものためならどうしようもなく情けなくなれる存在なのだ。
妻を見ると、仕方なさそうな顔をして頷いた。
俺はそれを確認してから、神の檻へとゆっくり近づく。
檻の中の神は、崇高な存在でも畏怖すべき存在でもない。
愚かしいほど、ただの父親でしかなかった。
「その後悔を、ずっと忘れないでいてくれ」
俺の言葉に、神はうなだれる。
そうして絶望の底へ落ちた神に向かって続ける。
「彼は、連れて行かない。娘は彼と、この世界で生きていくことを選んだ」
ぱっと顔を上げた神は、心底情けない顔をしていた。
俺は眉間にしわを寄せ、神に訴えた。
「今回の償いとして、二人の幸せを見守ってほしい。この世界の神として、そしてアークヴァルドくんの父親として」
『……そんな……そんなことで、いいのか……?』
「大事なことだ。……俺たちには、もうできないことだから」
俺の言葉に、神は涙をぬぐった。
そして姿勢を正し、深々と頭を下げる。
『此度のこと、本当に申し訳なかった。息子のためと自己を正当化し、そなたたち家族を深く傷つけたこと、心よりお詫びする。この世界で生きてくれると言うのであれば、そなたらの娘が健やかに幸せでいられるようできる限りのことをしよう』
そういった神は、まるで憑き物が落ちたかのような真摯な顔をしていた。
「あなたは私たちのもとから、勝手に娘を連れ去った。誰の承諾を得ることもなく、当然だとでもいうように。……あなたにも事情があったのは知っているわ。でも、理由があれば何をしても許されるの?行き先を教えてあげる分、私たちのほうがよほど良心的だと思うけど?」
取り付く島もない妻の説得は難しいと悟ったのか、神が訴えるような視線をノアに向ける。
しかしノアはそんな神を一瞥し「理にかなっている」と一言告げただけだった。
神の深い絶望が、その表情からありありと読み取れる。
「アークヴァルドくんは、今娘と二人で話をしているわ。すんなり納得してくれるかどうかはわからないけど、時間をかけて話をすれば、きっと受け入れてくれるでしょうね。愛する人の傍にいられるというのは、それだけ尊いことだから」
『ま、待て……待ってくれ……』
「私たちはあなたとは違うから、一応話だけは通してあげたの。でも、もうあなたには何の用もないわ。さようなら」
そう言って妻が踵を返す。
神は必死になって『待て!』と叫んでいる。
神に背を向けた妻は泣いていた。
その涙は、怒りゆえか悲しみゆえか。
妻一人にここまで言わせてしまったことを反省し、その肩をそっと抱く。
『謝る!謝ればいいんだろう?!』
息を切らして叫ぶ神を見る。
俺は薄暗い怒りを込めた眼差しで神を睨みつけ「そんな軽薄な謝罪はいらない」と切り捨てた。
俺の言葉に神は息を呑んだ。
その瞳はひどく揺れていて、さまざまな感情が彼の中を交錯しているのが読み取れる。
神自身も、自分の感情が把握できないのかもしれない。
はっはっと荒い息を吐きながら、檻に縋りついている。
神の身体は震えていた。
惨めったらしく泣いていた。
そして、小声で何度も何度も許しを請う。
『すまない……本当に申し訳ない、ことをっ……!だが、だが息子は……息子だけは連れて行かないでくれ……。あの子がっ、あの子が何より大事なんだ……っ』
情けない。
そう思いつつも、他人事には思えなかった。
娘がさらわれたときの俺も、きっと同じような顔をしていたはずだから。
父親というのは、子どものためならどうしようもなく情けなくなれる存在なのだ。
妻を見ると、仕方なさそうな顔をして頷いた。
俺はそれを確認してから、神の檻へとゆっくり近づく。
檻の中の神は、崇高な存在でも畏怖すべき存在でもない。
愚かしいほど、ただの父親でしかなかった。
「その後悔を、ずっと忘れないでいてくれ」
俺の言葉に、神はうなだれる。
そうして絶望の底へ落ちた神に向かって続ける。
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俺は眉間にしわを寄せ、神に訴えた。
「今回の償いとして、二人の幸せを見守ってほしい。この世界の神として、そしてアークヴァルドくんの父親として」
『……そんな……そんなことで、いいのか……?』
「大事なことだ。……俺たちには、もうできないことだから」
俺の言葉に、神は涙をぬぐった。
そして姿勢を正し、深々と頭を下げる。
『此度のこと、本当に申し訳なかった。息子のためと自己を正当化し、そなたたち家族を深く傷つけたこと、心よりお詫びする。この世界で生きてくれると言うのであれば、そなたらの娘が健やかに幸せでいられるようできる限りのことをしよう』
そういった神は、まるで憑き物が落ちたかのような真摯な顔をしていた。
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