254 / 266
231 深刻
しおりを挟む
護衛騎士は医師を引き連れ、すぐに戻ってきた。
神とサーシャもいっしょだ。
魔王にも使いを出したから、間もなく駆けつけるだろうとサーシャが言う。
脂汗をかきながら痛みに耐える娘を見て、すぐに医師が診察を開始した。
俺たちはいったん部屋の外に出され、娘の部屋には医師と神だけが残る。
そのまましばらく待っていると、慌てた様子で魔王がやってきて、開口一番「ユノは?!」と声を荒げた。
診察中だと聞いても落ち着かない様子で、部屋の前を行ったり来たりして、サーシャに窘められる。
そしてようやく俺と妻がこの場にいることに気づいたらしく「どうしてここに」と目を丸くした。
「コトラが知らせに来てくれたんだ」
「コトラが?」
「ああ。急に扉がつながったと思ったらコトラが出てきてな。不審に思って様子を窺ったら、柚乃が苦しんでいて」
「そんな……誰も気づかなかったとは、申し訳ない」
「いや、痛みで助けを求めることもできなかったらしい。気づかなかったことを責めるつもりはない」
魔王はそれでも、悔し気に眉間にしわを寄せている。
そんな中、震える声で娘の護衛騎士が「申し訳ございません」と謝罪を口にした。
「すぐに異変に気付くべきでしたのに、小用で持ち場を離れてしまいました……!」
「……なんだと?」
拳を握りしめ、絞り出すように言う護衛騎士を、魔王が鋭い眼光で睨みつける。
しかし魔王が次の言葉を口にする前に、娘の部屋の扉が開き、暗い顔をした神が顔を出した。
促されるまま部屋に入ると、娘はベッドの上で眠っていた。
しかし顔色は依然思わしくない。
「ユノ様は、麻酔効果のある薬草を使って眠っています。しかし、非常に危険な状態です」
重い口調で医師が告げる。
そして神が続けて『胎盤が剝がれかけているのだ』と言った。
「胎盤?」
『子宮内になる、母体と胎児をつなぐ器官だ』
「えっと……」
正直俺には、胎盤が剥がれそうになっている状態がどう危険なのかよくわからなかった。
しかし、ふと視線を向けた妻の横顔は真っ青になって震えている。
その表情を見て、より事態の深刻さを実感して血の気が引いた。
『とにかく、一刻も早く処置をしなくてはならない』
「処置というのは……」
『少しでも早く胎児を母体から取り出す必要がある』
「まさか……」
神の言葉の意図を察して、俺は拳を握る。
神は頷き『今から帝王切開を執り行う』と告げた。
「テイオウセッカイ?」
聞きなれない言葉なのか、魔王とサーシャたちが首を傾げる。
少なくとも、魔族の間では一般的でないのだろう。
『簡単に言うと、腹を切って胎児を取り出す手術だ』
神が告げると、魔王が「腹を?!」と声を上げる。
「そんなことをしたら、ユノが死んでしまう!父上は、ユノよりも子の命を優先するというのか!!」
怒りと落胆のまじりあった瞳で、魔王が神を非難する。
しかし神は首を横に振り『そうではない』と冷静に続けた。
『帝王切開は、人間の間では珍しくない出産方法だ。この世界でも、ユノの故郷でも』
「しかし……!」
『普通の出産よりもリスクはあるが、このまま放置する方が、母子ともに命を落とす可能性が高まる』
「……そ、その胎盤とやらを、再びくっつければ……」
『そんなことをしたら、ユノや胎児にどんな影響が出るかわからない』
きっぱりと言い切った神に、魔王はまだ何か言おうとしていたが言葉にならなかった。
俺は妻の震える肩をそっと抱いて、神と医師に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
妻も同様に、俺の隣でうつむくように頭を下げている。
「イツキ殿……」
魔王は泣き出しそうな顔をしていた。
俺も泣きたくなったが、ぐっとこらえて「覚悟を決めろ」と魔王の背中をバシッと叩く。
魔王は唇を嚙みながら、それでも確かに頷いた。
神とサーシャもいっしょだ。
魔王にも使いを出したから、間もなく駆けつけるだろうとサーシャが言う。
脂汗をかきながら痛みに耐える娘を見て、すぐに医師が診察を開始した。
俺たちはいったん部屋の外に出され、娘の部屋には医師と神だけが残る。
そのまましばらく待っていると、慌てた様子で魔王がやってきて、開口一番「ユノは?!」と声を荒げた。
診察中だと聞いても落ち着かない様子で、部屋の前を行ったり来たりして、サーシャに窘められる。
そしてようやく俺と妻がこの場にいることに気づいたらしく「どうしてここに」と目を丸くした。
「コトラが知らせに来てくれたんだ」
「コトラが?」
「ああ。急に扉がつながったと思ったらコトラが出てきてな。不審に思って様子を窺ったら、柚乃が苦しんでいて」
「そんな……誰も気づかなかったとは、申し訳ない」
「いや、痛みで助けを求めることもできなかったらしい。気づかなかったことを責めるつもりはない」
魔王はそれでも、悔し気に眉間にしわを寄せている。
そんな中、震える声で娘の護衛騎士が「申し訳ございません」と謝罪を口にした。
「すぐに異変に気付くべきでしたのに、小用で持ち場を離れてしまいました……!」
「……なんだと?」
拳を握りしめ、絞り出すように言う護衛騎士を、魔王が鋭い眼光で睨みつける。
しかし魔王が次の言葉を口にする前に、娘の部屋の扉が開き、暗い顔をした神が顔を出した。
促されるまま部屋に入ると、娘はベッドの上で眠っていた。
しかし顔色は依然思わしくない。
「ユノ様は、麻酔効果のある薬草を使って眠っています。しかし、非常に危険な状態です」
重い口調で医師が告げる。
そして神が続けて『胎盤が剝がれかけているのだ』と言った。
「胎盤?」
『子宮内になる、母体と胎児をつなぐ器官だ』
「えっと……」
正直俺には、胎盤が剥がれそうになっている状態がどう危険なのかよくわからなかった。
しかし、ふと視線を向けた妻の横顔は真っ青になって震えている。
その表情を見て、より事態の深刻さを実感して血の気が引いた。
『とにかく、一刻も早く処置をしなくてはならない』
「処置というのは……」
『少しでも早く胎児を母体から取り出す必要がある』
「まさか……」
神の言葉の意図を察して、俺は拳を握る。
神は頷き『今から帝王切開を執り行う』と告げた。
「テイオウセッカイ?」
聞きなれない言葉なのか、魔王とサーシャたちが首を傾げる。
少なくとも、魔族の間では一般的でないのだろう。
『簡単に言うと、腹を切って胎児を取り出す手術だ』
神が告げると、魔王が「腹を?!」と声を上げる。
「そんなことをしたら、ユノが死んでしまう!父上は、ユノよりも子の命を優先するというのか!!」
怒りと落胆のまじりあった瞳で、魔王が神を非難する。
しかし神は首を横に振り『そうではない』と冷静に続けた。
『帝王切開は、人間の間では珍しくない出産方法だ。この世界でも、ユノの故郷でも』
「しかし……!」
『普通の出産よりもリスクはあるが、このまま放置する方が、母子ともに命を落とす可能性が高まる』
「……そ、その胎盤とやらを、再びくっつければ……」
『そんなことをしたら、ユノや胎児にどんな影響が出るかわからない』
きっぱりと言い切った神に、魔王はまだ何か言おうとしていたが言葉にならなかった。
俺は妻の震える肩をそっと抱いて、神と医師に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
妻も同様に、俺の隣でうつむくように頭を下げている。
「イツキ殿……」
魔王は泣き出しそうな顔をしていた。
俺も泣きたくなったが、ぐっとこらえて「覚悟を決めろ」と魔王の背中をバシッと叩く。
魔王は唇を嚙みながら、それでも確かに頷いた。
22
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる