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234 号泣
「柚乃っ!」
咄嗟に名前を呼ぶと、娘の視線がこちらを向く。
そして「なんて顔してるの」と力なく笑った。
そんな娘の隣に、助手が赤ん坊をそっと置く。
娘は目に涙を浮かべて、赤ん坊にそっと手を伸ばした。
「……ちゃんと、生まれてきてくれたんだ。……かわいい……」
「ええ、本当にお可愛らしい姫様ですね」
医師がそう言うと、娘は震える声で「ありがとうございます……」と返した。
そして魔王を呼ぶ。
「アーク、抱っこしてあげて」
魔王は娘の言うまま赤ん坊に手を伸ばしたが、どうやって抱いたらいいのかわからないのだろう。
あれこれと手の向きや姿勢を変えて試行錯誤するものの、触れられないままでいる。
それを見たサーシャが呆れたように笑い、横からサッと赤ん坊を抱きかかえた。
そしてそのまま魔王の腕に赤ん坊を乗せる。
魔王は壊れ物を急に渡されたかのようにあわあわしていたが、ようやくしっくりくる抱き方を見つけたのか、赤ん坊を見て嬉しそうに目を細めた。
その後は産後の処置があるとかで、妻以外は部屋を追い出されてしまった。
魔王は赤ん坊を抱いた感触がまだ残っているらしく、両手を見つめて何とも幸せそうな顔をしている。
「名前は?もう考えているのか?」
俺が訊ねると、魔王はコクリと頷いた。
しかし、まだ教えてくれるつもりはないらしい。
「その話はまたあとで、ユノとシオリ殿も含めて」
そう言われてしまっては、引き下がることもできない。
俺は「楽しみにしとくよ」と答え、扉の奥から聞こえてくる妻と娘の笑い声、そして赤ん坊の元気な声に耳を傾けていた。
※
しばらくして、妻が部屋から出てきた。
娘は疲れからまた眠ってしまったらしく、赤ん坊の世話を頼まれたといって、その腕に抱いている。
それを見ていると、ついうずうずしてくる。
「抱っこしたくてたまらないって、顔に書いてあるわよ」
おかしそうに妻が言う。
俺は慌てて「仕方ないだろ!」と答えた。
「初孫だぞ、初孫!抱っこしたいに決まってるだろ。……でも、勝手に抱っこするわけにもいかないし……」
「すればよいではないか?」
遠慮する俺の気持ちが理解できないのか、魔王もサーシャも首を傾げる。
思わず「いいのか?!」と手を伸ばしそうになるが、まだ娘の許可も得ていないからと手を引っ込めて我慢した。
魔王とサーシャは「律儀な」と言いつつも呆れ顔だ。
妻はそんな俺を見て大笑いしながら「大丈夫よ」と言った。
「あなたならそんな風に変な遠慮するだろうから、ちゃんと柚乃に許可を取っておいたわよ。あの子も、変なのって笑ってたんだから」
「そ、そうなのか……?」
両親の許可を得たとなれば、もはや躊躇いはない。
妻の腕で心地よさそうにしている赤ん坊に、そっと手を伸ばす。
しかし俺の腕が硬かったのか、急に抱っこする人間が変わってびっくりしたのか、俺が抱いた瞬間、赤ん坊が泣き出してしまった。
魔王は「大丈夫か?!」と慌てていたが、俺はゆっくりと体を揺らしながら「大丈夫、大丈夫」と答える。
しばらく揺れていると赤ん坊は落ち着いてきたのか、俺に抱かれたまま寝息を立て始めた。
その姿を見ていると、娘の生まれた日が思い出される。
あのときも、俺が抱いたら娘が急に泣き出してしまったっけ。
当時の俺はまだ赤ん坊を抱っこした経験がなくて、焦って助産師に助けを求めたのだった。
ふにゃふにゃと頼りない赤ん坊の身体はまるで軟体動物のようで、俺が一生守ってやらなきゃと固く誓ったのだ。
それが今や、俺の手を離れ、異世界で母になった。
もうだめだ。
そう思ったときには、もう遅かった。
「……うぅ……うっ……」
感極まって溢れた涙はとどまることなく、次から次へと零れていく。
全力で号泣する俺をみて、妻とサーシャが大きな笑い声をあげた。
「ちょっとあなた、柚乃が生まれたときもそんな風に泣いてたじゃない!」
「うちの旦那もアークが生まれたとき、そんなだったぞ!まったく……ん?!」
「あら~」
クスクスと女性陣が笑い続ける。
何事かと思えば、俺と同じくらいの勢いで神が号泣していた。
神様も鼻水垂らすんだな、なんて思ったら、なんだかおかしくなってきて、俺もいっしょになって笑ってしまったのだった。
咄嗟に名前を呼ぶと、娘の視線がこちらを向く。
そして「なんて顔してるの」と力なく笑った。
そんな娘の隣に、助手が赤ん坊をそっと置く。
娘は目に涙を浮かべて、赤ん坊にそっと手を伸ばした。
「……ちゃんと、生まれてきてくれたんだ。……かわいい……」
「ええ、本当にお可愛らしい姫様ですね」
医師がそう言うと、娘は震える声で「ありがとうございます……」と返した。
そして魔王を呼ぶ。
「アーク、抱っこしてあげて」
魔王は娘の言うまま赤ん坊に手を伸ばしたが、どうやって抱いたらいいのかわからないのだろう。
あれこれと手の向きや姿勢を変えて試行錯誤するものの、触れられないままでいる。
それを見たサーシャが呆れたように笑い、横からサッと赤ん坊を抱きかかえた。
そしてそのまま魔王の腕に赤ん坊を乗せる。
魔王は壊れ物を急に渡されたかのようにあわあわしていたが、ようやくしっくりくる抱き方を見つけたのか、赤ん坊を見て嬉しそうに目を細めた。
その後は産後の処置があるとかで、妻以外は部屋を追い出されてしまった。
魔王は赤ん坊を抱いた感触がまだ残っているらしく、両手を見つめて何とも幸せそうな顔をしている。
「名前は?もう考えているのか?」
俺が訊ねると、魔王はコクリと頷いた。
しかし、まだ教えてくれるつもりはないらしい。
「その話はまたあとで、ユノとシオリ殿も含めて」
そう言われてしまっては、引き下がることもできない。
俺は「楽しみにしとくよ」と答え、扉の奥から聞こえてくる妻と娘の笑い声、そして赤ん坊の元気な声に耳を傾けていた。
※
しばらくして、妻が部屋から出てきた。
娘は疲れからまた眠ってしまったらしく、赤ん坊の世話を頼まれたといって、その腕に抱いている。
それを見ていると、ついうずうずしてくる。
「抱っこしたくてたまらないって、顔に書いてあるわよ」
おかしそうに妻が言う。
俺は慌てて「仕方ないだろ!」と答えた。
「初孫だぞ、初孫!抱っこしたいに決まってるだろ。……でも、勝手に抱っこするわけにもいかないし……」
「すればよいではないか?」
遠慮する俺の気持ちが理解できないのか、魔王もサーシャも首を傾げる。
思わず「いいのか?!」と手を伸ばしそうになるが、まだ娘の許可も得ていないからと手を引っ込めて我慢した。
魔王とサーシャは「律儀な」と言いつつも呆れ顔だ。
妻はそんな俺を見て大笑いしながら「大丈夫よ」と言った。
「あなたならそんな風に変な遠慮するだろうから、ちゃんと柚乃に許可を取っておいたわよ。あの子も、変なのって笑ってたんだから」
「そ、そうなのか……?」
両親の許可を得たとなれば、もはや躊躇いはない。
妻の腕で心地よさそうにしている赤ん坊に、そっと手を伸ばす。
しかし俺の腕が硬かったのか、急に抱っこする人間が変わってびっくりしたのか、俺が抱いた瞬間、赤ん坊が泣き出してしまった。
魔王は「大丈夫か?!」と慌てていたが、俺はゆっくりと体を揺らしながら「大丈夫、大丈夫」と答える。
しばらく揺れていると赤ん坊は落ち着いてきたのか、俺に抱かれたまま寝息を立て始めた。
その姿を見ていると、娘の生まれた日が思い出される。
あのときも、俺が抱いたら娘が急に泣き出してしまったっけ。
当時の俺はまだ赤ん坊を抱っこした経験がなくて、焦って助産師に助けを求めたのだった。
ふにゃふにゃと頼りない赤ん坊の身体はまるで軟体動物のようで、俺が一生守ってやらなきゃと固く誓ったのだ。
それが今や、俺の手を離れ、異世界で母になった。
もうだめだ。
そう思ったときには、もう遅かった。
「……うぅ……うっ……」
感極まって溢れた涙はとどまることなく、次から次へと零れていく。
全力で号泣する俺をみて、妻とサーシャが大きな笑い声をあげた。
「ちょっとあなた、柚乃が生まれたときもそんな風に泣いてたじゃない!」
「うちの旦那もアークが生まれたとき、そんなだったぞ!まったく……ん?!」
「あら~」
クスクスと女性陣が笑い続ける。
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