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エピローグ(2)バージンロード
魔族の結婚式も、日本のものとさほど変わらない。
ただ、結婚の誓いを立てる相手は神ではなく、参列者たちに対してらしい。
日本の人前式のようなものなのだろうが、神が新郎の父親として参列しているから、なんだか不思議な感じがする。
式場は厳かな雰囲気だが、バージンロードという概念はないという。
双方の世界の結婚式の風習について話をしているときに、バージンロードの話をしたらサーシャに興味を持たれ、今回の式に導入することになった。
娘には結婚してほしくないと思いつつも、娘と歩くバージンロードには憧れるという矛盾した考えを持っていた俺は、バージンロードを歩けることに感動した。
しかし嬉しかったのは最初だけ。
国のトップの結婚を祝うため、多くのお偉いさんたちが集まると聞かされれば、気の小さい俺は緊張で頭がいっぱいになってしまったのだ。
式のリハーサルでは、緊張しすぎてうっかり転びそうになったり、娘のドレスの裾を踏まないように気にしすぎて止まる位置を間違えそうになったりと散々だった。
妻も娘も「本当、気が小さいんだから」と呆れていたが「神様や魔王相手にあれだけ啖呵切れるなら大丈夫」と慰められて、ちょっと勇気が出た。
「伊月くんったら、真っ青じゃん」
ケラケラとノアが笑う。
義母も俺の背中をポンポンと叩いて「主役は柚乃たちなんだから」と軽口を叩いた。
そうはいっても、もう式の直前。
緊張するなという方が無理があるだろう。
「失礼いたします。そろそろご準備を」
そう促され、俺は深く深呼吸をする。
式場前の扉には俺と妻、そして娘と数人の使用人だけで向かう。
新郎である魔王は会場内で花嫁を待つものだし、ほかは参列者用の席へ行ってしまった。
目の前で、妻が娘にヴェールを被せる。
俺はぼんやりとその光景を眺めながら、感極まってきてしまった。
上を向いて何とか涙をこらえていると、笑いをかみ殺すような声が聞こえてきた。
声の主はどうやら、アリーのようだ。
魔王城で受付嬢として働いているアリーは、城内の警備も担当して言える上級魔族だ。
散々お世話になったこともあり、俺たちの事情をよくわかっているからと、今回式の手伝いも買って出てくれた。
「イツキ様、頑張ってくださいね」
文句の一つも言おうかと思ったが、そう微笑まれてしまっては何も言えない。
俺は気合を入れるように、スーツの襟を正した。
「いってらっしゃい」
妻がそう言って背中を押すと、娘は泣き出しそうな顔で笑った。
そしてそっと、俺の腕に手を添える。
「……行こうか」
「うん。……転ばないように気をつけてよ?」
「こっ、転ぶわけないだろ!……多分」
そう言って家族で笑い合う。
まっすぐに目の前の扉を見据えていると、ゆっくりと扉が開いた。
荘厳な楽器の演奏と、鳴り響く大勢の拍手。
俺は娘といっしょに一礼し、一歩また一歩とゆっくり歩みを進める。
さっきまで緊張で頭がいっぱいだったのに、今この場に立ってみるとそんなことは吹き飛んでしまった。
ただ、娘の巣立ちを誇らしくも寂しく思う。
泣きたい気持ちをぐっと堪えて、娘の手をそっと魔王に握らせる。
父親の役割はここまで。
これから先は、娘が選んだ相手とともに歩んでいくのだ。
魔王の手を取って進む娘の後ろ姿を見送りながら、俺は娘の幸せを心の底から祈っていた。
ただ、結婚の誓いを立てる相手は神ではなく、参列者たちに対してらしい。
日本の人前式のようなものなのだろうが、神が新郎の父親として参列しているから、なんだか不思議な感じがする。
式場は厳かな雰囲気だが、バージンロードという概念はないという。
双方の世界の結婚式の風習について話をしているときに、バージンロードの話をしたらサーシャに興味を持たれ、今回の式に導入することになった。
娘には結婚してほしくないと思いつつも、娘と歩くバージンロードには憧れるという矛盾した考えを持っていた俺は、バージンロードを歩けることに感動した。
しかし嬉しかったのは最初だけ。
国のトップの結婚を祝うため、多くのお偉いさんたちが集まると聞かされれば、気の小さい俺は緊張で頭がいっぱいになってしまったのだ。
式のリハーサルでは、緊張しすぎてうっかり転びそうになったり、娘のドレスの裾を踏まないように気にしすぎて止まる位置を間違えそうになったりと散々だった。
妻も娘も「本当、気が小さいんだから」と呆れていたが「神様や魔王相手にあれだけ啖呵切れるなら大丈夫」と慰められて、ちょっと勇気が出た。
「伊月くんったら、真っ青じゃん」
ケラケラとノアが笑う。
義母も俺の背中をポンポンと叩いて「主役は柚乃たちなんだから」と軽口を叩いた。
そうはいっても、もう式の直前。
緊張するなという方が無理があるだろう。
「失礼いたします。そろそろご準備を」
そう促され、俺は深く深呼吸をする。
式場前の扉には俺と妻、そして娘と数人の使用人だけで向かう。
新郎である魔王は会場内で花嫁を待つものだし、ほかは参列者用の席へ行ってしまった。
目の前で、妻が娘にヴェールを被せる。
俺はぼんやりとその光景を眺めながら、感極まってきてしまった。
上を向いて何とか涙をこらえていると、笑いをかみ殺すような声が聞こえてきた。
声の主はどうやら、アリーのようだ。
魔王城で受付嬢として働いているアリーは、城内の警備も担当して言える上級魔族だ。
散々お世話になったこともあり、俺たちの事情をよくわかっているからと、今回式の手伝いも買って出てくれた。
「イツキ様、頑張ってくださいね」
文句の一つも言おうかと思ったが、そう微笑まれてしまっては何も言えない。
俺は気合を入れるように、スーツの襟を正した。
「いってらっしゃい」
妻がそう言って背中を押すと、娘は泣き出しそうな顔で笑った。
そしてそっと、俺の腕に手を添える。
「……行こうか」
「うん。……転ばないように気をつけてよ?」
「こっ、転ぶわけないだろ!……多分」
そう言って家族で笑い合う。
まっすぐに目の前の扉を見据えていると、ゆっくりと扉が開いた。
荘厳な楽器の演奏と、鳴り響く大勢の拍手。
俺は娘といっしょに一礼し、一歩また一歩とゆっくり歩みを進める。
さっきまで緊張で頭がいっぱいだったのに、今この場に立ってみるとそんなことは吹き飛んでしまった。
ただ、娘の巣立ちを誇らしくも寂しく思う。
泣きたい気持ちをぐっと堪えて、娘の手をそっと魔王に握らせる。
父親の役割はここまで。
これから先は、娘が選んだ相手とともに歩んでいくのだ。
魔王の手を取って進む娘の後ろ姿を見送りながら、俺は娘の幸せを心の底から祈っていた。
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