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エピローグ(3)今日も父は異世界に渡る
その後の式は滞りなく行われ、次はパレードからの披露宴だ。
このまま娘と魔王は式場から魔王城へ続くゲートまで続く道で、民衆へのお披露目もかねてパレードをするそうだ。
俺たちはそのパレードのずいぶんと良い席に座らされることになり、全力で遠慮したが、押し切られてしまった。
義母も妻も青い顔をしているが、サーシャは「気楽に、気楽に」と何の解決にもならないアドバイスをしてくる。
高位魔族の結婚式では、領地内で親族を含めてパレードを行うのが通例らしい。
民衆からの歓声に応えて手を振る魔王と娘は、様になっている。
「……すごいな」
ぽつりとつぶやくと、妻と義母にも同意された。
こうして堂々としている娘は、俺の知る娘とはまるで別人のようだ。
「ま、慣れだろうな」
サーシャも優雅に民衆に手を振りながら、そういった。
「そういうものですか……」
「ああ。ユノは功績も多く、こうして人前に立つことも多かったはずだ。だから自然と慣れていったんだろう」
「なるほど……」
「そなたらの功績も大きい。これとは別に褒章パレードを開こうか?」
「……絶対に嫌です」
サーシャは答えがわかっていたらしく「だろうな」と豪快に笑い声をあげた。
その横で神は居心地悪そうに、俺たちの様子を窺っている。
そんな神の脇腹を、サーシャが肘で小突く。
「ハレの席で辛気臭い顔をするな」
『だが、俺がいると……』
「同席を許してくれたのは、彼らだろう。そんな顔をしていると、許可したのを後悔されるぞ」
『……それは困る……』
今回結婚式を挙げるにあたって、初めは神の参列は予定されていなかった。
それが俺たちへの配慮の結果だということは、理由を聞かなくてもわかった。
正直、対立していたときの神の所業は今でも許せるものではない。
命を狙われていた当時を思い出すと、今でも背筋が冷たくなる。
それでも、俺も妻もためらうことなく、神を参列させてほしいと魔王とサーシャに頼んだのだ。
無理しなくてもいいと言われたが、両親が健在なのにそろって出席してもらえなかった結婚式というのは、娘にとって悔いを残すものになるかもしれない。
娘が神の参列を拒むのであればまだしも、そうでないのなら、みんなでお祝いしてあげるのが筋だろう。
娘も交えて話をすると、娘も神の参列を望んだ。
神の愛情深さを実感しているからこそ、息子の晴れ舞台にはともにいてほしいと。
ただ義母が不安に感じるのではないかという心配はあった。
しかし義母も、意外にあっさりと神の参列に賛同してくれた。
大丈夫なのかと問うと「それはそれ、これはこれ」となんともさっぱりとした返事が返ってきた。
「披露宴では、多くの高位魔族に声を掛けられるだろうから、覚悟していてくれ」
「ええ……俺、ただの人間なのに?」
「ははは、神と魔王と対等に渡り合う人間だぞ?興味をひかないわけがない」
「……怖いな……」
「大丈夫。そなたたちに何かしようという輩がいたら、私が成敗してくれる」
そう言い切ったサーシャに頼もしさを感じつつも、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、勇者ってどうなったんですか?」
「勇者……?」
「ほら、サーシャさんが捕まえてきた人間の……」
サーシャはしばらく首をひねって考え込んでいた。
まったく記憶に残っていないらしい勇者を、若干不憫に思う。
そしてしばらくの間のあと「……ああ、あれか!」とようやくサーシャは思い出してくれたらしい。
「あやつらなら、祖国に送り返されたそうだぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。ただ聖剣は戦利品として没収の上、魔属領への立ち入り禁止令も出たがな」
「立ち入り禁止令?」
魔族領で好き勝手暴れた罰として、今後無断で魔族領へ立ち入らないことを約束させたらしい。
約束を違えて魔族領に侵入した場合、命の保証はしないという脅しである。
ただ、サーシャとの交戦で圧倒的な戦力差を実感したらしく、再び乗り込んでくるような気概は感じられなかったらしいが。
「あのような小物、私としてはどうでもよかったが、アークが怒ってな」
「そうなんですか?」
意外に思って、首を傾げる。
勇者では魔王には手も足も出ないはずだ。
そんな相手に対して、魔王が怒りを示すとは思えなかった。
「魔王城の地下牢に投獄しているときに、ユノが話をしに行ったらしいんだ。これから魔族と人間のあいだで友好的な関係を築けないかと。……だが、無下にされただけでなく、人類の敵だの裏切り者だのと口汚く罵られてしまったようでな。話を聞いたアークの逆鱗に触れたのだ」
「……それは……」
「ま、アークが怒らなければ私が何をしていたかわからない。そう考えると、相手がアークで命拾いしたな」
にっと笑うサーシャに恐ろしさを感じつつも、娘が大事にされている現状に俺は頬を緩める。
パレードももう残り僅か。
遠くに見える魔王城へ続くゲートを眺めて、俺は胸を撫で下ろした。
城に戻ると、かわいい孫がコトラといっしょにお出迎えしてくれた。
生まれてから半年ほどが経った孫は、すくすくと成長している。
魔族は人間よりも成長が早いらしく、もう歩き始めているから驚きだ。
結婚式には孫も参列させようかと話していたが、長丁場になると負担が大きいだろうと、披露宴だけ参加させることになった。
娘は孫に挨拶を済ませたあと、すぐに魔王とともに着替えに行ってしまう。
披露宴ではまた違うドレスを身に着けるらしく、忙しそうだ。
よちよち歩きで俺に手を伸ばしてくる孫を抱き上げた。
孫は俺のネクタイが気になるようで、興味津々といった顔をして引っ張っている。
孫が生まれることでコトラが焼きもちを焼かないか心配していたが、良いお兄ちゃんとして孫のお世話に尽力してくれているらしい。
コトラは久々に妻の腕に抱かれ、満足そうに喉を鳴らしていた。
「大きくなったわねぇ」
「目元は柚乃に似てるわね」
妻と義母がそんなことを言いながら、孫を眺めていた。
それでいて、コトラを撫でまわす手を止めないあたりが妻らしい。
披露宴までまだ時間はある。
少し散歩でもしようと、孫の手を引いて庭園を歩くことにした。
自分で歩きたがる孫を腕から降ろし、その手をつなぐ。
なんとも小さく、頼りない手だ。
娘もこんな風に、小さな手をしていた。
そしてこんな風に、手を繋いでいろんなところに出かけた。
「今日は、いい日だな……」
ポツリと俺がつぶやくと、妻が「そうね」と微笑む。
こんな幸せな日が訪れたことに感謝しながら、俺は目を細めた。
※
俺はスマホの画面をぼんやりと眺めながら、数年前の娘の結婚式の日のことを思い出していた。
画面の中には、当時の新郎新婦とその家族が幸せそうに笑っている。
今日は娘のもとに遊びに行く約束をしている日だ。
会うごとにどんどん成長している孫はまた大きくなっただろうと、浮足立って考える。
妻もせっせと娘の好物を作り置きしていて、その表情は生き生きしている。
晴れて夫婦となった娘と魔王はなんだかんだと忙しいようで、負担をかけないよう月に1度を目安に会う約束をしている。
孫が魔力のコントロールをうまくできるようになったら、こっちの世界にも遊びにきてもらう予定だ。
遠くない未来を想像して、俺は思わずにやける。
娘がさらわれたあの日は絶望しかなかったが、今となってはこれも運命だったのだと思える。
あの日がなければ、ほかの転移者に出会うことも、孫が生まれることもなかったのだと。
「そろそろ準備できたか?」
俺が問いかけると、妻は「もうちょっと」とタッパーのふたを閉めている。
俺はその様子を眺めながら、幸せをかみしめていた。
「お待たせ!行きましょうか」
妻が紙袋一杯に詰めた惣菜たちを受け取って、俺は鍵を窓にかざした。
見慣れた白い扉は、今日も美しい。
コンコンとノックをすると、扉がゆっくりと開いた。
扉の先から顔を出した娘と孫に、俺たちも笑みを返す。
そして、愛する娘と孫に会うため、今日も俺は異世界に渡る。
( 完 )
-----------------------------------------------
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今回をもちまして、本編は完結となります。
明日からはもう少し特別編が続きますので、そちらもお付き合いいただけますと幸いです。
ここまで連載を続けてこられたのは、ひとえに読者の皆様の応援のおかげです。
本当にありがとうございました!
このまま娘と魔王は式場から魔王城へ続くゲートまで続く道で、民衆へのお披露目もかねてパレードをするそうだ。
俺たちはそのパレードのずいぶんと良い席に座らされることになり、全力で遠慮したが、押し切られてしまった。
義母も妻も青い顔をしているが、サーシャは「気楽に、気楽に」と何の解決にもならないアドバイスをしてくる。
高位魔族の結婚式では、領地内で親族を含めてパレードを行うのが通例らしい。
民衆からの歓声に応えて手を振る魔王と娘は、様になっている。
「……すごいな」
ぽつりとつぶやくと、妻と義母にも同意された。
こうして堂々としている娘は、俺の知る娘とはまるで別人のようだ。
「ま、慣れだろうな」
サーシャも優雅に民衆に手を振りながら、そういった。
「そういうものですか……」
「ああ。ユノは功績も多く、こうして人前に立つことも多かったはずだ。だから自然と慣れていったんだろう」
「なるほど……」
「そなたらの功績も大きい。これとは別に褒章パレードを開こうか?」
「……絶対に嫌です」
サーシャは答えがわかっていたらしく「だろうな」と豪快に笑い声をあげた。
その横で神は居心地悪そうに、俺たちの様子を窺っている。
そんな神の脇腹を、サーシャが肘で小突く。
「ハレの席で辛気臭い顔をするな」
『だが、俺がいると……』
「同席を許してくれたのは、彼らだろう。そんな顔をしていると、許可したのを後悔されるぞ」
『……それは困る……』
今回結婚式を挙げるにあたって、初めは神の参列は予定されていなかった。
それが俺たちへの配慮の結果だということは、理由を聞かなくてもわかった。
正直、対立していたときの神の所業は今でも許せるものではない。
命を狙われていた当時を思い出すと、今でも背筋が冷たくなる。
それでも、俺も妻もためらうことなく、神を参列させてほしいと魔王とサーシャに頼んだのだ。
無理しなくてもいいと言われたが、両親が健在なのにそろって出席してもらえなかった結婚式というのは、娘にとって悔いを残すものになるかもしれない。
娘が神の参列を拒むのであればまだしも、そうでないのなら、みんなでお祝いしてあげるのが筋だろう。
娘も交えて話をすると、娘も神の参列を望んだ。
神の愛情深さを実感しているからこそ、息子の晴れ舞台にはともにいてほしいと。
ただ義母が不安に感じるのではないかという心配はあった。
しかし義母も、意外にあっさりと神の参列に賛同してくれた。
大丈夫なのかと問うと「それはそれ、これはこれ」となんともさっぱりとした返事が返ってきた。
「披露宴では、多くの高位魔族に声を掛けられるだろうから、覚悟していてくれ」
「ええ……俺、ただの人間なのに?」
「ははは、神と魔王と対等に渡り合う人間だぞ?興味をひかないわけがない」
「……怖いな……」
「大丈夫。そなたたちに何かしようという輩がいたら、私が成敗してくれる」
そう言い切ったサーシャに頼もしさを感じつつも、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、勇者ってどうなったんですか?」
「勇者……?」
「ほら、サーシャさんが捕まえてきた人間の……」
サーシャはしばらく首をひねって考え込んでいた。
まったく記憶に残っていないらしい勇者を、若干不憫に思う。
そしてしばらくの間のあと「……ああ、あれか!」とようやくサーシャは思い出してくれたらしい。
「あやつらなら、祖国に送り返されたそうだぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。ただ聖剣は戦利品として没収の上、魔属領への立ち入り禁止令も出たがな」
「立ち入り禁止令?」
魔族領で好き勝手暴れた罰として、今後無断で魔族領へ立ち入らないことを約束させたらしい。
約束を違えて魔族領に侵入した場合、命の保証はしないという脅しである。
ただ、サーシャとの交戦で圧倒的な戦力差を実感したらしく、再び乗り込んでくるような気概は感じられなかったらしいが。
「あのような小物、私としてはどうでもよかったが、アークが怒ってな」
「そうなんですか?」
意外に思って、首を傾げる。
勇者では魔王には手も足も出ないはずだ。
そんな相手に対して、魔王が怒りを示すとは思えなかった。
「魔王城の地下牢に投獄しているときに、ユノが話をしに行ったらしいんだ。これから魔族と人間のあいだで友好的な関係を築けないかと。……だが、無下にされただけでなく、人類の敵だの裏切り者だのと口汚く罵られてしまったようでな。話を聞いたアークの逆鱗に触れたのだ」
「……それは……」
「ま、アークが怒らなければ私が何をしていたかわからない。そう考えると、相手がアークで命拾いしたな」
にっと笑うサーシャに恐ろしさを感じつつも、娘が大事にされている現状に俺は頬を緩める。
パレードももう残り僅か。
遠くに見える魔王城へ続くゲートを眺めて、俺は胸を撫で下ろした。
城に戻ると、かわいい孫がコトラといっしょにお出迎えしてくれた。
生まれてから半年ほどが経った孫は、すくすくと成長している。
魔族は人間よりも成長が早いらしく、もう歩き始めているから驚きだ。
結婚式には孫も参列させようかと話していたが、長丁場になると負担が大きいだろうと、披露宴だけ参加させることになった。
娘は孫に挨拶を済ませたあと、すぐに魔王とともに着替えに行ってしまう。
披露宴ではまた違うドレスを身に着けるらしく、忙しそうだ。
よちよち歩きで俺に手を伸ばしてくる孫を抱き上げた。
孫は俺のネクタイが気になるようで、興味津々といった顔をして引っ張っている。
孫が生まれることでコトラが焼きもちを焼かないか心配していたが、良いお兄ちゃんとして孫のお世話に尽力してくれているらしい。
コトラは久々に妻の腕に抱かれ、満足そうに喉を鳴らしていた。
「大きくなったわねぇ」
「目元は柚乃に似てるわね」
妻と義母がそんなことを言いながら、孫を眺めていた。
それでいて、コトラを撫でまわす手を止めないあたりが妻らしい。
披露宴までまだ時間はある。
少し散歩でもしようと、孫の手を引いて庭園を歩くことにした。
自分で歩きたがる孫を腕から降ろし、その手をつなぐ。
なんとも小さく、頼りない手だ。
娘もこんな風に、小さな手をしていた。
そしてこんな風に、手を繋いでいろんなところに出かけた。
「今日は、いい日だな……」
ポツリと俺がつぶやくと、妻が「そうね」と微笑む。
こんな幸せな日が訪れたことに感謝しながら、俺は目を細めた。
※
俺はスマホの画面をぼんやりと眺めながら、数年前の娘の結婚式の日のことを思い出していた。
画面の中には、当時の新郎新婦とその家族が幸せそうに笑っている。
今日は娘のもとに遊びに行く約束をしている日だ。
会うごとにどんどん成長している孫はまた大きくなっただろうと、浮足立って考える。
妻もせっせと娘の好物を作り置きしていて、その表情は生き生きしている。
晴れて夫婦となった娘と魔王はなんだかんだと忙しいようで、負担をかけないよう月に1度を目安に会う約束をしている。
孫が魔力のコントロールをうまくできるようになったら、こっちの世界にも遊びにきてもらう予定だ。
遠くない未来を想像して、俺は思わずにやける。
娘がさらわれたあの日は絶望しかなかったが、今となってはこれも運命だったのだと思える。
あの日がなければ、ほかの転移者に出会うことも、孫が生まれることもなかったのだと。
「そろそろ準備できたか?」
俺が問いかけると、妻は「もうちょっと」とタッパーのふたを閉めている。
俺はその様子を眺めながら、幸せをかみしめていた。
「お待たせ!行きましょうか」
妻が紙袋一杯に詰めた惣菜たちを受け取って、俺は鍵を窓にかざした。
見慣れた白い扉は、今日も美しい。
コンコンとノックをすると、扉がゆっくりと開いた。
扉の先から顔を出した娘と孫に、俺たちも笑みを返す。
そして、愛する娘と孫に会うため、今日も俺は異世界に渡る。
( 完 )
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ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今回をもちまして、本編は完結となります。
明日からはもう少し特別編が続きますので、そちらもお付き合いいただけますと幸いです。
ここまで連載を続けてこられたのは、ひとえに読者の皆様の応援のおかげです。
本当にありがとうございました!
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