学園制圧

月白由紀人

文字の大きさ
21 / 28

第21話 戦闘 その2

しおりを挟む
 学園内を銃声のする第二校舎に向かって走ってゆく途中で、女子生徒十人程を連れた集団とばったり出くわした。

 迷彩服を着て銃を持った三人の兵士たちなんだけど、教室で僕らを見張っていた操り人間のスレイブとは様子が違う。

「明莉さん……」

 その中の一人が戸惑っているという声を出した。

「何をやっているの!? その生徒たちは? 持ち場に戻りなさい!」

 明莉は叱責するが、兵士たちが言う事を聞く様子はない。別の一人が、いきなり明莉に銃を向けてきた。

「何のつもり? 銃を下ろしなさい」

 明莉が険しい声を出すが、兵士は銃を下ろさない。

「そこをどけ。俺たちは脱出するんだよ」

 兵士が明莉に、どくように銃先で促してきた。

「校舎内でドンパチが始まったな。仲間割れかスパイかしらんが、俺たちはもうこの場所に用がねーんだよ。ゴアテクが突入してくる前に逃げねーとな」

 明莉の部下らしき兵士は、チンピラみたいな言葉を投げつけてくる。残りの二人も僕らに銃口を向けてきた。

「さっさとどけ。じゃまなんだよ」
「貴方たち、最初から……」
「そうだよ。こいつら連れてダークワールドに潜んだよ」
「若いJK売れば、地下でいい暮らしが出来んだろ」
「決起なんて最初からどうでもいいんだよ。そんなもんにすき好んで参加するわけねーだろ」

 口々に言い放つ兵士たちに、明莉は衝撃を受けている。

「早く退け。お前は避けられても一緒にいる男は死ぬだろ」

 一人が、明莉を脅してきた。その明莉が小さい声で僕に囁いた。

「名前を呼んだらしゃがんで」
「どけって言ってんだろっ!」

 男が声を荒げると同時に、明莉が小さく僕の名を呼ぶ。

「優也」

 僕は言われた通りにしゃがんで丸まり……。明莉が、跳んだ。前面の男の銃をハイキックで弾き飛ばし、懐に入り込んで腹に掌底。さらに身体を回してもう一人に上段蹴り。

「てめえっ!」

 言いかけて銃を撃とうとした男に、明莉は裏拳を叩きこむ。二秒後には、地面に倒れてうめいている男たちの光景が広がっていて、僕は心底驚いた。

 明莉が超人的な能力を持っているナイトメアだってことは知っている。でも、目の前で肉弾戦闘を見せつけられると、否が応でも認めざるを得ない。

 相手の男たちだって、ナイトメアのはずだ。それを瞬殺した事実が、明莉の能力の高さとか、今まで潜り抜けてきた実戦とかを想像させて、どうにも唸ってしまう。

「すごい……ね……」

 僕は、明莉に何かを言わなくちゃと思ってなんとか口を開く。あまりにありきたりというか、思ったままというか、率直な感想になってしまったんだけど、どうしようもない。

「そうね。嬉しくないけど、実戦経験は豊富だから」

 確かに明莉は嬉しくない楽しくもないという抑揚、もっと言うと少し自嘲気味に返答してきた。

 明莉が、震えている女子生徒達に顔を向ける。

「ごめんなさい。今は構ってる暇はないの。近くに図書館があるから隠れてて。兵隊はいないはずだから」

 確かに今こうしている間にも、第二校舎の方からは銃声が続いている。

「あ、あの……」

 女子の一人が、こわごわとした様子で声を出した。

「あり……がとう、ございました。助けてくれて」
「いえ」

 明莉がその礼を否定する。

「私は、そこに倒れている犯人たちの仲間だから」
「……?」

女子は、明莉の言葉がわからないという顔。

「声を上げるのにやむを得ない方法だったとはいえ、生徒の犠牲を承知で計画したのは私。だから、そんな顔をされると逆に辛い」
「…………」

 女子生徒たちは理解できないとい表情を見せたが、それでも「ありがとうございました」と丁寧な感謝を述べて、図書館へと逃げていった。

 そして女子達を見送って、僕らは第二校舎へと向かう……と思ったんだけど、明莉は何故か動かない。

 どうしたのかとよく見ると、口端を噛んでこぶしを握り締めて、その場所に立ちつくして震えていた。

 明莉の目線の先を追うと、地面に倒れている男たちがいて、僕は明莉にどう言おうかと悩みながら口にする。

「仲間のヒトたちだったのに……」
「ええ。決起の仲間……だったナイトメア、ね」

 明莉は苦虫を噛み潰すという口調。

「うん。残念だね……」
「ええ。私も街の闇でいろんな人たちを見て騙してきたけど……。いざ実際に自分が裏切られると……辛いわね」

 自虐的な笑みを浮かべる。

「因果応報ってやつかしら?」
「そんなこと!」

 僕は否定したけど、でも、明莉が裏切られたことはどうにもならない。

「大丈夫。平気よ。これくらい想定の内。いきましょう。まだ全然序の口だから」

 そう言って明莉は駆け出した。僕は慌ててその明莉の後を追う。明莉の背からはその感情は読み取れなかった。けど、疾駆に揺れている長い黒髪は哀しみに濡れている気がして、見るのがやけにつらいのはどうしようもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

処理中です...