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【第一章】斯くして物語は巡り始める
ep.17
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「――やはり、険しい道ね。」
「でも、此処で道が終わっているのは可笑しいんです。何が可笑しいか、……わからないけど。」
「ミーナのその感覚で言ってる時ほど、無視するのは惜しいわね。」
「で、なんで俺まで着いてくるハメになってるんだ?」
数日後。先日の街中を視察している際に少し進んだイニーツィオへの道が気になり、散歩がてら見に行きたいとルミナスさまに申し出た。そうしたら、なら私も行くわ!ベルも連れて行きましょう、とあれよあれよという間に話が進み、私とルミナスさま、ヴェルデットロ様にお付きの方々で出掛けることになった。私付きとしてくれているシエルとフィオナは、シエルが着いてきてくれている。そして不機嫌なヴェルデットロ様を取りなそうとしているのは、つい昨晩に到着したヴェルデットロ様の付き人であるリュエ・マジカ・ジエラストロンディ様である。甘いマスクに垂れ目がチャームポイントのジエラストロンディ様であるが、眉までへにゃりと下がりきっていて困っているのが分かる。連れてきた張本人ルミナスさまは、その様子に頓着していてどこ吹く風といった態度である。
イニーツィオの地に続く水路の終わりまで来て陸路を見ているが、どうにも釈然とせず言葉を紡ぐ。そうするとルミナスさまは私の言葉を拾ってくださり、返してくれるが根拠がないのでどうにも返事がしづらい。期限の悪そうなヴェルデットロ様はジエラストロンディ様に任せて放っておくとして、来たいと言った以上は答えを出したい。実際ジエラストロンディ様が、護衛対象が移動したんだから一緒に行くのは仕方ないじゃん、等とヴェルデットロ様を説得しているのでそのまま頑張ってほしい。
「ミーナ、此処から先には流石に行かせられないわよ。妊婦を行かせたとなれば、ばあやとアカーチャ様に怒られてしまうわ。」
「駄目、ですか。たぶん、この先はこうじゃなかったはずなんです。ちょっとだけ陸に上がらせてください。」
「誰どすか?イニーツィオはなんもあらへん土地やさかい、村人以外は用があるとは思えまへんが。」
私達が陸に上がる上がらないで揉めていると、陸から人がどこからともなく現れた。一気に皆に緊張が走る中でのんびりと私達に問いかけてくる人物は、先日この道で見かけた彼らと似た透き通るような薄い茶髪で薄い銀に見紛うような白に近い瞳を持つ、壮年期あたりの精悍な男性だった。
その男性を見ると、先日のようにまた胸元の鈴が震えた。やはり気になる、と周りの人の制止を振り切って陸路へと跳んだ。水の魔術を使い、足の裏からジェット噴射のように水を出して、着地場所には水の風船を用意して怪我しないように注意するのは忘れない。しかし、制御を誤ってしまったらしい。思ったよりも飛び過ぎて着地する際によろけてしまった。が、そんな私を男性が支えてくれたため事なきを得た。
「大胆な姫はんどすなぁ、お気ぃ付けください。」
「あの、ありがとうございます。」
「おい、平民。護衛対象が離れるな、――。」
礼を言う私に、苛立ったように声を上げるヴェルデットロ様。私は護衛対象だったのかな、と思いつつ謝る。
その様子を、男性は白い瞳を半月に細めるようににぃっと歪めながら見ていた。
***
その男はそっと使う。その地に伝わる最古の魔法を、誰にも気づかれないようにそっと使う。
『姫はんとその騎士がいらっしゃった。丁重にもてなす準備を、――。』
その魔法は、一瞬小さく光り、村の方へと消えていった。
「でも、此処で道が終わっているのは可笑しいんです。何が可笑しいか、……わからないけど。」
「ミーナのその感覚で言ってる時ほど、無視するのは惜しいわね。」
「で、なんで俺まで着いてくるハメになってるんだ?」
数日後。先日の街中を視察している際に少し進んだイニーツィオへの道が気になり、散歩がてら見に行きたいとルミナスさまに申し出た。そうしたら、なら私も行くわ!ベルも連れて行きましょう、とあれよあれよという間に話が進み、私とルミナスさま、ヴェルデットロ様にお付きの方々で出掛けることになった。私付きとしてくれているシエルとフィオナは、シエルが着いてきてくれている。そして不機嫌なヴェルデットロ様を取りなそうとしているのは、つい昨晩に到着したヴェルデットロ様の付き人であるリュエ・マジカ・ジエラストロンディ様である。甘いマスクに垂れ目がチャームポイントのジエラストロンディ様であるが、眉までへにゃりと下がりきっていて困っているのが分かる。連れてきた張本人ルミナスさまは、その様子に頓着していてどこ吹く風といった態度である。
イニーツィオの地に続く水路の終わりまで来て陸路を見ているが、どうにも釈然とせず言葉を紡ぐ。そうするとルミナスさまは私の言葉を拾ってくださり、返してくれるが根拠がないのでどうにも返事がしづらい。期限の悪そうなヴェルデットロ様はジエラストロンディ様に任せて放っておくとして、来たいと言った以上は答えを出したい。実際ジエラストロンディ様が、護衛対象が移動したんだから一緒に行くのは仕方ないじゃん、等とヴェルデットロ様を説得しているのでそのまま頑張ってほしい。
「ミーナ、此処から先には流石に行かせられないわよ。妊婦を行かせたとなれば、ばあやとアカーチャ様に怒られてしまうわ。」
「駄目、ですか。たぶん、この先はこうじゃなかったはずなんです。ちょっとだけ陸に上がらせてください。」
「誰どすか?イニーツィオはなんもあらへん土地やさかい、村人以外は用があるとは思えまへんが。」
私達が陸に上がる上がらないで揉めていると、陸から人がどこからともなく現れた。一気に皆に緊張が走る中でのんびりと私達に問いかけてくる人物は、先日この道で見かけた彼らと似た透き通るような薄い茶髪で薄い銀に見紛うような白に近い瞳を持つ、壮年期あたりの精悍な男性だった。
その男性を見ると、先日のようにまた胸元の鈴が震えた。やはり気になる、と周りの人の制止を振り切って陸路へと跳んだ。水の魔術を使い、足の裏からジェット噴射のように水を出して、着地場所には水の風船を用意して怪我しないように注意するのは忘れない。しかし、制御を誤ってしまったらしい。思ったよりも飛び過ぎて着地する際によろけてしまった。が、そんな私を男性が支えてくれたため事なきを得た。
「大胆な姫はんどすなぁ、お気ぃ付けください。」
「あの、ありがとうございます。」
「おい、平民。護衛対象が離れるな、――。」
礼を言う私に、苛立ったように声を上げるヴェルデットロ様。私は護衛対象だったのかな、と思いつつ謝る。
その様子を、男性は白い瞳を半月に細めるようににぃっと歪めながら見ていた。
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その男はそっと使う。その地に伝わる最古の魔法を、誰にも気づかれないようにそっと使う。
『姫はんとその騎士がいらっしゃった。丁重にもてなす準備を、――。』
その魔法は、一瞬小さく光り、村の方へと消えていった。
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