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第38話 虚弱聖女と聖女の真実
いよいよ始まる。
そう思った。
聖女という存在、その意味、生まれる理由を、やっと知ることが出来る。
「聖女が守護獣に魔力を注ぐ仕組みを説明するためにはまず、聖獣と人間の関係を説明しなければならない」
「まだ前情報があるのか?」
若干ぐったりされたレイ様の発言を、ルゥナ様は小馬鹿にするように言い返す。
「当たり前だ。女神様が創造された世界だぞ? そんな単純な仕組みじゃねーよ。ま、俺は親切だからお前にもわかりやすーーーーく説明してやるよ」
「安心せよ、レイ王。わしもルゥナの説明を補足してやる故」
私も内心、これ以上難しい話をされて理解出来るか不安だった。なのでレイ様の気持ちは痛いほど分かる。
でも、システィーナ様の補足が入るなら、大丈夫そうね。
ルゥナ様が皆に視線を向けた。皆が話を聞く体勢になったと判断されると、ゆっくりと口を開いた。
「まずは前提として、聖獣と人間は同じ魂だ」
「待て待て待て! 早速分からんぞ!! 分かりやすさはどこにいった!?」
説明開始早々、レイ様のストップがかかった。そして早速救いを求めるように、システィーナ様を見られた。
彼女は広げていた扇をパタンと閉じると、この部屋に着いたときに返却されたフェンレア王国のメダルを取りだした。
それを皆の前で掲げながら、朗々と語り出す。
「魂は分かるな? このメダルを魂じゃと思って欲しい。メダルには、表と裏があるじゃろ?」
システィーナ様がメダルをひっくり返すと、表とは違う模様が現れた。
「この表と裏、それが聖獣と人間じゃ。一つの魂は、聖獣と人間という二つの肉体をもち、それぞれ聖獣界と人間界で暮らしているわけじゃ」
「つまり……私と同じ魂を持つ聖獣様が、聖獣界にいらっしゃる。そういうことでしょうか。その逆もしかり、と……」
「そうじゃ。ルヴィスとやら、お主は理解が早いのう」
システィーナ様がカラカラと笑われた。
一つの魂に、二つの肉体。
ということは、レイ様やティッカさんと同じ魂を持つ聖獣様が、聖獣界にいるということ?
私、にも――?
「でも何故そのような複雑な仕組みに……」
「これも、聖獣界と人間界のバランスをとるためだ」
ルヴィルさんの疑問に答えたのは、ルゥナ様。
「さっきも言ったが、聖獣界と人間界は不安定だ。だから一つの魂に二面性を持たせ、人間界にいる人間の数と聖獣界にいる聖獣の数を常に同じにし、バランスをとっているんだ」
とはいえ、聖獣も人間も寿命がある。ここで言う数の一致とは、【転生を控えた人間・聖獣】も数に入るそうだ。
ふと疑問が湧いた。同じ疑問を抱いたラメンテが、久々に口を開いた。
「でも今人間界には聖獣――つまり守護獣が三体来てるでしょ? 人間界にいる数の方が三体分多くなってるけど、それは大丈夫なの?」
「おいおいおいおい……お前、マジかよ……ほんと、記憶ないんだな……」
ルゥナ様は若干引きつつも、説明を続けてくださった。
確かに今、守護獣様が三体――ひとまずシィ様の件は横に置いておくとして――人間界にいらっしゃる。その分、聖獣界にいらっしゃる聖獣の数が少なくなっているわけで。
だけど対策は、とても簡単なことだった。
「【転生を控えた人間】を三人、聖獣界に連れてきている。人間の肉体では聖獣界で存在出来ないからな。これで数が保たれているというわけだ」
確かに、理屈は通っている。
だけど……
「なら、聖獣界に連れてこられた人間は、ずっと転生できないということでしょうか。人間の肉体があると聖獣界で存在出来ないと仰っていましたが……」
世界のバランスをとるために大切なことだと分かっていても、口を出さずにはいられなかった。
何を甘いことを言っているのかと怒られるかと思ったけれど、意外とルゥナ様の声色は柔らかかった。
「だから守護獣は交代するんだ。半身である人間を、ずっと聖獣界で縛り付けないようにな」
「あっ……」
『ルゥナ殿は先ほど、シィと一緒に、前守護獣と入れ替わる形でこの世界にやってきたと言っていた。ということは守護獣は時折交代することがあるのか?』
確かレイ様も、ルゥナ様に同じ質問されていたっけ。
そういうこと、だったのね。
守護獣様が交代されるのは、自分と同じ魂を持つ人間のために――
「とはいえ、俺もシィも初代守護獣たちから引き継いで八百年。人間にとっては途方もない時間なのは理解している。だからこそ、一日でも早く人間界を安定させ、聖獣界に戻りたいと思ってるってのに……こいつは……」
優しい声色が一変、ラメンテへの恨み節へと変わった。会話に参加していたラメンテがビクッと体を震わせたかと思うと、私の膝の上で小さくなり、自身の存在を消していた。
それを見たルゥナ様は、ふんっと小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、私たちに視線を戻した。
「てなわけで、俺たち聖獣と人間は、同じ魂を持つという繋がりがある。聖女はその繋がりを使って、自分と同じ魂を持つ聖獣から魔力を引き出し、守護獣に与えているってわけだ。魔力供給元の聖獣は、魔力を引き出されても聖獣界にいりゃ勝手に回復するしな」
「現にわしも、ルゥナに力を与える際、自分の奥底から力を引っ張り出すイメージで行っておる。お主も、そうじゃろ? セレスティアル」
システィーナ様に問われ、私は驚きとともに頷いた。
「た、確かに、同じです。ということは、私が今まで引き出していた力の出所は……」
「うむ、お前と魂を同じとする聖獣、ということじゃ」
「そう、だったんですね……」
私も、ラメンテやシィ様に力を与える際、胸の奥にある温かい何かを引っ張り出し、それを触れた手のひらから相手に流す姿をイメージする。
まさか、システィーナ様も同じようなイメージで力を与えていたとは思わなかった。
魔力供給元の聖獣様も、聖女が亡くなったら交代するのだという。次に魔力供給元の聖獣様を決め、その聖獣様と同じ魂を持つ女性が次の聖女になるのだそうだ。
そうやって聖女は生まれ、守護獣様のパートナーとして、ともに世界を安定させるために力を尽くしてきたのだ。
この世界が創られてから、ずっと。
そして私も、長き歴史を経て生まれた聖女の一人――
胸の上に両手を重ね、目を閉じた。
魂の先に、どんな聖獣様がいるかは分からない。だけどその存在によって、ラメンテを助けることができ、ルミテリス王国を救うことが出来た。
心が熱くなり、感謝の気持ちが溢れ出る。その想いが、唇からこぼれ落ちた。
「……ありがとう、ございます、聖獣様」
あなたのお陰で、大切な人たちを守ることができた――
目を開けると、皆が私を見ていた。
システィーナ様の口元には、柔らかな笑みが浮かんでいた。威圧感が強いというイメージだったのに、私を見つめる表情は慈愛に満ちている。
ルゥナ様は表情が分からないけれど、ヒゲがピンッと立っていることで、ご機嫌なのが伝わってくる。ルヴィスさんもティッカさんも、微笑んでいた。
そんなとき、胸の上に置いた手がぬくもりで包まれた。
手の主は――
「れ、レイ様!?」
「ああ、すまない、驚かせたな」
レイ様が私の手の上に、ご自身の手を重ねていらっしゃった。それも私の横に跪きながら。
驚き、口をパクパクしながら混乱している私に向かってレイ様は微笑むと、瞳を閉じ、頭を垂れた。
「……感謝する。セレスティアルと魂を共にする聖獣殿。ラメンテを助け、この国を蘇らせてくれたことを」
恥ずかしさが一瞬にして消え去った。
代わりに湧き上がるのは、何ことに対しても感謝を忘れない、レイ様の真っ直ぐな心への敬意。
レイ様が頭を上げた。伏せられていた瞼から赤い瞳が現れ、何故か真っ直ぐに私へと向けられ――重なったままだった彼の手が、私の手を強く握った。
「そして、セレスティアルと出会わせてくれたことを――」
いや、だから言い方?
私がいなけば、聖獣様の力をラメンテに届けることができなかったことを指しているとはいえ、レイ様の説明が足りなく感じるのは、私だけ……?
でも、嬉しい。
私が聖女だったことで、キアラたちに虐められ、オズベルト殿下に追放され、辛いこともたくさんあった。私を育ててくださった恩人――ネルロ様を救い出すことも出来なかった。
だけど聖女だったお陰で、素晴らしい国に辿り着き、素敵な人たちに囲まれ、数年前では考えられないほどの幸せを享受している。
ラメンテの結界がクロラヴィア王国まで届けば、ネルロ様を迎えに行くことだって可能になる。
私と魂を共にする、聖獣様のお陰で――
(ありがとうございます。私は今、とても幸せです……)
レイ様の手のぬくもりを感じながら、心の中で聖獣様にもう一度感謝を伝えた。
だけど、
(えっ?)
まるで私の気持ちに反応するように胸の奥から湧き上がってきたのは、
――心を突き刺すような悲しみだった。
そう思った。
聖女という存在、その意味、生まれる理由を、やっと知ることが出来る。
「聖女が守護獣に魔力を注ぐ仕組みを説明するためにはまず、聖獣と人間の関係を説明しなければならない」
「まだ前情報があるのか?」
若干ぐったりされたレイ様の発言を、ルゥナ様は小馬鹿にするように言い返す。
「当たり前だ。女神様が創造された世界だぞ? そんな単純な仕組みじゃねーよ。ま、俺は親切だからお前にもわかりやすーーーーく説明してやるよ」
「安心せよ、レイ王。わしもルゥナの説明を補足してやる故」
私も内心、これ以上難しい話をされて理解出来るか不安だった。なのでレイ様の気持ちは痛いほど分かる。
でも、システィーナ様の補足が入るなら、大丈夫そうね。
ルゥナ様が皆に視線を向けた。皆が話を聞く体勢になったと判断されると、ゆっくりと口を開いた。
「まずは前提として、聖獣と人間は同じ魂だ」
「待て待て待て! 早速分からんぞ!! 分かりやすさはどこにいった!?」
説明開始早々、レイ様のストップがかかった。そして早速救いを求めるように、システィーナ様を見られた。
彼女は広げていた扇をパタンと閉じると、この部屋に着いたときに返却されたフェンレア王国のメダルを取りだした。
それを皆の前で掲げながら、朗々と語り出す。
「魂は分かるな? このメダルを魂じゃと思って欲しい。メダルには、表と裏があるじゃろ?」
システィーナ様がメダルをひっくり返すと、表とは違う模様が現れた。
「この表と裏、それが聖獣と人間じゃ。一つの魂は、聖獣と人間という二つの肉体をもち、それぞれ聖獣界と人間界で暮らしているわけじゃ」
「つまり……私と同じ魂を持つ聖獣様が、聖獣界にいらっしゃる。そういうことでしょうか。その逆もしかり、と……」
「そうじゃ。ルヴィスとやら、お主は理解が早いのう」
システィーナ様がカラカラと笑われた。
一つの魂に、二つの肉体。
ということは、レイ様やティッカさんと同じ魂を持つ聖獣様が、聖獣界にいるということ?
私、にも――?
「でも何故そのような複雑な仕組みに……」
「これも、聖獣界と人間界のバランスをとるためだ」
ルヴィルさんの疑問に答えたのは、ルゥナ様。
「さっきも言ったが、聖獣界と人間界は不安定だ。だから一つの魂に二面性を持たせ、人間界にいる人間の数と聖獣界にいる聖獣の数を常に同じにし、バランスをとっているんだ」
とはいえ、聖獣も人間も寿命がある。ここで言う数の一致とは、【転生を控えた人間・聖獣】も数に入るそうだ。
ふと疑問が湧いた。同じ疑問を抱いたラメンテが、久々に口を開いた。
「でも今人間界には聖獣――つまり守護獣が三体来てるでしょ? 人間界にいる数の方が三体分多くなってるけど、それは大丈夫なの?」
「おいおいおいおい……お前、マジかよ……ほんと、記憶ないんだな……」
ルゥナ様は若干引きつつも、説明を続けてくださった。
確かに今、守護獣様が三体――ひとまずシィ様の件は横に置いておくとして――人間界にいらっしゃる。その分、聖獣界にいらっしゃる聖獣の数が少なくなっているわけで。
だけど対策は、とても簡単なことだった。
「【転生を控えた人間】を三人、聖獣界に連れてきている。人間の肉体では聖獣界で存在出来ないからな。これで数が保たれているというわけだ」
確かに、理屈は通っている。
だけど……
「なら、聖獣界に連れてこられた人間は、ずっと転生できないということでしょうか。人間の肉体があると聖獣界で存在出来ないと仰っていましたが……」
世界のバランスをとるために大切なことだと分かっていても、口を出さずにはいられなかった。
何を甘いことを言っているのかと怒られるかと思ったけれど、意外とルゥナ様の声色は柔らかかった。
「だから守護獣は交代するんだ。半身である人間を、ずっと聖獣界で縛り付けないようにな」
「あっ……」
『ルゥナ殿は先ほど、シィと一緒に、前守護獣と入れ替わる形でこの世界にやってきたと言っていた。ということは守護獣は時折交代することがあるのか?』
確かレイ様も、ルゥナ様に同じ質問されていたっけ。
そういうこと、だったのね。
守護獣様が交代されるのは、自分と同じ魂を持つ人間のために――
「とはいえ、俺もシィも初代守護獣たちから引き継いで八百年。人間にとっては途方もない時間なのは理解している。だからこそ、一日でも早く人間界を安定させ、聖獣界に戻りたいと思ってるってのに……こいつは……」
優しい声色が一変、ラメンテへの恨み節へと変わった。会話に参加していたラメンテがビクッと体を震わせたかと思うと、私の膝の上で小さくなり、自身の存在を消していた。
それを見たルゥナ様は、ふんっと小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、私たちに視線を戻した。
「てなわけで、俺たち聖獣と人間は、同じ魂を持つという繋がりがある。聖女はその繋がりを使って、自分と同じ魂を持つ聖獣から魔力を引き出し、守護獣に与えているってわけだ。魔力供給元の聖獣は、魔力を引き出されても聖獣界にいりゃ勝手に回復するしな」
「現にわしも、ルゥナに力を与える際、自分の奥底から力を引っ張り出すイメージで行っておる。お主も、そうじゃろ? セレスティアル」
システィーナ様に問われ、私は驚きとともに頷いた。
「た、確かに、同じです。ということは、私が今まで引き出していた力の出所は……」
「うむ、お前と魂を同じとする聖獣、ということじゃ」
「そう、だったんですね……」
私も、ラメンテやシィ様に力を与える際、胸の奥にある温かい何かを引っ張り出し、それを触れた手のひらから相手に流す姿をイメージする。
まさか、システィーナ様も同じようなイメージで力を与えていたとは思わなかった。
魔力供給元の聖獣様も、聖女が亡くなったら交代するのだという。次に魔力供給元の聖獣様を決め、その聖獣様と同じ魂を持つ女性が次の聖女になるのだそうだ。
そうやって聖女は生まれ、守護獣様のパートナーとして、ともに世界を安定させるために力を尽くしてきたのだ。
この世界が創られてから、ずっと。
そして私も、長き歴史を経て生まれた聖女の一人――
胸の上に両手を重ね、目を閉じた。
魂の先に、どんな聖獣様がいるかは分からない。だけどその存在によって、ラメンテを助けることができ、ルミテリス王国を救うことが出来た。
心が熱くなり、感謝の気持ちが溢れ出る。その想いが、唇からこぼれ落ちた。
「……ありがとう、ございます、聖獣様」
あなたのお陰で、大切な人たちを守ることができた――
目を開けると、皆が私を見ていた。
システィーナ様の口元には、柔らかな笑みが浮かんでいた。威圧感が強いというイメージだったのに、私を見つめる表情は慈愛に満ちている。
ルゥナ様は表情が分からないけれど、ヒゲがピンッと立っていることで、ご機嫌なのが伝わってくる。ルヴィスさんもティッカさんも、微笑んでいた。
そんなとき、胸の上に置いた手がぬくもりで包まれた。
手の主は――
「れ、レイ様!?」
「ああ、すまない、驚かせたな」
レイ様が私の手の上に、ご自身の手を重ねていらっしゃった。それも私の横に跪きながら。
驚き、口をパクパクしながら混乱している私に向かってレイ様は微笑むと、瞳を閉じ、頭を垂れた。
「……感謝する。セレスティアルと魂を共にする聖獣殿。ラメンテを助け、この国を蘇らせてくれたことを」
恥ずかしさが一瞬にして消え去った。
代わりに湧き上がるのは、何ことに対しても感謝を忘れない、レイ様の真っ直ぐな心への敬意。
レイ様が頭を上げた。伏せられていた瞼から赤い瞳が現れ、何故か真っ直ぐに私へと向けられ――重なったままだった彼の手が、私の手を強く握った。
「そして、セレスティアルと出会わせてくれたことを――」
いや、だから言い方?
私がいなけば、聖獣様の力をラメンテに届けることができなかったことを指しているとはいえ、レイ様の説明が足りなく感じるのは、私だけ……?
でも、嬉しい。
私が聖女だったことで、キアラたちに虐められ、オズベルト殿下に追放され、辛いこともたくさんあった。私を育ててくださった恩人――ネルロ様を救い出すことも出来なかった。
だけど聖女だったお陰で、素晴らしい国に辿り着き、素敵な人たちに囲まれ、数年前では考えられないほどの幸せを享受している。
ラメンテの結界がクロラヴィア王国まで届けば、ネルロ様を迎えに行くことだって可能になる。
私と魂を共にする、聖獣様のお陰で――
(ありがとうございます。私は今、とても幸せです……)
レイ様の手のぬくもりを感じながら、心の中で聖獣様にもう一度感謝を伝えた。
だけど、
(えっ?)
まるで私の気持ちに反応するように胸の奥から湧き上がってきたのは、
――心を突き刺すような悲しみだった。
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