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第41話 虚弱聖女と戸惑い
「……神獣? 女神の補佐をし、ともに世界を創造した、あの神獣のことか?」
戸惑いと驚きが入り交じった表情を私に向けながら、レイ様が訊ねた。いや、訊ねたというよりも、独白に近い。
ルゥナ様は、レイ様の問いに答えず、ただ私を見つめているだけだ。
私だって何も言えなかった。
魂と共にし、今までラメンテに力を与えてくださっていた存在が、神獣様だと言われて、信じられずにいる。
だって今まで自分が守護獣様に与えていた力は、むしろ少ないのではとさえ思っていたから。ルゥナ様が驚かれるほど膨大だなんて、想像だにしていなかったから。
だけど、ならどうしてクロラヴィア王国の守護獣シィ様に力を捧げたときは、あれほど疲れてしまったのだろう。
守護獣様に力を捧げて疲れる、ということはつまり、私と繋がっている聖獣様に負担がかかるほど、力を引き出そうとしていたということ、だよね?
でも私の力は、ルゥナ様が驚かれるほど膨大なわけで……
結界を大きく広げられるほどの膨大な力を捧げ続けても、なおも力を捧げ続けなければならなかったシィ様とは……私がクロラヴィア王国で力を捧げていた存在とは一体――
背筋に寒気が走った。
そんな中、
「あ、はは……んなわけ、ない、か……」
ルゥナ様の乾いた笑い声が響き渡った。そしてご自身に言い聞かせるように、言葉を続ける。
「そう、だよな……あの偉大なる神獣様と繋がっている人間がいるなんて……ない、よなぁ……うん、俺の勘違い、だ。すまん」
「……じゃが、セレスティアルが注ぐ魔力量は、やべぇのじゃろ? それはどう説明する?」
無理矢理納得されようとするルゥナ様に、システィーナ様の鋭い指摘が飛ぶ。それを聞いたルゥナ様の尻尾と耳が垂れた。
「わ、わかんねえよ……でも俺も聖獣界を離れて八百年経ってるんだ。もしかすると、ものすんごい魔力量を保有する聖獣が生まれていて、そいつがセレスティアルと同じ魂だって可能性も否定できねぇ」
「なんか……とってつけたような理由じゃのう……」
システィーナ様が呆れたように呟くと、ルゥナ様は、全身の毛を逆立てて怒りを見せながら言い返された。
「し、仕方ねぇだろ!? お、俺は、女神様にも神獣様にもお会いしたことはないから! もしかすると、クォリアスなら何か知っているかもしれんが……」
「クォリアス様は確か、北の守護獣様でしたよね?」
ルヴィスさんの問いに、ルゥナ様は大きく頷いた。
「ああ。クォリアスは、北の初代守護獣だ。俺やシィよりも、人間界にいる時間が長いし、なにより……ババアだからな! 俺たちが知らない知識をもっている可能性があ――」
突然ルゥナ様の言葉が途切れ、可哀想なほどか細い鳴き声が響き渡った。
システィーナ様が薄い笑みを浮かべながら、ルゥナ様の頭を鷲づかみされたからだ。その手は僅かに震えており、明らかに力が込められているのが分かった。
い、痛そう……
「ルゥナや……お主は女性に対して、もう少し失礼のない言葉遣いを学ぶ必要があるようじゃな……」
「い、痛い! やめろ、し、システィーナぁぁ……」
「ん? クォリアスは……なんじゃと? もう一度、言ってみ?」
「だ、だから、ババ――痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!」
「んーー、良く聞こえなかったのう?」
し、システィーナ様、怖い……
何とかシスティーナ様の手から解放されたルゥナ様は、ミーミー鳴きながら、私の後ろに隠れてしまった。そしてシスティーナ様を睨み付けると、シャーっと威嚇されていた。
ルヴィスさんが、ルゥナ様に視線を向ける。
「万が一、何か知りたければ、北の守護獣クォリアス様にお聞きすれば分かるのですね?」
「断言はできねぇけどよ。少なくとも、俺やシィよりもバ――な、長く生きているからな。その分知識も気づきもあるだろうって程度だ。さっきも言ったが、クォリアスは初めてこの地に降り立った三体の守護獣の一体だしな」
「それほど長く、北の地を守っていらっしゃるのですね」
「でも、そろそろ交代すんじゃねぇの? クォリアスと魂を同じにする人間も解放してやらないとだしな」
ルゥナ様は、人ごとのように軽い口調で仰った。それを聞いたラメンテが、少し心配そう口を開く。
「ということは、セレスティアルのことが知りたいなら、クォリアスっていう守護獣が交代する前に、聞きに行った方がいいってことだよね?」
「でも、ここから北の地までは、結界がない範囲が広いから、フェンレア王国のように気軽に行き来できる距離じゃねえぞ」
「そうなんだ……」
「そうなんだー、じゃねぇよ! 今、この国の結界がどのくらいの範囲まで広がっているか、ちゃんと把握しとけよ! だから俺らが来て驚くことになるんだ、白毛玉!」
「だ、だって……たった数回の結界拡大で、そんなにも広がってるとは思ってなかったし……」
ルゥナ様に厳しく言われ、ラメンテはシュンッと耳を垂らした。ごもっともな指摘に、ぐぅの音も出ないみたい。
確かに、結界の拡大を数回しただけで、大した効果は出ていないと思って、状況の把握をしていないって言ってたっけ、ラメンテ。
後で一緒に、現在の結界状況を確認しないと。
システィーナ様とルゥナ様が訪問されたことで、色々なことを知ることが出来た。
女神様と神獣様。
聖獣界と聖獣という存在。
人間界がある理由。
守護獣の使命。
聖女の力の仕組み。
全ては、世界を存続させるために、深く関係し合っている。
だけど――クロラヴィア王国の聖女たちとシィ様だけは、その関係から外れている。
分かったことと同じくらい、深い闇が現れた気がする。
何か、とてつもなく深い闇が――
今まで重苦しい沈黙が続いていた部屋の空気が、明らかに変わった。
そのきっかけを作ったのは、レイ様。
「正直、セレスティアルと魂を同じにする存在が何かを、今は急いで知る必要はないだろう。少なくとも、ラメンテに力を与え、この国を蘇らせてくださったのだから。それに――」
赤い瞳がどこか熱を帯び、私を真っ直ぐ見つめる。
「例え何と魂を同じにしようとも、俺の好きなセレスティアルには、何一つ変わりはない」
いつもの挨拶。
レイ様の素直な感謝。
分かっているのに……彼の目を真っ直ぐ見つめ返すことができなかった。
ただ、
「あ、ありがとうございます、レイ様……」
そう御礼を伝えることしか出来なかった。
だけど、全身の血が沸き立っている。
――私、嬉しいんだ。
レイ様から向けられる真っ直ぐな好意が――例えそれが、ただの親愛の言葉であると分かっていても――嬉しくて、胸が一杯になるくらい、心が躍ってしまうんだ。
どうしてレイ様は、こんなにも真っ直ぐに好意を伝えられるのだろう。 伝えることを、恐れないんだろう。
私は……未だに迷ってしまう。
自分の勘違いで相手を困らせたり、笑われたりするのが、怖い。
いつか私も彼のように、自分の気持ちに正直になれたら――
……え?
正直にって、なに、に?
心の中の問いへの答えはなかった。代わりに、急に心音が加速して、胸だけでなく、体全身が激しく脈打っている感覚が響く。
自分の席に戻るため、一歩一歩歩みを進めるたびに、その歩みがレイ様に近づくたびに、体が熱くなっていく。
この国にやってきて、たくさんの出来事があった。
クロラヴィア王国では決して経験するのことなかった喜びや楽しさを教えて貰った。
大切にすること、されることの大切さを知った。
だけど、レイ様に対して抱くようになったこの違和感だけは、未だに理解できない――
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だって今まで自分が守護獣様に与えていた力は、むしろ少ないのではとさえ思っていたから。ルゥナ様が驚かれるほど膨大だなんて、想像だにしていなかったから。
だけど、ならどうしてクロラヴィア王国の守護獣シィ様に力を捧げたときは、あれほど疲れてしまったのだろう。
守護獣様に力を捧げて疲れる、ということはつまり、私と繋がっている聖獣様に負担がかかるほど、力を引き出そうとしていたということ、だよね?
でも私の力は、ルゥナ様が驚かれるほど膨大なわけで……
結界を大きく広げられるほどの膨大な力を捧げ続けても、なおも力を捧げ続けなければならなかったシィ様とは……私がクロラヴィア王国で力を捧げていた存在とは一体――
背筋に寒気が走った。
そんな中、
「あ、はは……んなわけ、ない、か……」
ルゥナ様の乾いた笑い声が響き渡った。そしてご自身に言い聞かせるように、言葉を続ける。
「そう、だよな……あの偉大なる神獣様と繋がっている人間がいるなんて……ない、よなぁ……うん、俺の勘違い、だ。すまん」
「……じゃが、セレスティアルが注ぐ魔力量は、やべぇのじゃろ? それはどう説明する?」
無理矢理納得されようとするルゥナ様に、システィーナ様の鋭い指摘が飛ぶ。それを聞いたルゥナ様の尻尾と耳が垂れた。
「わ、わかんねえよ……でも俺も聖獣界を離れて八百年経ってるんだ。もしかすると、ものすんごい魔力量を保有する聖獣が生まれていて、そいつがセレスティアルと同じ魂だって可能性も否定できねぇ」
「なんか……とってつけたような理由じゃのう……」
システィーナ様が呆れたように呟くと、ルゥナ様は、全身の毛を逆立てて怒りを見せながら言い返された。
「し、仕方ねぇだろ!? お、俺は、女神様にも神獣様にもお会いしたことはないから! もしかすると、クォリアスなら何か知っているかもしれんが……」
「クォリアス様は確か、北の守護獣様でしたよね?」
ルヴィスさんの問いに、ルゥナ様は大きく頷いた。
「ああ。クォリアスは、北の初代守護獣だ。俺やシィよりも、人間界にいる時間が長いし、なにより……ババアだからな! 俺たちが知らない知識をもっている可能性があ――」
突然ルゥナ様の言葉が途切れ、可哀想なほどか細い鳴き声が響き渡った。
システィーナ様が薄い笑みを浮かべながら、ルゥナ様の頭を鷲づかみされたからだ。その手は僅かに震えており、明らかに力が込められているのが分かった。
い、痛そう……
「ルゥナや……お主は女性に対して、もう少し失礼のない言葉遣いを学ぶ必要があるようじゃな……」
「い、痛い! やめろ、し、システィーナぁぁ……」
「ん? クォリアスは……なんじゃと? もう一度、言ってみ?」
「だ、だから、ババ――痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!」
「んーー、良く聞こえなかったのう?」
し、システィーナ様、怖い……
何とかシスティーナ様の手から解放されたルゥナ様は、ミーミー鳴きながら、私の後ろに隠れてしまった。そしてシスティーナ様を睨み付けると、シャーっと威嚇されていた。
ルヴィスさんが、ルゥナ様に視線を向ける。
「万が一、何か知りたければ、北の守護獣クォリアス様にお聞きすれば分かるのですね?」
「断言はできねぇけどよ。少なくとも、俺やシィよりもバ――な、長く生きているからな。その分知識も気づきもあるだろうって程度だ。さっきも言ったが、クォリアスは初めてこの地に降り立った三体の守護獣の一体だしな」
「それほど長く、北の地を守っていらっしゃるのですね」
「でも、そろそろ交代すんじゃねぇの? クォリアスと魂を同じにする人間も解放してやらないとだしな」
ルゥナ様は、人ごとのように軽い口調で仰った。それを聞いたラメンテが、少し心配そう口を開く。
「ということは、セレスティアルのことが知りたいなら、クォリアスっていう守護獣が交代する前に、聞きに行った方がいいってことだよね?」
「でも、ここから北の地までは、結界がない範囲が広いから、フェンレア王国のように気軽に行き来できる距離じゃねえぞ」
「そうなんだ……」
「そうなんだー、じゃねぇよ! 今、この国の結界がどのくらいの範囲まで広がっているか、ちゃんと把握しとけよ! だから俺らが来て驚くことになるんだ、白毛玉!」
「だ、だって……たった数回の結界拡大で、そんなにも広がってるとは思ってなかったし……」
ルゥナ様に厳しく言われ、ラメンテはシュンッと耳を垂らした。ごもっともな指摘に、ぐぅの音も出ないみたい。
確かに、結界の拡大を数回しただけで、大した効果は出ていないと思って、状況の把握をしていないって言ってたっけ、ラメンテ。
後で一緒に、現在の結界状況を確認しないと。
システィーナ様とルゥナ様が訪問されたことで、色々なことを知ることが出来た。
女神様と神獣様。
聖獣界と聖獣という存在。
人間界がある理由。
守護獣の使命。
聖女の力の仕組み。
全ては、世界を存続させるために、深く関係し合っている。
だけど――クロラヴィア王国の聖女たちとシィ様だけは、その関係から外れている。
分かったことと同じくらい、深い闇が現れた気がする。
何か、とてつもなく深い闇が――
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赤い瞳がどこか熱を帯び、私を真っ直ぐ見つめる。
「例え何と魂を同じにしようとも、俺の好きなセレスティアルには、何一つ変わりはない」
いつもの挨拶。
レイ様の素直な感謝。
分かっているのに……彼の目を真っ直ぐ見つめ返すことができなかった。
ただ、
「あ、ありがとうございます、レイ様……」
そう御礼を伝えることしか出来なかった。
だけど、全身の血が沸き立っている。
――私、嬉しいんだ。
レイ様から向けられる真っ直ぐな好意が――例えそれが、ただの親愛の言葉であると分かっていても――嬉しくて、胸が一杯になるくらい、心が躍ってしまうんだ。
どうしてレイ様は、こんなにも真っ直ぐに好意を伝えられるのだろう。 伝えることを、恐れないんだろう。
私は……未だに迷ってしまう。
自分の勘違いで相手を困らせたり、笑われたりするのが、怖い。
いつか私も彼のように、自分の気持ちに正直になれたら――
……え?
正直にって、なに、に?
心の中の問いへの答えはなかった。代わりに、急に心音が加速して、胸だけでなく、体全身が激しく脈打っている感覚が響く。
自分の席に戻るため、一歩一歩歩みを進めるたびに、その歩みがレイ様に近づくたびに、体が熱くなっていく。
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