虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・

文字の大きさ
43 / 44

第43話 閑話3 ~システィーナとルヴィス~(別視点)

しおりを挟む
 システィーナの姿は、城の屋上にあった。
 風が、システィーナの髪と、体を覆う長い上着を揺らしていく。

「夜空はどこも変わらんのぅ」

 そう呟くと、システィーナは首を少し後ろに向け、艶やかな口角を上げた。

「なぁ、ルヴィスとやら」
「気づいておられましたか……お邪魔であれば去ろうと思っていたのですが……」
「よい。丁度わしも、話し相手が欲しかったところじゃ」

 手に持った扇で口元を隠しながら、システィーナは艶やかに笑った。肌が見える面積が少なくはなったが、彼女が持つ妖艶な美しさは健在だ。
 システィーナは、国賓としてしばらくルミテリス王国に滞在することとなった。

「……クロラヴィア王国のシィとやらの正体が気になって、このまま国に帰っても夜しか寝れん」

 と謎の言い訳をしたことで、残ることになったのだ。
 レイも、フェンレア王国やその周辺諸国についての情報が欲しかったことと、

「……確かに、シィの正体が気になって、昼寝が出来ないのは辛いな、システィーナ殿」

 という、こちらもまた謎の納得をして、二つ返事で了承した形となった。
 そのやりとりを隣で聞いていたルヴィスが、こめかみを押さえたのは言うまでも無い。

 ルヴィスはゆっくりと歩みを勧めると、システィーナの隣に立った。二人の視線が、王都からさらに向こうに向けられる。

 クロラヴィア王国がある方へ――

「向き合わねばならんじゃろうな。クロラヴィア王国と。とんでもないことが起こる気がするのじゃ」
「やはりシスティーナ様もそう思われますか。陛下も同じことを仰っておられました」

 そう返答しながら、ルヴィスは先ほどまでかわしていたレイとのやりとりを思い出していた。

「『クロラヴィア王国への疑問を、これ以上先送りにするのは危険だ。今から真剣に向き合わなければ、取り返しの付かないことが起こる』と」
「やはり、レイ王も同じことを考えておったか。流石、わしが見込んだ男じゃな」

 薄く笑みを浮かべるシスティーナ。そんな彼女を、ルヴィスは不思議そうに見つめる。

「でも何故システィーナ様はそう思われたのですか? ちなみにレイ陛下は……」
「どうせあの男のことじゃ。『勘』じゃろ?」
「そ、その通りですが……」

 何で分かったの、こわっ……という心の声を若干表に出しながら、ルヴィスは頷いた。
 それを見て、システィーナが笑うと、腰に手をやって豊かな胸の膨らみを強調するように反らした。

「わしも『勘』じゃからのう!」
「は、はぁ……そ、そうですか……」

 システィーナの根拠に期待していたのだろう。親友と同じ理由を告げられ、ルヴィスは明らかに肩を落とした。
 だがシスティーナは気分を害した様子なく、口元を扇で隠しながら、目を細める。

「まあ、レイ王もわしと同じように、最終的な決断や判断を、自身の勘に委ねる種類の人間じゃからのう。じゃが――」

 深緑の瞳が鋭くなった。

「意外と侮れんもんじゃぞ? 身の危険をいち早く察知する本能的な機能じゃからのぅ。それにわしは、フェンレア王国の星詠みの一人として、国の未来を占っておるしな」
「星詠み……ですか。占いを政治に組み込んでおられるんですね」
「これでも、国一じゃと評判じゃぞ?」

 鋭い光を放っていたシスティーナの瞳が緩み、いたずらっ子のようにウィンクした。

 ルヴィスは理論的な思考をするため、占いは信じていない。様々なデータを見て、判断をするのが合理的かつ正しいと思っている。
 だが、システィーナの話を聞いた後も、彼女に対して胡散臭さは感じられなかった。

 国のトップとして、聖女として、統治者として自信に満ちあふれている。システィーナが女王として、どれだけの困難を乗り越えてきたのかがその横顔から伝わってきた。

 レイと同じように――

(なるほど……確かに、同じ種類の人間だな)

 システィーナの表情とレイの表情が被り、思わず口元が緩んでしまった。
 だがすぐさま、緩んだ唇に力を込める。

「ならば……システィーナ様はこの先をどう詠まれますか?」

 姿を見せないクロラヴィア王国の守護獣シィ。
 禁忌によって聖女にされ、生命力を捧げさせられている女性たち。
 セレスティアルが本物の聖女だと気づいていながら、それを告げること無く投獄された神官長ネルロ。

 不穏な事実を頭の中で並べながら、ルヴィスが訊ねる。
 システィーナは空を見上げ、瞳を閉じた。言葉を紡ぎ出す唇は、僅かに震えているように見えた。

「……視えぬ。だからこそ、気味が悪いんじゃ」
「そう、ですか……クロラヴィア王国に行けば……全てが明らかになるのでしょうか」
「そうかもしれん。じゃが、間違いなくセレスティアルも巻き込むことになるじゃろう。それはレイ王も承知しておるのか?」

 セレスティアルの境遇については、システィーナたちに軽く説明をしている。とはいえ、クロラヴィア王国の聖女だったが、素質を疑われ、結局追放されたことだけにとどめ、クロラヴィア王国に複数聖女がいる件については話していない。

 そのため、

「何故その王太子ってやつ、聖女を追放したんだ? アホなのかな? それとも馬鹿なのかな!?」

 と、聖女を大切に思っているルゥナが、疑問と怒りを露わにしていたが。

「まあ……陛下はその件については反対されていますね……何とかセレスティアル様には内密に動きたいと思っているようですが……」
「ま、無理じゃろうな。あの男に隠し事は」
「ですよねぇ……」

 二人ほぼ同時にため息をついた。

「ま、考えておっても埒があかぬ。わしらに協力出来ることがあれば、何でも言うが良い」
「ありがとうございます。とても心強いです」
「そうかそうか。わしに惚れても良いんじゃぞ?」
「それは遠慮しておきます」
「何じゃ、全く……主君が主君なら、家臣も家臣じゃな!」
「空気が読めないあの方と一緒にしないでください」
「ま、確かに、お主は空気が読めるからのぅ。失礼したな」

 上品な女性の笑い声が響き、ルヴィスもつられて笑った。だがやがて二人の笑い声が消え、目の前に広がる王都の光へと視線が移った。
 システィーナがポツリと呟く。

「賑やかじゃな」
「そうですね。しかし……少し前まではこうではありませんでした」

 ルヴィスの脳裏に、皆の苦しみを象徴するかのような、数少ない街の光が過った。過去のこととはいえ、思い出すと胸の奥が苦しくなる。

「ですがセレスティアル様が現れ、全てが救われました。民も、国も――」
「レイ王も、か?」

 それを聞き、ルヴィスは小さく笑った。そして両腕を組むと、システィーナからツンッと視線を逸らした。

「それを分かっておられながら、何故あそこで私の名前を出したのですか? お陰で、ティッカには私と陛下の仲を疑われるし、大変だったのですよ?」
「あそこでレイ王の本命を告げては面白くないじゃろ?」
「……全く、意地悪な御方だ」
「褒め言葉として受け取っておくぞ、ルヴィス。それにわしが言わなくとも、セレスティアルも近いうちにレイ王の気持ちに気づくじゃろうて。それまでは傍観者として、二人の恋愛模様を楽しませてもらうぞい」
「楽しませて貰うって……うちの国王の恋愛を娯楽にしないでください。こちらはルミテリス王家の存続がかかっているんですよ……」
「なぁに、案ずるな、ルヴィス」

 システィーナは呆れたように扇で肩を叩きながら、カラカラと笑った。

「あれほどのドデカい恋愛熱量を向けられいるのに気づかず、お主との関係を信じ続ける鈍感がいるなら、この目で見てみたいものじゃて」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

【完結】冷酷陛下はぬいぐるみ皇妃を手放せない~溺愛のツボはウサギの姿?それとも人間(中身)の私?~

りんりん
恋愛
「これが私ということですか? まさか冗談ですよね」 レイン様との初めての夜。 私は鏡の中の自分にかわいた笑い声をあげた。 真っ白なフワフワの身体。 丸い虹色の瞳。 なぜか私はお父様からいただいたぬいぐるみの姿になっていたからだ。 「何を企んでいるんだ。魔法でぬいぐるみになって、俺の寝首をかくつもりなのか」 レイン様は凍り付いた瞳を私にむけた。 レイン様の正式な名前はレイン・ファン・バルバドで、バルバド帝国の若き皇帝陛下でもある。 冷酷な事でしられるレイン様の二つ名は【血の雨】という。 そんな美しくも恐ろしい皇帝陛下にウサギ村の貧乏令嬢である 従姉妹に婚約者を奪われた私はひょんな事から嫁ぐことになった。 私はお金の為に。 陛下は政治的な立場をまもるための契約結婚だったけれど。 「皇妃がウサギになった事がばれるときっと大騒ぎになるだろう。 しばらくは俺達だけの秘密にしておくんだ」 そう言ってレイン様は私をポショットにいれて連れ歩く事にした。 貴族会議や公務にともなわれた私がポショットの中から見たのは、 レイン様の孤独や思いがけない温かさだった。 そしていつしかぬいぐるみの分際で、皇帝陛下を愛し始めていたのだ。 レイン様のお役に立ちたい。 その一心で聖獣ラビと契約を交わし不思議な魔法を使えるようにも なった。 なのにレイン様の反勢力派に捕らえられてしまう。 私はレイン様の弱みになりたくなかった。 だから彼らと一緒にこの世から消えるつもりだったのに。 騎士達を率いたレイン様が反勢力のアジトへ突入してきたのだ。 これは私、キャンディラビットがぬいぐるみになって冷酷皇帝陛下レイン様に溺愛される、ちょっと不思議なお話です。 (土曜日曜の二日間で一気に完結まで更新いたしますので、安心してお楽しみください。 よろしくお願いいたします)

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

処理中です...