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第6話 虚弱聖女と城
もの凄い勢いで周囲の景色が変わっていく。なのに、身体にかかるはずの風圧などはないのが不思議。
すぐそばでは、ラメンテの大きな白い翼が羽ばたいているのに、風も感じないなんて。
これが守護獣様のお力なの?
それにしても守護獣様の背中に乗る日が来るとは思わなかった。
やがて、目下に畑や家が見えてくる。
すすむにつれて、畑よりも建物が多くなっていく。街に近づいてきている証拠だ。
ルミテリス王国の情報は、祖国ではあまり聞かなかった。というのも、国交がなくなっていたからだ。
昔は多少交流があったとは聞いている。充分な準備をして、両国を行き来していたのだと。
だけど気づけば両国の交流はなくなっていて、ルミテリス王国の話が話題に上ることはなくなった。むしろ、もうすでに滅んでいるのではないかと思われていたほどだ。
それほど結界の外に出るのは、危険なのだ。
私は幸運にも生きて辿り着くことが出来たけれど。
「二人とも見えてきたよ!」
ラメンテの言葉通り、ひときわ大きな建物が見えてきた。
お城だ。
あそこが、レイ様とラメンテが暮らす場所。
ラメンテの動きが城の真上で止まる。そしてゆっくりと降下し出した。大きな影が広い中庭に落ちると、混乱が起こった。
人々が指さし、中には悲鳴を上げている者もいる。
人々が遠巻きに見守る中、ラメンテの四足が地面についた。それと同時に、私たちの身体がふわっと浮き上がり、地面に下ろされた。
ほんと、便利な力だわ。
レイ様が地面に降りた瞬間、周囲から声があがった。
「れ、レイ陛下っ!?」
「それにしても、あの巨大な獣は一体!?」
皆が混乱して叫ぶ中、レイ様の声がひときわ大きく響き渡った。空気がビリビリと震え、この場にいる者たちの鼓膜を大きく震わせる。
「落ち着け、皆の者! この獣は、我がルミテリス王国の守護獣、ラメンテだ!」
混乱していた人々の視線が、ラメンテに向けられる。その表情は、納得している者、まだ認められない者、疑いの視線を送る者と、様々だ。
ラメンテもここの空気感を感じ取ったのだろう。クスッと笑うと、
「確かに、この姿じゃみんなびっくりするし、お城の中にも入れないよね」
と呟いた瞬間、彼の身体が再び輝きだした。
光はみるみるうちに収束していくと、私が出会った小さなラメンテに戻っていた。
それを見て、ようやく周囲の人々の口から安堵の言葉が洩れ、張り詰めた空気が緩むのを感じた。まだざわついている中、ぽつりぽつりと自分たちの仕事に戻ろうとする人も出てきた。
だけど、何だろう?
違和感に気づき、私は心の中で首をかしげる。
……ああ、そうか。
王様が戻ってきたというのに、周囲の反応が薄いせいだわ。普通なら、護衛一人つけずに城をでたのだから、皆が駆け寄ってきたりして大騒ぎするのに、心なしか、レイ様に向ける視線も冷たいような……
そのとき、慌ててこちらに駆け寄ってくる男性の姿が見えた。金髪の男性だ。年齢はレイ様と近い。
「レイ陛下!」
「おお、ルヴィスか」
ルヴィスと呼ばれた男性の声に、レイ様がのんきに手を上げながら答えると、ルヴィスさんの灰色の双眸がつり上がった。
怒っているみたい。
「ラメンテ様もいない、陛下も突然飛び出す! 一体どこにいらしたのです……」
「ルヴィス、すまないが説教は後で聞く。今は……」
レイ様が私の方を見た。その視線で、ルヴィスさんは初めて私の存在に気づいたようだ。灰色の瞳を大きく見開き、レイ様に訊ねる。
「こ、この女性は?」
「ラメンテの恩人だ。結界の外にいたそうだ。体調を崩しているため、ゆっくり休ませてやりたい。部屋と医師の準備をしてくれ」
「結界の外に!?」
ルヴィスさんの視線が再び私に戻る。彼が素早く私の全身を見たかと思うと、僅かに眉間に皺が寄り、哀れむように瞳が細められた。
「確かに、顔色も良くないし、お身体も痩せ細っている。お気の毒に……」
「あっ、それは……」
痩せ細っているのは元々で……
そう言おうとしたけれど、
「では行こうか、セレスティアル」
「は、はいっ……きゃぁっ!」
頷いた瞬間、身体が浮遊感に襲われ、思わず悲鳴を上げてしまった。
レイ様が、私の身体を横抱きされたからだ。驚いてしまい、咄嗟に彼の首元にしがみついてしまう。
身体が密着する。
布越しで伝わってくる彼の体温に、脈が速くなっていく。
全身が熱くなって――
「陛下、了承も得ずに抱き上げるなど……相手が驚かれているではありませんか」
ルヴィスさんがレイ様を諫めた。
そうそうそれ! と心の中で同意し、下ろしてくれるように彼を見上げると、レイ様と目が合った。
赤い瞳が優しく細められる。
「そうか、すまなかったな、セレスティアル。君の体調が心配だったから抱き上げて運びたかった。さて、きちんと説明したし、これで問題ないな?」
いやいや!
問題大ありなんですけど!!
ラメンテはラメンテで、
「良かったね、セレスティアル!」
とか言ってるし!
ただルヴィスさんだけが、私の気持ちを肯定するように、ため息をついていた。まあ、何もしてくれなかったけれど!
結局私は、レイ様の申し出を断ることも出来ず、みんなの視線にさらされながら運ばれた。
……レイ様って実は、ちょっと変わっている方なのかもしれない。
一人で護衛も付けず、ラメンテを探しに来るような人だし。
だけど、決して不快ではない。
歩く振動が私の身体に伝わってくる。規則正しい動きと、レイ様の体温、そして自分が今も生きている安堵によって、急激に眠気が襲ってきた。
きっとレイ様に運ばれた時間も距離も、それほど長くはなかったはず。だけど私が意識を手放すには充分すぎる時間だった。
すぐそばでは、ラメンテの大きな白い翼が羽ばたいているのに、風も感じないなんて。
これが守護獣様のお力なの?
それにしても守護獣様の背中に乗る日が来るとは思わなかった。
やがて、目下に畑や家が見えてくる。
すすむにつれて、畑よりも建物が多くなっていく。街に近づいてきている証拠だ。
ルミテリス王国の情報は、祖国ではあまり聞かなかった。というのも、国交がなくなっていたからだ。
昔は多少交流があったとは聞いている。充分な準備をして、両国を行き来していたのだと。
だけど気づけば両国の交流はなくなっていて、ルミテリス王国の話が話題に上ることはなくなった。むしろ、もうすでに滅んでいるのではないかと思われていたほどだ。
それほど結界の外に出るのは、危険なのだ。
私は幸運にも生きて辿り着くことが出来たけれど。
「二人とも見えてきたよ!」
ラメンテの言葉通り、ひときわ大きな建物が見えてきた。
お城だ。
あそこが、レイ様とラメンテが暮らす場所。
ラメンテの動きが城の真上で止まる。そしてゆっくりと降下し出した。大きな影が広い中庭に落ちると、混乱が起こった。
人々が指さし、中には悲鳴を上げている者もいる。
人々が遠巻きに見守る中、ラメンテの四足が地面についた。それと同時に、私たちの身体がふわっと浮き上がり、地面に下ろされた。
ほんと、便利な力だわ。
レイ様が地面に降りた瞬間、周囲から声があがった。
「れ、レイ陛下っ!?」
「それにしても、あの巨大な獣は一体!?」
皆が混乱して叫ぶ中、レイ様の声がひときわ大きく響き渡った。空気がビリビリと震え、この場にいる者たちの鼓膜を大きく震わせる。
「落ち着け、皆の者! この獣は、我がルミテリス王国の守護獣、ラメンテだ!」
混乱していた人々の視線が、ラメンテに向けられる。その表情は、納得している者、まだ認められない者、疑いの視線を送る者と、様々だ。
ラメンテもここの空気感を感じ取ったのだろう。クスッと笑うと、
「確かに、この姿じゃみんなびっくりするし、お城の中にも入れないよね」
と呟いた瞬間、彼の身体が再び輝きだした。
光はみるみるうちに収束していくと、私が出会った小さなラメンテに戻っていた。
それを見て、ようやく周囲の人々の口から安堵の言葉が洩れ、張り詰めた空気が緩むのを感じた。まだざわついている中、ぽつりぽつりと自分たちの仕事に戻ろうとする人も出てきた。
だけど、何だろう?
違和感に気づき、私は心の中で首をかしげる。
……ああ、そうか。
王様が戻ってきたというのに、周囲の反応が薄いせいだわ。普通なら、護衛一人つけずに城をでたのだから、皆が駆け寄ってきたりして大騒ぎするのに、心なしか、レイ様に向ける視線も冷たいような……
そのとき、慌ててこちらに駆け寄ってくる男性の姿が見えた。金髪の男性だ。年齢はレイ様と近い。
「レイ陛下!」
「おお、ルヴィスか」
ルヴィスと呼ばれた男性の声に、レイ様がのんきに手を上げながら答えると、ルヴィスさんの灰色の双眸がつり上がった。
怒っているみたい。
「ラメンテ様もいない、陛下も突然飛び出す! 一体どこにいらしたのです……」
「ルヴィス、すまないが説教は後で聞く。今は……」
レイ様が私の方を見た。その視線で、ルヴィスさんは初めて私の存在に気づいたようだ。灰色の瞳を大きく見開き、レイ様に訊ねる。
「こ、この女性は?」
「ラメンテの恩人だ。結界の外にいたそうだ。体調を崩しているため、ゆっくり休ませてやりたい。部屋と医師の準備をしてくれ」
「結界の外に!?」
ルヴィスさんの視線が再び私に戻る。彼が素早く私の全身を見たかと思うと、僅かに眉間に皺が寄り、哀れむように瞳が細められた。
「確かに、顔色も良くないし、お身体も痩せ細っている。お気の毒に……」
「あっ、それは……」
痩せ細っているのは元々で……
そう言おうとしたけれど、
「では行こうか、セレスティアル」
「は、はいっ……きゃぁっ!」
頷いた瞬間、身体が浮遊感に襲われ、思わず悲鳴を上げてしまった。
レイ様が、私の身体を横抱きされたからだ。驚いてしまい、咄嗟に彼の首元にしがみついてしまう。
身体が密着する。
布越しで伝わってくる彼の体温に、脈が速くなっていく。
全身が熱くなって――
「陛下、了承も得ずに抱き上げるなど……相手が驚かれているではありませんか」
ルヴィスさんがレイ様を諫めた。
そうそうそれ! と心の中で同意し、下ろしてくれるように彼を見上げると、レイ様と目が合った。
赤い瞳が優しく細められる。
「そうか、すまなかったな、セレスティアル。君の体調が心配だったから抱き上げて運びたかった。さて、きちんと説明したし、これで問題ないな?」
いやいや!
問題大ありなんですけど!!
ラメンテはラメンテで、
「良かったね、セレスティアル!」
とか言ってるし!
ただルヴィスさんだけが、私の気持ちを肯定するように、ため息をついていた。まあ、何もしてくれなかったけれど!
結局私は、レイ様の申し出を断ることも出来ず、みんなの視線にさらされながら運ばれた。
……レイ様って実は、ちょっと変わっている方なのかもしれない。
一人で護衛も付けず、ラメンテを探しに来るような人だし。
だけど、決して不快ではない。
歩く振動が私の身体に伝わってくる。規則正しい動きと、レイ様の体温、そして自分が今も生きている安堵によって、急激に眠気が襲ってきた。
きっとレイ様に運ばれた時間も距離も、それほど長くはなかったはず。だけど私が意識を手放すには充分すぎる時間だった。
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