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第9話 虚弱聖女と説明
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「セレスティアル、君が結界の外にいたことは、ラメンテから聞いている。一体何故あんな危険な場所にいたのか、もし良かったら話して貰えないか?」
少しだけ話すかどうか迷った。
だって私は追放された身。下手をすれば、ここでも罪人だと思われる可能性だってある。
しかし……
「俺は、君に何か深刻な事情があったのだと思っている。だから臆せず話してもらいたい」
まるで心の内を見透かすようなレイ様の真っ直ぐな発言に、私は正直に全てを話すことを決意した。
私が、クロラヴィア王国の守護獣様に仕える聖女だったこと。
しかし守護獣様に力を与えるといつも疲労で動けなくなり、皆に迷惑をかけていたこと。
他の聖女の足を引っ張っていることで私の聖女としての資質が疑われ、聖女としての儀式も受けていないことを理由に、とうとう追放されてしまったこと。
「……それで、命からがら、なんとかこの国に辿り着き、ラメンテに助けて貰ったのです。もし助けて貰えなければ私……どうなっていたことか……」
自分の身体を抱きしめる。
どうなっていたことか、なんと言葉を濁したけれど、間違いなく死んでいたことは分かる。
ふわっと私の肌を、暖かな毛が撫でた。ラメンテが安心させるように私に身をすり寄せてきたのだ。
「大変だったね、セレスティアル……君を助けられて、本当に良かったよ」
モフモフが気持ちよくて、私はラメンテの首を抱きしめ、長い毛に顔を埋めた。
お日様のどこか懐かしい匂いがする。
心が落ち着く――
ルヴィスさんがポツリと呟いた。
「クロラヴィア王国との行き来がなくなって久しいですが、存続していたのですね。それも、あなた様を含めて四人もの聖女がいるなんて」
「ああ、羨ましい限りだな。この国ではラメンテが現れてから今までずっと、聖女が見つからなかったからな」
ルヴィスさんの言葉に、レイ様も両腕を組みながら同意した。お二人の会話に思わず口を挟んでしまう。
「そういえば、そんなことを仰っていましたよね。だからラメンテが弱ってしまい、結界が維持できなくなりつつあると」
「ああ、そうだ」
レイ様は立ち上がると、部屋の窓に寄り、外を見た。快活な彼の背中が暗く見えたのは、決して影のせいだけじゃないと思う。
「ラメンテは二百年ほど前に、突然この地に現れた守護獣だ。結界の外を行き来していた者たちがラメンテを見つけ、興したのがルミテリス王国だとされている。彼はそれからずっと、この国を守ってきてくれたんだ」
小さく息を吐き出す音とともに、レイ様の肩が僅かに落ちた。
「しかし、守護獣に力を与える聖女が現れなかった。ラメンテは自分の力を削って今まで結界を維持し続けてくれていた。しかしそれにも限界があった。結界は年々小さくなり、俺が王になってからは四つの村と街が結界の外に出てしまい、人々が避難する羽目になった。結界内の豊かさも失われつつある」
ラメンテがうなだれ、ルヴィスさんは瞳を伏せた。僅かな沈黙の後、レイ様が申し訳なさそうに眉根を寄せながらこちらを振り返る。
「……いや、すまない。君を追放した国を、羨ましいなどと言ってしまって。配慮が足りなかった」
「いえ、いいんです」
首を横に振る。
ラメンテと出会ったときの姿と本来の姿を思い出すと、レイ様がうらやましがるのも無理はない。
国土が小さくなっているとなれば、なおさらだ。
「でも、もう大丈夫だよ、レイ」
ラメンテの明るい声が、重々しい空気を払った。期待で満ちあふれた金色の瞳が、私を見ている。
「セレスティアルが……聖女がこの国にやってきてくれた。もう心配することはないよ」
「ま、待って! わたし……」
そう言いかけて言葉が止まった。祖国での扱いや、追放されたときのことを思い出したからだ。
胸の奥が苦しくなる。
ラメンテの期待が、失望に変わると思うと怖くて堪らなかった。
また同じような理由で追放されたら……
「私、祖国では聖女ではないと……偽物だと言われて追放されたの。だから本当に聖女かどうかは……」
「聖女だよ、セレスティアルは」
確信に満ちた声色が、私の鼓膜を震わせた。
顔を上げると、ラメンテが真っ直ぐこちらを見ていた。私と視線が合うと、彼の瞳が細められた。
「セレスティアルは、本物の聖女だ。弱っていた僕を元気にしてくれたじゃないか。おかげで僕は、本来の力と姿を取り戻すことが出来た」
「あ、あれはたまたま……」
「たまたまで、守護獣に力を与えることなんて、普通はできないよ。君が聖女であることは、守護獣である僕が保証する。むしろ……何で君の祖国の守護獣が、それを言ってやらなかったのか、疑問すらあるけどね」
「守護獣様は、姿をお見せにならないから……」
至極まっとうな返しをされ、私はそう返答することしか出来なかった。
そのとき、
「セレスティアル様? 一つお聞きたいのですが……」
ルヴィスさんが控えめに手を上げた。
「今までのお話を聞いていて、疑問に思ったのですが……あなた様は確か、守護獣様に力を与えると疲れて動けなくなるため、追放されたんですよね?」
「え、ええ、そうですけど……」
頷くと同時に、ルヴィスさんが本当に聞きたいことに気づき、私は小さく声を上げた。
勢いよくルヴィスさんを見ると、彼もほぼ同時に頷き口を開いた。
「なら、何故ラメンテ様に力を与えたときには、疲れなかったのでしょうか?」
「ほ、本当です! 何で……」
ラメンテに力を与えた後の自分を思い出しても、疲労困憊になって動けなくなった事実はない。
今も自分の身体に意識を向ける。
……うん、元気。
間違いなく元気。むしろここ最近の中で一番元気すらある。
「……祖国で力を与えていたときは、あんなに疲れていたのに……どうして?」
私は答えを持っているであろうラメンテに視線を向けた。しかしラメンテは困ったように、私の隣で身を伏せる。耳がぺたんと垂れた。
「……ごめん、セレスティアル。僕には分からないんだ」
「え? そうなの? ラメンテは守護獣様だから、理由が分かるって思ったんだけど……」
「きっと普通はそうなんだろうけど……」
口ごもるラメンテ。
ルヴィスさんの表情も曇っている。
どうしたのかとレイ様を見ると、彼は少し悲しそうに瞳を伏せて仰った。
「ラメンテには、ルミテリス王国に現れた以前の記憶がないのだ」
少しだけ話すかどうか迷った。
だって私は追放された身。下手をすれば、ここでも罪人だと思われる可能性だってある。
しかし……
「俺は、君に何か深刻な事情があったのだと思っている。だから臆せず話してもらいたい」
まるで心の内を見透かすようなレイ様の真っ直ぐな発言に、私は正直に全てを話すことを決意した。
私が、クロラヴィア王国の守護獣様に仕える聖女だったこと。
しかし守護獣様に力を与えるといつも疲労で動けなくなり、皆に迷惑をかけていたこと。
他の聖女の足を引っ張っていることで私の聖女としての資質が疑われ、聖女としての儀式も受けていないことを理由に、とうとう追放されてしまったこと。
「……それで、命からがら、なんとかこの国に辿り着き、ラメンテに助けて貰ったのです。もし助けて貰えなければ私……どうなっていたことか……」
自分の身体を抱きしめる。
どうなっていたことか、なんと言葉を濁したけれど、間違いなく死んでいたことは分かる。
ふわっと私の肌を、暖かな毛が撫でた。ラメンテが安心させるように私に身をすり寄せてきたのだ。
「大変だったね、セレスティアル……君を助けられて、本当に良かったよ」
モフモフが気持ちよくて、私はラメンテの首を抱きしめ、長い毛に顔を埋めた。
お日様のどこか懐かしい匂いがする。
心が落ち着く――
ルヴィスさんがポツリと呟いた。
「クロラヴィア王国との行き来がなくなって久しいですが、存続していたのですね。それも、あなた様を含めて四人もの聖女がいるなんて」
「ああ、羨ましい限りだな。この国ではラメンテが現れてから今までずっと、聖女が見つからなかったからな」
ルヴィスさんの言葉に、レイ様も両腕を組みながら同意した。お二人の会話に思わず口を挟んでしまう。
「そういえば、そんなことを仰っていましたよね。だからラメンテが弱ってしまい、結界が維持できなくなりつつあると」
「ああ、そうだ」
レイ様は立ち上がると、部屋の窓に寄り、外を見た。快活な彼の背中が暗く見えたのは、決して影のせいだけじゃないと思う。
「ラメンテは二百年ほど前に、突然この地に現れた守護獣だ。結界の外を行き来していた者たちがラメンテを見つけ、興したのがルミテリス王国だとされている。彼はそれからずっと、この国を守ってきてくれたんだ」
小さく息を吐き出す音とともに、レイ様の肩が僅かに落ちた。
「しかし、守護獣に力を与える聖女が現れなかった。ラメンテは自分の力を削って今まで結界を維持し続けてくれていた。しかしそれにも限界があった。結界は年々小さくなり、俺が王になってからは四つの村と街が結界の外に出てしまい、人々が避難する羽目になった。結界内の豊かさも失われつつある」
ラメンテがうなだれ、ルヴィスさんは瞳を伏せた。僅かな沈黙の後、レイ様が申し訳なさそうに眉根を寄せながらこちらを振り返る。
「……いや、すまない。君を追放した国を、羨ましいなどと言ってしまって。配慮が足りなかった」
「いえ、いいんです」
首を横に振る。
ラメンテと出会ったときの姿と本来の姿を思い出すと、レイ様がうらやましがるのも無理はない。
国土が小さくなっているとなれば、なおさらだ。
「でも、もう大丈夫だよ、レイ」
ラメンテの明るい声が、重々しい空気を払った。期待で満ちあふれた金色の瞳が、私を見ている。
「セレスティアルが……聖女がこの国にやってきてくれた。もう心配することはないよ」
「ま、待って! わたし……」
そう言いかけて言葉が止まった。祖国での扱いや、追放されたときのことを思い出したからだ。
胸の奥が苦しくなる。
ラメンテの期待が、失望に変わると思うと怖くて堪らなかった。
また同じような理由で追放されたら……
「私、祖国では聖女ではないと……偽物だと言われて追放されたの。だから本当に聖女かどうかは……」
「聖女だよ、セレスティアルは」
確信に満ちた声色が、私の鼓膜を震わせた。
顔を上げると、ラメンテが真っ直ぐこちらを見ていた。私と視線が合うと、彼の瞳が細められた。
「セレスティアルは、本物の聖女だ。弱っていた僕を元気にしてくれたじゃないか。おかげで僕は、本来の力と姿を取り戻すことが出来た」
「あ、あれはたまたま……」
「たまたまで、守護獣に力を与えることなんて、普通はできないよ。君が聖女であることは、守護獣である僕が保証する。むしろ……何で君の祖国の守護獣が、それを言ってやらなかったのか、疑問すらあるけどね」
「守護獣様は、姿をお見せにならないから……」
至極まっとうな返しをされ、私はそう返答することしか出来なかった。
そのとき、
「セレスティアル様? 一つお聞きたいのですが……」
ルヴィスさんが控えめに手を上げた。
「今までのお話を聞いていて、疑問に思ったのですが……あなた様は確か、守護獣様に力を与えると疲れて動けなくなるため、追放されたんですよね?」
「え、ええ、そうですけど……」
頷くと同時に、ルヴィスさんが本当に聞きたいことに気づき、私は小さく声を上げた。
勢いよくルヴィスさんを見ると、彼もほぼ同時に頷き口を開いた。
「なら、何故ラメンテ様に力を与えたときには、疲れなかったのでしょうか?」
「ほ、本当です! 何で……」
ラメンテに力を与えた後の自分を思い出しても、疲労困憊になって動けなくなった事実はない。
今も自分の身体に意識を向ける。
……うん、元気。
間違いなく元気。むしろここ最近の中で一番元気すらある。
「……祖国で力を与えていたときは、あんなに疲れていたのに……どうして?」
私は答えを持っているであろうラメンテに視線を向けた。しかしラメンテは困ったように、私の隣で身を伏せる。耳がぺたんと垂れた。
「……ごめん、セレスティアル。僕には分からないんだ」
「え? そうなの? ラメンテは守護獣様だから、理由が分かるって思ったんだけど……」
「きっと普通はそうなんだろうけど……」
口ごもるラメンテ。
ルヴィスさんの表情も曇っている。
どうしたのかとレイ様を見ると、彼は少し悲しそうに瞳を伏せて仰った。
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