虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・

文字の大きさ
16 / 44

第16話 虚弱聖女と禁忌

 ラメンテは、レイ様の傍に近寄ると身をすり寄せ、どことなく哀れむような表情で彼を見つめる。

「……レイ、そんなことを考えていたの?」
「ああ、一時な。国を救うには、それしか方法はないと思っていた」

 頷いたレイ様に迷いはなかった。

「ど、どういうことですか!? レイ様がルミテリス王国のために死ぬって……」

 部外者だと分かっていたけれど、訊ねずにはいられなかった。
 答えてくれたのは、ラメンテ。

「守護獣に力を与えられるのは……実は聖女だけじゃないんだよ」
「えっ?」

 聖女だけじゃ……ない?

 予想だにしなかった返答に、私は驚きの声を上げてしまった。そして次に沸いて出てきた疑問を口にする。

「聖女以外にも守護獣様に力を与えられるって、一体どういう方法で?」

 嫌な予感がした。

 だってラメンテに力を与える方法が他にもあるなら、ルミテリス王国が衰退するはずがないから。
 レイ様が悪役になって、民たちからの憎しみを一身に引き受けることだってなかったはず。

 その方法がとられていないと言うことは――何か理由があるはず。

 ラメンテの金色の瞳が鋭くなった気がした。

「……人間の生命力――つまり、僕に命を捧げる方法だよ」

 嫌な予感はしていたけれど、まさかここまでとは……

 言葉を失っている私に、ラメンテがさらに続ける。

「守護獣に力を与える方法は、聖女から以外に、普通の人間から命を捧げられることでも可能なんだ」
「命を捧げるって、どうやって……」
「僕の血を飲むと特別なつながりが出来るんだよ。だけどこれは……恐らく、やっちゃ駄目なことなんだと思う。理由は分からないけれど……もの凄く嫌な感じがするから」

 そう話すラメンテの身体が、僅かに震えているように見えた。恐ろしくて震えているように見える。

 人間の命で力を与えて貰うことは、ラメンテにとって恐怖を覚えるほど何か良くないことみたい。

 だけど私からの視線を感じ取ったのか、慌てて、

「あ、聖女の力は大丈夫だからね! 聖女の力は、安全に守護獣に力を与える正しい方法なんだと思う!」

と言っていたけど。

 続けて話し出したのは、ルヴィスさんだった。

「その話をラメンテ様からされたとき、レイは私に言ったんです。自分の命をラメンテ様に捧げて、国を救うと。それが国王となった自分の役目だと……」
「大層だな。別に命を捧げたらすぐに死ぬわけじゃない。じわじわ生命力が奪われ、早死にするぐらいだ。それに、俺の命一つで百年ほど結界が維持出来るなら、安いものだろ」
「全くお前ってやつは……」

 全く悪びれた様子のないレイ様を睨み付けながら、ルヴィスさんが言葉を続ける。

「だから私はレイを説得しました。それは最終手段だと。ならレイはひとまず、国が衰退して絶望している民たちを力づけるため、自分が悪役になると言い出して……」
「絶望して無気力になるよりも、怒りを持っていた方が生きる気力になると思ったからな。だから俺がラメンテの力を独占していると噂を流させ、民たちから倒すべき悪役国王と思わせるようにしたんだ」

 レイ様が誇らしげに胸を張る。だけど、

「……ま、すぐに皆から嘘だってばれていたけどな」

 と、ルヴィスさんに突っ込まれると、ガクッと肩を落とされた。

 ルヴィスさんの説明はこうだった。

 レイ様がラメンテに命を捧げて死ぬことを避けるため、レイ様が悪役国王になる手伝いをしたらしい。
 しかしレイ様の性格を知っている周囲の人々は、彼が嘘をついていると即時に見抜き、ルヴィスさんに相談。
 もし悪役の演技がばれているとレイ様が知ったら、今度こそ本当にラメンテに命を捧げてしまうかもしれないからと、皆で騙されたフリをしようと決めたらしい。

「しかし国の問題は、セレスティアル様が現れたことで解決しました。だから今日にでも真実を明かそうと思っていたのに、まさかこんなにも早くレイが行動するとは……」
「ま、思いついたら即行動が俺のモットーだからな」
「それが今回裏目に出てるからな!」

 レイ様を睨み付けながら、ルヴィスさんが突っ込み、話は終わった。

 そういうことだったのね。
 レイ様が悪役を演じていたのは民たちに生きる気力を持って欲しかったから。
 民たちが騙されたフリをしていたのは、レイ様を死なせないようにするため。

 騙したり、騙されたフリをしたこと事態は、良くないことだとは思う。だけどお互いがお互いを思いやった結果だと考えると、良くないことだと一言で片づけられないように思った。

 レイ様が国を愛し、
 国民もレイ様を愛しているという証明に他ならないのだから。

「だからもう、悪役を演じる必要はない。戻って来い、レイ」
「いや、置き手紙もしてかっこよく出て行ったから、今更戻るのも恥ずかし――」
「恥じらうような繊細な心の持ち主でもないだろ、お前は!」
「……いやいや、お前、俺のことをなんだと思ってる?」

 呆れたようにレイ様がルヴィスさんに突っ込んでいる。だけどその表情は少し嬉しそうで……
 そして少しの間の後、

「……本当に、戻って良いのか? 俺なんかが国王のままでいていいのか?」

 静かな呟きに、ルヴィスさんが力強く頷き返した。

「当たり前だ。皆もそう思っている。ローグ公爵なんて、昨日自分が言いすぎたんじゃないかって落ち込んでおられたぞ?」
「あー……そうか。あれも演技だったのか。すっかり騙されたな」
「それに、これから安定したルミテリス王国で穏やかな余生を過ごそうと思っていたのに、急に国を任されて困るとも仰っていたな」
「その考えは、王族としてどうなんだ……」

 レイ様が苦笑いを浮かべた。

 良かった。
 レイ様、城に戻ってこられるのね。

 安堵の気持ちが心を満たす。
 その気持ちが、自然と笑みとなって表に出る。

 レイ様と国民たちの関係を、正しい形へ戻すことが出来た。それだけで、聖女になって良かったと思う。
 それに……二度と会えないかもしれないと思ったレイ様と、また会えたことが、とても嬉しい。

 あれ? 何か目の前がぼやけて……

「セレスティアル? ど、どうした!? 突然涙を流して!」

 レイ様の慌て慌てふためいた声色に、初めて自分が涙を流していることに気づいた。
 気付きと同時に、心の奥底に留めていた本心が言葉になって涙とともに零れ落ちる。

「本当に……本当に良かったです、レイ様。心配したんですから……本当に、突然いなくなって、心配したんですから……」
「わ、悪かった。だけど君には、手紙を残していたはずだが?」
「えっ? 手紙?」

 そんなのあった?

 私の心の声が顔に出たのか、レイ様は苦笑いをした。

「昨日の夜中、君の部屋のテーブルの上にこっそり置いていたはずだ。俺が城を出ることもそこに書いてあった。君に心配かけないように」
「み、見てません、けど?」
「おかしいな。確かに手紙を……」

 と言いかけて、ズボンのポケットに手を入れたレイ様の動きが止まった。ポケットから引き出した手が握っていたのは、白い封筒に入った手紙。

 レイ様の顔が、みるみるうちに、やってしまった……という表情へと変わる。

「すまなかった。つい、手紙を渡しそびれていたようだ。だが、もうこれも必要ないだろう」

 手紙をクシャッと丸めると、レイ様は再びポケットに入れてしまった。

 それにしても、何故私には手紙を書いてくださったの? 普通手紙を書くなら、親しい関係であるルヴィスさんだと思うのだけれど。

 レイ様の手が伸び、私の頬に触れた。涙の筋を指で拭い、申し訳なさそうにこちらを見る。

「本当に悪かった。だから俺を、嫌いにならないで欲しいんだが……」
「き、嫌いになんてなりません! だからもう、黙っていなくならないでください」
「ああ、約束する。ずっとそばにいることを」
「絶対ですからね? 今回みたいに一人でお城を出ないでくださいね?」
「もちろんだとも」

 良かった……
 ここまで断言してくれたのだから、今回みたいに、黙ってラメントやルヴィスさんの傍を離れたりしないはず。

 神妙な面持ちで深く頷くレイ様を見て、彼の本気を見た私は、今度こそ本当に胸を撫で下ろした。

 それにしても、レイ様が私に渡そうとした手紙には、何が書いていたの?

 気にはなったけれど、それを問う勇気は私にはなかった。

 ただルヴィスさんだけが、

「これは完全に……だな……」

と、何故か呆れたようにため息をついていたのが印象的だった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された聖女ですが、辺境で幸せにお務めをしています  〜追放の主犯の姉は、聖女の務めに耐えられず破滅しました〜

ゆうき
恋愛
幼い頃から聖女として酷使され、家族にも愛されなかったベル。 双子の姉に婚約者を奪われ、ついには「聖女の務めを放棄し、姉に押し付けた」という濡れ衣を着せられ、危険な辺境へ追放されてしまう。 ――こんな地獄から解放されるなら、どこへでも行く。 しかし、辿り着いた地でベルを待っていたのは、温かい歓迎と、人々の優しさだった。 中でも辺境伯で騎士団長のリオネルは、厳つい姿とは裏腹に穏やかで優しく、ベルを大切にしてくれた。 一方、王都では姉が聖女の務めに追い詰められ、次第に破綻していく。 さらに、リオネルの隠された秘密と、辺境を覆う瘴気の謎が、ベルの運命を大きく揺るがす――。 ☆全四十六話。予約投稿済みです。タイトルを変えました。前タイトル『婚約破棄に追放? 謹んでお受けいたしますので、もう放っておいてください』☆

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」 婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。 罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。 それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。 しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。 「どんな場所でも、私は生きていける」 打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。 これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。 国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!