虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・

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第17話 祖国にて2(別視点)

 キアラはふらつきながら部屋に戻った。そして大きな天蓋付きのベッドの上に、倒れるように横になる。

(身体が辛い……これ以上動きたくない……)

 自身の身体を抱きしめながら、キアラはベッドの上で丸くなった。

 セレスティアルを追放してから、二月ほど経っただろうか。

 供儀を重ねる毎に、身体の不調はどんどんと酷くなっていく。他の聖女たちに知られないよう平然を装っているが、人目がなくなれば今のように耐えられなくなってしまうのだ。

 供儀が終わると、いつも全力疾走をしたかのように、心臓が早鐘を打つ。息が荒くなり、肩で呼吸をしている状態になる。両膝に力が入らず、床にへたり込んでしまいたくなる。

(一体……私の身体に何が起こっているというの? これじゃ、あの平民のことを言えないじゃない!)

 身体に不調が起こる度に思い浮かぶのは、オズベルトと共謀して追放した、セレスティアルの顔。

 あの女は、供儀の後に倒れてしまうという理由で、追放されたのだ。このままでは、キアラも同じ理由で、聖女の資質を問われてしまう。

 オズベルトとの仲も深まってきている。
 王太子妃の座までもう少しという大切な時期に、全てを台無しにするわけにはいかないのだ。

(ロディシアとベアトリスはどうなのかしら?)

 キアラに体調不良が出てきた後、他の二人の様子も観察するようになったが、あの二人も供儀の後、疲れているように見えた。

 事実なのか、キアラの願望がそう見せているのかは、分からないが……

 だがそれを訊ね、キアラの体調不良がばれてしまえば、あの二人は嬉々としてオズベルトに報告してしまうだろう。

 表向きは友好的ではあるが、隙あらばオズベルトの婚約者の座を奪おうと考えている敵なのだから。

 キアラは、着けていた白い艶やかな手袋を外した。手の甲を撫でると、ザラッとした感覚が伝わってくる。

 手の荒れも酷くなっている気がする。
 クリームを塗り、手袋をつけて保湿をしているが、一向に良くはならない。

 少しでも手入れを怠ると、白い粉が吹き出すほど、キアラの手は荒れていた。最近では、肌荒れは手だけにとどまらず、腕などにも見られるようになってきたため、肌を見せるドレスが着られなくなってきていた。
 以前は、艶やかな肌を誇り、周囲に見せつけるように、肌の出たドレスを身につけていたというのに。

(今度お父様に、もっと良いクリームを手配するようお願いしましょう。きっと季節的に、肌荒れをする時期なんだわ)

 そう無理矢理結論づけると、キアラは少しでも身体を休めるために、目を閉じた。 

 *

「キアラ、大丈夫か? 何だか最近、顔色が悪い気がするんだが」
「え? だ、大丈夫です! ご心配いただき、ありがとうございます、オズベルト殿下」

 オズベルトと会話を楽しんでいたキアラだったが、不意に心配そうに体調を気遣われ、咄嗟に嘘をついた。

 本当は、今だって身体がだるくて堪らない。
 
 今日だって供儀の後、部屋に引きこもってベッドの上で横になりたかったが、オズベルトが訪ねてきたため、無理を押してここにいる。

 相手が王太子でなければ、問答無用で断っていただろう。

 キアラは取り繕うように笑顔を作った。しかしオズベルトはキアラの反応を素直に受け取らず、眉間に皺を寄せた。

「何か悩みでもあるのか? もしかして、あの偽聖女以外に、君の心を悩ませる聖女がいるのか? それなら私が排除を……」
「ち、違います! ベアトリスもロディシアも、あの偽物と違って、とても良い子たちです!」
「それならいいが……」

 喰い気味に否定するキアラに、オズベルトは僅かに安堵した様子を見せた。彼女の反応から本心だと察したのだろう。そう感じ取ったキアラも、ホッと胸をなで下ろした。

 とはいえあの二人も、供儀の後は部屋に引きこもることが多くなった。今までは、三人でお茶をしたりと、多少の交流はあったというのに。

 だが、オズベルトが自分のことを気遣ってくれるうれしさが、同僚聖女たちへの違和感を消してしまう。

 オズベルトは、キアラを傷つける者を許さないような発言をした。それは彼が、キアラに夢中になっていることに他ならない。

 こちらを見つめるオズベルトの熱い視線を受け止めながら、キアラは心の中でほくそ笑んだ。

 同時に、もうここにはいない四人目の聖女を思い出し、浮かんだ疑問を口にする。

「そういえば……前神官長であるネルロ様は、今どうなさっているのですか?」
「ああ、あいつか……」

 うっとりとキアラを見つめていたオズベルトの瞳が、不快そうに細められた。大きくため息をつくと、憮然とした様子で両腕を組む。

「今でもセレスティアルのことを、聖女だと主張している。全く……何を考えているのだろうな。本物の聖女だというのなら、何故聖女の儀式を受けさせなかった、と訊ねたら、あろうことか、『本物の聖女には、儀式は必要ない』と言ったのだ」
「まぁ……一体どうなさったのでしょうか……ネルロ様は素晴らしい方でしたのに……」

 キアラは大げさに目を見開き、哀れみの表情を浮かべた。そんな彼女を見て、さらにオズベルトが怒りをあらわにする。

「まるで儀式をした聖女たちが偽物のような発言だ。神官長を務めた人間の発言だとは思えない。君たち聖女たちが、この国を守っているというのに。そこそこの歳だからな。耄碌したのだろう。それか……」

 オズベルトの瞳が鋭く光る。

「あの偽聖女が、よからぬことをネルロに吹き込んだか」
「……それは、あり得ますね」
「今思えば、追放では生ぬるかったかもしれないな。民衆の前で死刑にすれば良かった」

 組んだ両腕を解くと、オズベルトは視線を上に向けながら、大きく息を吐き出した。

 判断を誤ったと後悔する王太子に、キアラは立ち上がると彼の横に屈み、膝の上に乗っていた彼の手の上に、自分の手を置いた。
 真剣な表情を浮かべ、オズベルトを真っ直ぐ見据える。

「結界の外は、人が生きられぬ場所。きっとあの偽物は、死ぬまでの間、熱さと飢えで苦しみ、いっそひと思いに殺して欲しいと願うほどの苦悶の中で死んだでしょう。殿下の判断は、間違っておりません」
「……そう言ってくれると、嬉しいよ、キアラ」

 キアラの手を握り返すオズベルト。
 手を握ってない逆の手が、キアラの頬に触れた。

 そして微笑みの中に、相手を求める強い渇望を見せながら、口を開く。

「君こそが、私の聖女だ。どうか、私の妻となってくれないか?」
「えっ?」

 心の中で、これまで王太子妃の座を手に入れるための苦労が実を結んだことに、拍手喝采をしながら、キアラは大げさに目を大きく見開いた。
 今まで鏡の前で何度も練習し、研究を重ねた方法で、瞬時に瞳を潤ませると、深く頷く。頷くと同時に、瞳からポロッと涙が零れたが、これも計算の内だ。

 涙を流すキアラに、オズベルトが微笑む。

「泣いて喜んでくれるなんて、嬉しいよ、キアラ」

 演技を真実だと受け取り、自分の申し出が受け入れられたと思ったオズベルトの顔が近づく。

 キアラは瞳を閉じると、そのときを待った。

 自身の身体が、理由の分からない疲労感と倦怠感に浸食されていくことに、気づかないふりをしながら……
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