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第24話 祖国にて4(別視点)
「……ど、どういうこと? これは一体どういうこと!?」
悲鳴に近いキアラの叫び声があがった瞬間、鏡に小瓶が投げつけられた。激しい音を立て、鏡が粉々に砕け散る。
「ど、どうなさいましたか、キアラ様!!」
鏡が割れる音を聞きつけた神官たちの声と、鍵がかかったドアを打ち鳴らす音がしたが、キアラが、
「なっ、何にもないわ!! 部屋に入ってこないでちょうだい!!」
と怒鳴り返すと、声も音もおさまった。
ドアの前から、神官たちが何かを話ながら離れていくのが分かった。
静けさが戻った部屋の中にあるのは、両手で顔を覆い、床にへたり込むキアラと、粉々に割れた鏡だけ。
しばらくして、キアラが動き出した。
顔を覆っていた両手を、自分の前にかざすと、呻き声のような声をあげた。目の前にある自分の手を握ったり開いたり、手の平を返しながら、見間違いではないかと何度も確認をする。
皺が深く刻まれた、両手をーー
肌荒れを意識し出してから、高価なクリームで毎日欠かさず手入れをしていた。しかし肌荒れは治まらず、次第に張りのあった肌にくすみと皺が現れてきたのだ。
そして今では、まるで老婆のような手になっていた。
変化が現れたのは、手だけではない。
キアラはゆっくりと立ち上がると、割れた鏡に近寄った。大きくひびが入った鏡に、たくさんの自分の顔が映し出される。
目元、
口元に、
深い皺が現れた顔が。
ひっ、と息を吸い込むと、鏡から目を背けた。
キアラはまだ二十一歳だ。
手や顔に皺が刻まれるような年齢ではない。
なのに鏡に映った顔はどうだ。
二十代とは思えないほど老けて見える。大きな子どもがいると思われてもおかしくない容貌だ。
不安と恐怖が胸の中をかき回す。
耐えきれなくなったキアラは、足下に転がっていた化粧水の瓶を、再び鏡に投げつけた。
だがそれは大きく外れ、壁に当たり、鈍い音を鳴らしただけだった。
ひびわれた鏡の中には、顔面蒼白になったキアラのたくさんの顔が、こちらを見つめ返していた。
足下がよろけた。
しかし両膝に力が入らず、無様に床に倒れてしまう。起き上がろうとしたが、変な体勢で倒れたせいか、痛みのせいで立ち上がれない。
身体にも力が入らない。
常に、重い疲労感が身体にのしかかっている。
怪我もしやすくなり、さらに怪我をしても治りが遅くなった気もする。
そんな体調の変化に不安を抱く中、表だって現れてた今回の異変。
「一体……一体、どうなっているというの……?」
そういえば最近、ベアトリスとロディシアの姿も見かけなくなった。
供儀の際には顔を合わせるが、いつ頃からか二人とも、口元を覆う布を着けたり、目元を覆うほどの深い帽子を被るようになったため、きちんと顔を合わせる機会もなくなっていたのだ。
まあキアラも、自身の体調の変化を悟られたくなくて、極力二人と接する機会を減らしていたせいもあるのだが。
あの二人も同じような現象が起こっているのだろうか?
だがそれを確認する勇気は、キアラにはもてなかった。
万が一、この異変が自分だけであることがわかり、オズベルトとの婚約が破談になるのが怖かったからだ。
そのとき、
「キアラ様。オズベルト殿下がお見えになっておりますが……」
少しためらいがちな世話役の声が、ドアの外から聞こえてきた。
それを聞き、キアラはハッと顔を上げる。
しかし両足に激痛が走り、立ち上がることも出来ない。
少し考え、キアラは苦渋の決断を下した。
「私、体調が優れないの。申し訳ないけれど、オズベルト殿下には今日はお会いできなことをお伝えして。そして私の家の医師を呼んでちょうだい」
婚約者となったオズベルトは、キアラに夢中だ。
一度断っただけでキアラを嫌いになることはないだろう。
今はオズベルトのことよりも、この異変をどうにかしたかった。
世話役は承知したことを告げると、立ち去っていった。
遠ざかる足音を聞きつつキアラは大きく息を吐き出すと、床を這い、なんとかベッドに上がった。そしてスカーフで、深く皺が刻み込まれた口元を覆った。
しばらくして、部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします、キアラ様」
キアラ専属の医師がやってきたのだ。
幼い頃からキアラの体調を診てきた、信頼出来る人間だ。彼にならば、キアラの体調不良について相談しても、広まる恐れはない。
医師は、合鍵で部屋の中に入ると、さっそくキアラの診察を始めた。
彼女の肌や顔、それ以外の箇所を診ていくにつれて、医師の表情がみるみるうちにこわばっていく。額にうっすら汗を滲ませながら、時折、
「こんな……ことが……」
と、驚きの声が洩らす。
中々診察を終えない医師に、不安が限界を超えたキアラが堪らず叫んだ。
「一体何なの? 私の身体は、一体どうしたっていうの!? 一体私は何の病気にかかったというの!?」
キアラの金切り声を聞き、医師は彼女の存在を思い出したのか、ためらいがちに口を開いた。
「い、いえ、お嬢様。これは病気……というわけではないのです」
「病気では、ない?」
「はい、これは……」
医師は、恐怖を滲ませた瞳をキアラに向け、静かに告げた。
「老化、でございます、お嬢様」
悲鳴に近いキアラの叫び声があがった瞬間、鏡に小瓶が投げつけられた。激しい音を立て、鏡が粉々に砕け散る。
「ど、どうなさいましたか、キアラ様!!」
鏡が割れる音を聞きつけた神官たちの声と、鍵がかかったドアを打ち鳴らす音がしたが、キアラが、
「なっ、何にもないわ!! 部屋に入ってこないでちょうだい!!」
と怒鳴り返すと、声も音もおさまった。
ドアの前から、神官たちが何かを話ながら離れていくのが分かった。
静けさが戻った部屋の中にあるのは、両手で顔を覆い、床にへたり込むキアラと、粉々に割れた鏡だけ。
しばらくして、キアラが動き出した。
顔を覆っていた両手を、自分の前にかざすと、呻き声のような声をあげた。目の前にある自分の手を握ったり開いたり、手の平を返しながら、見間違いではないかと何度も確認をする。
皺が深く刻まれた、両手をーー
肌荒れを意識し出してから、高価なクリームで毎日欠かさず手入れをしていた。しかし肌荒れは治まらず、次第に張りのあった肌にくすみと皺が現れてきたのだ。
そして今では、まるで老婆のような手になっていた。
変化が現れたのは、手だけではない。
キアラはゆっくりと立ち上がると、割れた鏡に近寄った。大きくひびが入った鏡に、たくさんの自分の顔が映し出される。
目元、
口元に、
深い皺が現れた顔が。
ひっ、と息を吸い込むと、鏡から目を背けた。
キアラはまだ二十一歳だ。
手や顔に皺が刻まれるような年齢ではない。
なのに鏡に映った顔はどうだ。
二十代とは思えないほど老けて見える。大きな子どもがいると思われてもおかしくない容貌だ。
不安と恐怖が胸の中をかき回す。
耐えきれなくなったキアラは、足下に転がっていた化粧水の瓶を、再び鏡に投げつけた。
だがそれは大きく外れ、壁に当たり、鈍い音を鳴らしただけだった。
ひびわれた鏡の中には、顔面蒼白になったキアラのたくさんの顔が、こちらを見つめ返していた。
足下がよろけた。
しかし両膝に力が入らず、無様に床に倒れてしまう。起き上がろうとしたが、変な体勢で倒れたせいか、痛みのせいで立ち上がれない。
身体にも力が入らない。
常に、重い疲労感が身体にのしかかっている。
怪我もしやすくなり、さらに怪我をしても治りが遅くなった気もする。
そんな体調の変化に不安を抱く中、表だって現れてた今回の異変。
「一体……一体、どうなっているというの……?」
そういえば最近、ベアトリスとロディシアの姿も見かけなくなった。
供儀の際には顔を合わせるが、いつ頃からか二人とも、口元を覆う布を着けたり、目元を覆うほどの深い帽子を被るようになったため、きちんと顔を合わせる機会もなくなっていたのだ。
まあキアラも、自身の体調の変化を悟られたくなくて、極力二人と接する機会を減らしていたせいもあるのだが。
あの二人も同じような現象が起こっているのだろうか?
だがそれを確認する勇気は、キアラにはもてなかった。
万が一、この異変が自分だけであることがわかり、オズベルトとの婚約が破談になるのが怖かったからだ。
そのとき、
「キアラ様。オズベルト殿下がお見えになっておりますが……」
少しためらいがちな世話役の声が、ドアの外から聞こえてきた。
それを聞き、キアラはハッと顔を上げる。
しかし両足に激痛が走り、立ち上がることも出来ない。
少し考え、キアラは苦渋の決断を下した。
「私、体調が優れないの。申し訳ないけれど、オズベルト殿下には今日はお会いできなことをお伝えして。そして私の家の医師を呼んでちょうだい」
婚約者となったオズベルトは、キアラに夢中だ。
一度断っただけでキアラを嫌いになることはないだろう。
今はオズベルトのことよりも、この異変をどうにかしたかった。
世話役は承知したことを告げると、立ち去っていった。
遠ざかる足音を聞きつつキアラは大きく息を吐き出すと、床を這い、なんとかベッドに上がった。そしてスカーフで、深く皺が刻み込まれた口元を覆った。
しばらくして、部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします、キアラ様」
キアラ専属の医師がやってきたのだ。
幼い頃からキアラの体調を診てきた、信頼出来る人間だ。彼にならば、キアラの体調不良について相談しても、広まる恐れはない。
医師は、合鍵で部屋の中に入ると、さっそくキアラの診察を始めた。
彼女の肌や顔、それ以外の箇所を診ていくにつれて、医師の表情がみるみるうちにこわばっていく。額にうっすら汗を滲ませながら、時折、
「こんな……ことが……」
と、驚きの声が洩らす。
中々診察を終えない医師に、不安が限界を超えたキアラが堪らず叫んだ。
「一体何なの? 私の身体は、一体どうしたっていうの!? 一体私は何の病気にかかったというの!?」
キアラの金切り声を聞き、医師は彼女の存在を思い出したのか、ためらいがちに口を開いた。
「い、いえ、お嬢様。これは病気……というわけではないのです」
「病気では、ない?」
「はい、これは……」
医師は、恐怖を滲ませた瞳をキアラに向け、静かに告げた。
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