虚弱体質な偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の聖女になりました

・めぐめぐ・

文字の大きさ
29 / 42

第29話 閑話2 ~レイの反省会~(別視点)

しおりを挟む
 会議が終わり、議事録で振り返りをしていたルヴィスの耳に、両肘を机につき、合わせた両手を口元に当てたまま瞳を伏せていたレイの低い声が届いた。

「ルヴィス、今から俺は反省会を開くぞ」
「しらん、一人でやれ。私は休む」

 親友という関係だからこそ出来る容赦ない拒絶に、赤い双眸をこれ以上ないほど見開きながら、レイは立ち上がった。

「最近冷たすぎないか、お前!!」
「どうせ、セレスティアル様とのことだろ?」
「な、何で分かった? え、なに、お前、俺の心が読めるの、か? こわっ……」

 まだ話してもいない反省会の議題を言い当てられ、顔を強ばらせながらレイが後ずさる。

 ドン引きする親友を一瞥すると、ルヴィスは大き過ぎるため息をついた。

 だがしかし、レイとは長い付き合いだ。面倒くさい気持ちを全面に出しながらも、手元の議事録を一つにまとめ、机に片肘をついた。とりあえず聞いてやるという言葉を、目線で伝える。

 ルヴィスの温情を感じ取ったのたろう。レイは椅子に下ろすと、合わせた両手の指先を先ほどと同じように口元に当て、僅かにかすれた声色で話し出した。

「俺、会議の休憩中にセレスティアルに、好きだと告白したんだ。しかし……」
「しかし……?」

 なんとなく先の展開を予想しながらもルヴィスが訊ねると、レイはがっくりと両肩を落とし、机に突っ伏した。

「なんか……感謝されたんだが……」

 そう語るレイの背中には、重々しいオーラが漂っていた。
 親友が見ていないのを良いことに、ルヴィスは、反応を返すのもバカバカしいとばかりに、スンッとした表情を浮かべた。

 だがルヴィスが呆れていることに気づいていないレイは、声を震わせながら僅かな希望に縋るように問う。

「こ、これは……彼女が俺の想いを受け取ってくれた、という解釈でいいんだよな?」
「確信が持てない時点で違うと理解しろ、馬鹿」

 バッサリという擬音が聞こえそうなほど鋭い返答に、レイの心は完全に敗北した。溶けたんじゃないかと思えるほど上半身を脱力した状態で机に突っ伏すと、呻き声をあげている。

 とはいえ、以前はセレスティアルの言葉通り受け取り、キャッキャウフフしていたレイなのだ。あの頃を思うと、大きな成長ではあるだろう。

 そんなことを考えながら、ルヴィスはため息をつくと、レイに近づいた。そして、今まで以上に落ち込んでいる彼の肩にポンッと手を置くと、諭すように言った。

「これで分かっただろ? 『好き』などという大切な言葉を言いまくっていたら、相手が本気だと受け取ってくれなくなることを」

 ましてや相手は、自己肯定感の低いセレスティアル。
 他人からの好意に慣れていない彼女が、レイの言葉を本気にとるとは思えない。

 机の上で溶けていたレイが、形を取り戻した。ゆっくりと顔を上げ、ルヴィスを睨み付ける。

「で、でも……おかしくないか? 好きなものを好きと言って、何が悪い?」
「別に悪いわけじゃないが、相手との関係性やタイミングというものもあるだろ。それに恋愛にはな、駆け引きだって必要なんだぞ」
「は? 駆け引き? なんだそれは。好きなものを好きだと伝えるのに、何故そんなものを気にしないといけない?」

 レイはそう弱々しく呟くと、

「もうどうしたらいいのか……分からん……」

 と再び机の上で溶けてしまった。

 その言葉、そっくりそのままお前に返したいと思いながら、ルヴィスは親友を見下ろす。

 呻き声を上げながら頭を抱えていたレイの動きが、突然ピタリと止まった。溶けていた上半身が再び形を取り戻す。

「そう、か……そうだった、の、か……」

 レイ呟きがだんだんと大きくなり、声色に力が漲っていく。そして、ダンッと机を強く叩きながら立ち上がると、ルヴィスを見た。

 ……どこか焦点が合わない虚ろな瞳で。

 それを見た瞬間、ルヴィスは悟った。

(あ、こいつ……考えるのを止めたな)

 と――

「お、俺は気づいたぞ、ルヴィス! 俺が抱く好意をセレスティアルからも返して貰いたい下心が俺にあるからややこしいんだ!」
「はっ?」
「……そうだ、俺が愚かだったんだ。例えセレスティアルが俺と同じ気持ちでなくても、好きを伝えて返ってくる言葉が、俺への感謝であっても、俺が彼女に好きを伝えては駄目な理由にはならない。だろ? ルヴィス」
「えっ、あー……」
「それに、恋愛の駆け引きなどというでセレスティアルへの気持ちを伝えるのを止めたら、俺は死ぬときに間違いなく後悔する。だから俺はこれからも、セレスティアルに『好き』を伝え続けようと思う」
「あ、うん……まあそこまで言うなら……がんば、れ?」
「心配してくれてありがとうな、ルヴィス。お前のことも親友として好きだぞ? 信頼している」
「あ-、うん……あー……そうか……」

 相変わらず焦点が合わない瞳をぐるぐる回しながら熱弁する親友を見て、ルヴィスは心底呆れるしかなかった。 

(まあ……こいつに恋の駆け引きなどという高度なことは無理だよな……)

 と思いながら。

 考えることを放棄し、自身の感覚に従うことにしたレイに挨拶をし、ルヴィスは執務室を出た。

 廊下を歩きながら、レイとセレスティアルのその後を想像する。

 レイは今まで通り、セレスティアルに好意を伝え続けるだろう。そしてセレスティアルはそれをただの社交辞令ととり、本気にしないだろう。

 セレスティアルが特別なわけではない。
 開けっぴろげに異性への好意を口にするレイに、デリカシーがないのだ。

 とはいえ、悪役国王を演じたのにすぐに皆に見破られてしまったあの馬鹿正直なレイにデリカシーを求めるなど、どだい無理な話だ。 

 レイの想いが本当の意味でセレスティアル様に伝わるのは、いつになるだろうか。

(その頃にはお互い、歳をとっていそうだな……)

 年老いてもなおもすれ違い続ける二人を想像し、小さく笑ったルヴィスだったが、ふと足を止めた。

 レイはルミテリス国王だ。
 ルミテリス王家直系の人間として、王家の血を次に繋げる役目がある。

 セレスティアルと出会う前のレイであれば、政略結婚も王の役目として受け入れただろう。しかしセレスティアルを好きになってしまった今、別の女性と政略結婚をして子どもを作るなど……

(あの正直馬鹿が出来るわけがない……)

 下手をすれば、直系の血がここで途絶えてしまう。

 ルヴィスは頭を抱えると呟いた。

「これは……ルミテリス王家の危機……では?」

 セレスティアルが現れたことで国が救われたというのに、セレスティアルが現れたことで王家の血筋が絶えようとしている。

(一難去ってまた一難とはこのことか……)
 
 胃がキリキリ痛み出した。

 今日一日の中で一番深いため息をつくルヴィスだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。 薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。 しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。 彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。 拒絶されるも、シルヴィアはめげない。 壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。 「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」 ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。 二人のラブコメディが始まる。 ※他サイトにも投稿しています

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

処理中です...